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『犬神家の一族』感想(ネタバレ)

クリスマスイブ、加藤シゲアキを金田一耕助役に据えた『犬神家の一族』ドラマを見た。
市川崑の1976年版『犬神家の一族』をホーフツとさせるシーンの数々に、市川版が見たくなってクリスマスは『犬神家の一族』(1976年)を見、犬神クリスマス2デイズとなった。

市川崑監督『犬神家の一族』(1976年)は、昭和のかほりを堪能できる映画として、己の子供時代のトラウマチックなノスタルジーの象徴として、お堂の中の金銅仏のごとく鈍い輝きを放っている。
これは好きとか嫌いの問題じゃない、刷り込みですわ。

数ある市川・金田一ものの中でも注目作の呼び声高き本作。
湖面からニョッキリ突き出たスケキヨの脚とか、菊人形に生首とか、日本家屋の奥座敷とか、こだわりまくったビジュアルが凄い。1970年代当時は斬新でスピーディーな演出で注目された市川崑。そこに残虐・血まみれスプラッターを盛り込みまくって、更にエキセントリックでスキャンダラスな仕上がりになっている。

それらを支える俳優たちも素晴らしい。
金田一役の石坂浩二はやさしい風貌の2枚目だが、オットリとした喋りで鋭い質問や考察を繰り広げる様が痛快。ヘアスタイルの唯ならぬカツラっぽさは、後の金田一像に影響を与えていると思われる。

その金田一を凌ぐ勢いで、圧の高い存在感を醸し出す高峰三枝子が凄まじい。「病院坂の首縊りの家」の佐久間良子も捨てがたいが、やはりトップオブトップは高峰三枝子だと、私ゃ思うんじゃがのう。
ヒロイン役の島田陽子も原作通りの「絶世の美女」オーラ出ております。

そんなこんなの雰囲気とビジュアルの圧倒的パワーで市川映画版『犬神家』を特別視していた私、改めて見直してみると以前から腑に落ちなかった部分にきちんと理由づけがあったことに気づいた。

・神主と佐兵衛の肉体関係→神主の妻と佐兵衛の肉体関係という背徳的関係の背景、各人の心情がよくわからない。
・松子・竹子・梅子の母を佐兵衛が愛さなかったのがなぜかわからない。
・松子・竹子・梅子が青沼菊乃・静馬親子に対してあれほど残虐にふるまえたのはなぜか。性格異常なのか。

神主・野々宮大弐に犬神佐兵衛は17歳で拾われて世話を受けた。やがて俊敏な性質とその類稀なる美貌を愛でた大弐と佐兵衛のあいだに衆道のちぎりが結ばれた。その後ふたりの間に肉体関係はなくなったが、精神的主従関係のようなものは続いた。(ココ重要)

独り立ちした後も親しく出入りしていた神主宅で、佐兵衛と大弐の妻・晴世との間に恋が芽生え、肉体関係を結ぶに至る。この関係を大弐は許した。その理由は「大弐は女性への愛欲を持てない質で、晴世を肉体的に愛さなかった。長く処女妻で置いた彼女への贖罪の思いもあったのか、晴世と佐兵衛の関係を許し守った」と野々宮家末裔の神主(大滝秀治)が金田一に打ち明けるシーンがあった。

小説を読んでみると、佐兵衛の美貌を強調し、男色の大弐が彼になびいたこと。その後の佐兵衛が大弐への恩を忘れず尽くした様も繰り返し描写されている。
衆道の関係というのが佐兵衛が大弐に一方的に強要されたものでなく、江戸時代の年長者が年少者を指導・愛育したそのままの意味の関係で本人たちにとって大変大事な関係であった事がわかった。

70年代に、成人男子から未成年へ関係を持つ状態は淫行であり虐待であるという認識になったかもしれない。だから、この2人の関係を正しく読み取ることは自分には難しかった。「衆道ってナニ?」ってなもんで。

そこが理解できると、佐兵衛がのちに正式な妻をもたず、ただ男の生理を満たし愛情を他に注がぬよう晴世に操だてをしたのも、なんとなく理解できる。

またその結果、松子ら三姉妹が佐兵衛の心の在りかに躍起になって対抗しようとした姿も、ただ欲に駆られた醜いものだけではないと思える。

戦前と戦後の倫理観の変化を実感できる所かもしれない。
横溝正史と『新青年』で探偵小説ジャンルを牽引した江戸川乱歩は、衆道研究者・岩田準一に頼られ、南方熊楠を紹介したりしている。(『南方熊楠男色談義ー岩田準一往復書簡』/八坂書房)
その本を読んでみたが、熊楠の口ぶりからも、すごく特異な話題という感じは受けない。

映画では佐兵衛側の事情は多くを語らず、男の道具として利用された女達の怨念をクローズアップして、おどろおどろしさを増幅し、悲劇的な愛憎劇を演出し成功した。
「獄門島」や「悪魔の手毬唄」でも、酷い扱いを受けた女達の怨歌と、我が子への愛が物語の背景に埋め込まれている。
それが市川・金田一映画の、美しく艶めかしくおぞましい音色の発生源なのだろう。

横溝正史の原作と市川崑の映画は、微妙に物語の軸を異にしている。それは時代による一般的認識や欲求の移り変わりにつれて、変わっていくものなのだろう。
平成最後の金田一はどうだったであろうか。

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