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インセンティブが逆効果になるケース

とある社長の悩み

とある運送会社の社長の悩みを聞いていた。
彼曰く、ドライバーが入ってきてもすぐ辞めてしまうんだそうだ。
彼は、毎月かなりのお金をかけて求人専門の検索エンジンに募集広告を出している。その採用コストを無駄にしたくないのは当然だろう。

…しかし、彼が実施しようとしている離職対策を聞いて、ボクは慌ててそれを全力で制止した。

その社長は何をしようとしていたか

彼はドライバーの勤続年月にインセンティブを付与しようとしていた。
具体的には、ドライバーが仕事(契約)を半年継続するごとに、数千円ずつ契約単価を上乗せし続けるというものだ。ボクは他人事ながらちょっとゾッとした。

プリンシパル=エージェント理論

プリンシパル=エージェント理論という考え方がある。
プリンシパルとは雇い主・教師・親のことを指し、エージェントは従業員・生徒・子供などを指す。プリンシパルは本質的に自分の望むことをエージェントにさせようとするが、エージェントはプリンシパルからの要求よりも、自分の好ましいことを優先させようとするので、必然的に両者の関係は非常に微妙なものなる。
その関係性において、プリンシパルがインセンティブを提示するというのは、エージェントに対して「この仕事はあなたにとって好ましくないものです」というメッセージを送っているのと同じことになる。そう、インセンティブを提示することによって、エージェントはその仕事に就く前から、それが「皆が嫌がる仕事だからインセンティブが付く」のだと無意識に勘づいてしまうのだ。

ブライアン・ナットソンの研究

アメリカ国立アルコール乱用・依存症研究所の神経科学者だったブライアン・ナットソンが行った実験によると、金銭を賭けるゲームにおいて、勝負に勝って現金が手に入りそうだと自覚する(報酬を期待する)とき、脳の中の側坐核と言う部分が活性化する(ドーパミンが一気に分泌される)ということが分かった。
怖いのは、インセンティブの期待感も「賭けにおいて勝てそうだと思ったとき」と同じ反応が起きるということだ。それはアルコールや常習性薬物に依存するメカニズムと非常に似ているのだ。

このインセンティブが悪手である理由

例の社長がやろうとしていたインセンティブ(半年業務を続けたら数千円を上乗せするという施策)が、なぜ悪手であるかをまとめるとこうなる。

1. ドライバーは初めから自分の仕事に悪い印象を持ってしまう
2. ドライバーが何の努力をしなくとも昇給し続けてしまう
3. 徐々にコストが上がり、何も投資ができないまま利益が圧迫されていく

お分かりだろうか。
このインセンティブ施策でドライバーは辞めなくなるかもしれないが、(長い期間をかけて)モチベーションが低く、改善意欲もなく、コストだけ高い…という最悪のチームが出来上がってしまう可能性が高い。そしてドライバーも経営者も薬物依存のような状態になり、いつか行き詰ってしまうことになるだろう。

正しいインセンティブの使い方

大前提として、基本的な報酬ラインは公平でなければならない。
それが公平でなければ、不安や不満が蔓延することになる。
その上で、インセンティブはルーティーンワーク部分だけに付与すべきで、マニュアル通りに行わなければならない(退屈な)作業を、決められた時間の中で、一定の基準以上の品質で完成させたときにインセンティブを支払うという形にするべきである。


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