【小説】騒音の神様-15-神様、商店街でカラーテレビに夢中になる

神様は万博造成現場に行った次の日、電車に乗って大きな商店街に来ていた。人々は歩き、また自転車に乗り商店街を行き来している。お母さんが乳母車(うばぐるま)を押している。乳母車に乗っている小さな子供は人差し指を突き出し、何か必死になって声を出している。神様は、「かわいいなあ、小さな子供はすぐに指さすんだ。かわいい指をぴんと伸ばして。そしてお母さんに必死に話しかけるんだ。いつの時代も一緒だ。かわいいなあ。」神様は商店街を歩きながら、小さな子供の元気な音をたくさん聞いてとても幸せな気分だった。八百屋の前や、魚屋の前を通ると独特のしゃがれ声で店員が客を惹きつけている。「らっしゃい、らっしゃい、アジが安いよ、良いアジ入ってるよ見てってね、らっしゃいらっしゃい」神様は、この声を聞いて「この活気あるしゃがれた声も長く変わらんなあ。いいもんだなあ」と思った。しばらく色んな店や子供の音、商店街の活気を楽しみながら歩いていると人だかりが見えた。「テレビや、カラーテレビ。わしも見ていこ。」神様はテレビが大好きだし、チャンスがあれば必ずテレビを見ていた。今日は、ニュースで海外のことを放送していた。神様は思った「テレビは凄いなあ。日本のことだけでなく、遠い海のむこうのことが目に見える。戦争にしろ、暗殺の大事件にしろ、流行りの歌にしろ。海外のことなんて、一昔前はなんにも見えなかった。ペリーが来たときも、アメリカのことなんて誰も知らなかったし、目に見えんかった。それがこうして目に見えて、音が聞こえる。遠い戦争の音も届く。すごい時代が来たなあ。」神様は関心しながらしばらくカラーテレビに釘付けになった。それから「わしもテレビが欲しいなあ、」と思って電気屋に入り、テレビ以外にも新しい時代の機器、電気製品に見入って飽きることがなかった。ラジオ、洗濯機、クーラー、カラーテレビ。電気屋の中のカラーテレビでは人気の漫才師が映っていた。神様は「春山やすしたかしか、この人達はおもろいなあ」とまたテレビに見入り、漫才師の春山やすしたかしの人気の言葉「それなんぼやねん、いやなんでやねん」と言うツッコミが入ると、他の客や店員とおおいに笑った。商店街での楽しい時間はあっという間にすぎて行き、気がつけばもうすぐ夕方だった。

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