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「ここから消えたい」と望んでいた17歳のあなたへ、34歳の私からの手紙。

こんにちは、私は今年35歳になるあなたです。17歳、高2だったあなたは「この世からいなくなりたい」と毎日のように願っていたよね。1年前まではクラスに友達がいてバカ話をしたり、男子Aくんから話しかけられる機会が増えるにつれて好きになったり、そこそこ幸せな高校生活を送っていたわけだから、天国から地獄へと不意に落下したような感覚だったと思う。クラスに友達と呼べる人がひとりもいなくなるなんて想像もしてなかったよね。

誰ひとり、あなたをいじめていない。だけど、あなたはその場に溶け込めなくて、気づけば時間が経っていて、「もう間に合わない」状態になっていた。誰とも軽口をたたけないくらいになっていた。心から笑うこともなかった。用件以外を話さないことが当たり前になった人たちと打ち解けるのは、決して簡単なことではないです。今34歳の私が当時のあなたと同じ状況であっても厳しいよ。過ごした時間は巻き戻せない。

だからあなたは17歳からの2年間、同じクラスにリラックスして話せる相手をひとりも持たなかった。授業中は学びに集中すればいい。でも休み時間をひとりで過ごすのが苦痛で、図書館やPCルームにそそくさと避難していた。あなたはクラスメートにとって透明人間みたいな存在だったから、ひとりで読書をしようが、宿題をしようが、机に突っ伏して寝たフリをしようが、早弁をしようが、クラスの誰ひとりとして気にかけなかったし、話題にもしなかったはずなのだけど、なぜかいたたまれない気持ちになっていたのだよね。誰もあなたを見ていないし、注目もしていないのに、おそろしく自意識過剰。そんな時期があったんだね。

あなたは修学旅行に行かない、という選択をした。旅先で、精神的な孤独を数日間に渡って感じ続けるのを想像すると、一夜にして白髪になってしまいそうだったし、何よりどこかのグループに混ぜてもらうのが申し訳なかったんだよね。数人の仲良しグループの中に、クラスで明らかに浮いている異分子がひとり入り込む——グループの調和を乱すこと、皆に気を遣ってもらうことも避けたかった。皆と関わらない透明人間であれば問題はないけど、関わるとなると迷惑な存在に早変わりする。だからなんとかして行かないで済む理由を考え抜いた。確か学校には「家が貧乏でお金がないから修学旅行には行けないんです」と伝えたんだっけ? 家は裕福ではなかったし、父親は早期退職していたものだから、すべてが嘘ではないけれど、修学旅行費用は捻出してくれたと思う。親には「お金がもったいないから行かなくていい」と言ったんだっけ? 先生は可哀想にという目をしただけで、何も言わなかったし、何人かがお土産を買ってきてくれた。親はあなたが学校を楽しんでいないのをわかっていたのだろうか。無駄に心配をかけたくないから、友達がひとりもいなくて学校が楽しくないなんて、伏せておいたけれど。ただ、行かなかったのは正解じゃないかな。「自分の心を守るために逃げること」も必要だと知ったのはそのときよね。

この世からいなくなる方法を調べたけれど、それは案外難しいことなのだと悟ってから、地元を飛び出すのがベターだと考えるようになったんだよね。地元を出て自分を知らない人しかいない場所で暮らし、生き直したい。人生をリセットしたい。そう思って東京に出てきた。それは結果的に正解だった。

あのとき、自分が生きていた狭い範囲の世界に絶望していたあなた。でも、いなくならなくて良かったと思うよ。大人になってからのあなたは、身の回りの世界を拡張することができたし、自由に生きているし、面白い経験をし続けているし、楽しく過ごせる人たちがいるし、何より毎日たくさん笑っている。顔に貼り付けた嘘の笑いじゃなくて、本気の笑いだ。笑いたくないときは笑わないから。10代で生きていた世界は本当に小さかった。世界はあなたが軸足を置いていた場所だけじゃなかった。だから、あのとき、消えることを諦めて、生きることにして良かった。

2021/2/11

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この文章は、友人と「友達」について語った際、大昔のエピソードに話が及び、17〜18歳でクラスに友達がひとりもいなくてつらかった、という話をしたところ「それ書いたら? 読んで勇気が出る人がいるかもしれない」と言われたのを機に書いたものです。私事であり、人によっては「全然辛くないじゃん」と感じられるかもしれません。ですが、今辛さを抱えている人のうち、ひとりでも「今触れている世界がすべての世界ではない」と思えて、ささやかな希望を持っていただけたらいいなと考えています。

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