職業、女。#15 孤独と欲望と男は幸せの構成要素。

 『旅情』(1955年公開、デヴィット・リーン監督)を観た。

 キャサリン・ヘップバーン演じるアメリカ人女性ジェーンは38歳。ヨーロッパをひとりで巡ってきたジェーンは、最終目的地ベネツィアに着いて、ロッサノ・ブラッツィ演じるイタリア人男性レナードと出会う。

 レナードは「自称・妻とは別居中」の既婚者。その事実もジェーンから問い質されるまで、告白しようとはしない。ジェーンは真実を知って怒り狂う。

 それでもレナードは「既婚とか独身とか関係なく、僕たちは男と女だ。もっと素直になりなよ」とジェーンを諭しにかかる。「肉がないならラビオリを食べろ」的な言葉も名言ではないか。魅力を感じ合った男女が理性を放り捨てて、本能に正直になる瞬間は、ダメだなぁなんて思わない。その動物っぽさこそが、人間らしくて好もしい。

 女のひとり旅ーーこれは孤独を味わい尽くすためだけのものではない。もちろん誰にも邪魔されず、思慮に耽りたい人もいるけれど、ジェーンは心の片隅でロマンスを求めていた。レナードが独身ではないと知ってからは「ひとりの男すら獲得できないのよ」とバーで愚痴るほど。

 ジェーンより一回り以上若いけれど、私も24歳のとき、ひとりでドバイに行った。表向きには「転職前に気分をリセットする目的」としつつ、内心ではロマンチックな出来事を欲していた。

 結果、同じホテルに滞在するフランス人男性と食事をしたり、Facebookを交換したりと、求めていた濃厚なロマンスには到底及ばないものの、「期間限定・男友達」は手に入ったのである。

 『旅情』を薦めてくれたダンディーな男性に、感想とお礼をメールするとすぐに返信が来た。「『旅情』は大人の女性だからわかるんだよ。孤独と欲望と男といる幸せを知っていないと、あの作品は味わい尽くせない」。

 恋愛して、結婚して、離婚して、孤独に戻り、同時に「自由」を楽しんでーーそんな私は大人の女性なのかしらん、と持ち前のポジティブ思考でプラスに解釈し、ニヤリとする自分がいた。5月には30歳になる。30代の年も素直に生きていきたい。

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