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誰が「物流」を殺すのか - ①そもそも物流ってなんだ?

さあ、月曜日だ。
月曜日はボクの得意分野の物流について書く日だ。
これまでに、陸・海・空、それぞれの運輸の歴史を書いてきた。

今週から、やっと「物流」について書いていこうと思う。

改めて「物流」とは

最近では、大学の経済学部、流通情報学部、経営学部などで「物流論」や「ロジスティクス論」という科目が置かれていて、比較的多くの人が専攻すると聞いている。また、そういった人たちが大学を卒業すると、物流の現場をより深く知りたいとおっしゃって、日本通運、ヤマト運輸、佐川急便のような大手の総合物流企業に就職される(一部の人はウチの会社にも就職する)ようだ。

日本産業規格(JIS)によると物流は以下のように定義されている。
「物資を供給者から需要者へ、時間的及び空間的に移動する過程の活動。一般的には、包装・輸送・保管・荷役・流通加工及びそれらに関連する情報の諸機能を統合的に管理する活動。調達物流、生産加工、販売物流、回収物流(静脈物流)、消費者物流など、対象領域を特定して呼ぶこともある。」

物流は難解だと誤解されやすい

「物流」という言葉は、欧米で使われていた「Physical distribution」が1970年代に日本で「物的流通」と訳され、それが短縮されて「物流」となったものだ。この「物流」というワードは割とあいまいに使われることが多く、人によって(またTPOによって)物流全般のことを指したり、倉庫部門のことを指したり、輸送部門のことを指したりする。

「物流」がなかなかに難しいのは、対象領域が広範囲であるせいだ。
物流の目的はシンプルで「どうすれば、供給者から需要者へ効率的に物資を移動させることができるか」なのだが、供給者→需要者が「第一次産業の企業→第二次産業の企業」だったり「第二次産業の企業→小売店や通販事業者」だったり「小売店や通販事業者→エンドユーザー」だったりする。また物資自体も、第一次産業の製品と第二次産業の製品ではサイズ感や加工方法、輸送方法が大きく異なる。

物流の6つの機能

物流には6つの機能があると定義されている。
輸配送・保管・荷役・包装・流通加工・情報システムだ。
具体的な内容は以下の通り。
1. 輸配送: 貨物をトラック・船舶・鉄道車両・航空機・その他の輸送機関(自転車やバイク、荷車など)によって、ある地点から他の地点に移動させることを指す。
2. 保管: 物資の品質や数量を、一定の場所で一定の期間、適正な管理の下で蔵置することを指す。
3. 荷役(にやく): 物資の棚卸・積み付け・ピッキング・仕分けなど、主に倉庫の保管部分の付帯(加工)業務を指す。
4. 包装: 物資の価値や状態を維持するために、適切な材料や容器にその物品を収納する業務(およびその技術)を指す。
5. 流通加工: 主に物品を商品に加工する部分を指す。生鮮食品の二次加工・小分け包装・値札付け・組立・塗装などの業務を指す。
6. 情報システム: 上記の1~5の機能を効率化・高度化するための管理システムである。ただ、当然1~5の機能それぞれに特化したシステムが無数に存在し、またそれらを横断的に管理するシステムも存在する。

機能特化型が多い物流企業

物流関連企業は機能に特化している場合が多い。
冒頭で書いた、大学で物流論を学ばれた人が、物流の現場をより深く学ぼうとして「物流関連企業」に就職すると、その機能に特化した部分だけを見ることになり、せっかく系統立てて学んだことを活かすことができなくなるケースが多い。まあ、そこをグッと我慢すれば、その後いろいろな部署やグループ会社に転籍して、場合によっては他の会社に転職して、そうやって何年もかけて自分の手を動かすことによって、現場のオペレーションや管理手法が身に着いてくる。

そのあたりはどの業界も似たようなものだろうけど、物流業界は機能が細分化され過ぎていて、さらに絞り込まれた機能に特化した会社が多いので、「物流」を系統立てて理解している人が極端に少ない。そして、物流を系統立てて理解している人の中で、実際にオペレーションや管理の経験を積んできた人はもっと少ないのだ。

物流は生きており、その大半を人が動かしているので、「物流を理解する」の半分は「ヒトの行動を理解する」になってしまう。なので、学問として理解しただけでは現場を回すことができず、現場を回すことができない人は上に立つことができないという図式になる。それは、物流を系統立てて理解していて、且つ現場経験も豊富な人材が非常に貴重であり、そのナレッジを持っている人は物流業界のどこに行っても成功する、ということを意味している。

機能特化型企業の例

例えば、佐川急便は輸配送に特化した企業である。彼らは「総合物流企業」を謳っており、確かにホールディングス全体で考えてみると、倉庫業(荷役・包装・流通加工)もやっているし、情報システムもやっている。ただしグループの別会社がそれを担っているので、佐川急便としては純粋に運送に特化した会社だ。

また、倉庫事業を行う企業においても、三井倉庫(MFLPなどを展開)や外資系(GLP→シンガポール、プロロジス→アメリカ、ロジポート→イギリス)の物流施設デベロッパーは、大型の物流倉庫を作って、そこにテナントを誘致することを専門とするが、例えば三菱倉庫は自グループ内に貴金属を扱う企業があることから、貴金属専門の保管業務を行っていたりする。同じく、ニチレイやマルハニチロは冷蔵・冷凍に特化した倉庫事業を行っているが、同時に冷蔵冷凍食品の荷役・包装・流通加工業務も行っている。

物流2024年問題は悪なのか

昨今「物流2024年問題」が取りざたされることが多い。
2024年問題とは、ドライバーの残業時間が(年間960時間に)制限されることによって、輸送に必要な人的リソースが不足し、物資の輸送が滞ってしまうリスクのことを指す。

今、物流業界に求められているのは効率化だ。
人口減少の時代において、人の手を介するサービスを一定レベルで維持するためには効率化を進めるしかない。その中で(ボクの印象では)倉庫関連および情報システム(物流の機能の2~6)は比較的効率化が進んでいると思っている。唯一立ち遅れているのが、1. の輸配送の部分だ。

政府が強硬にドライバーの残業時間の上限を設定したことには賛否両論の意見がある。だが、この立ち遅れ感を考えると、こういう荒療治も必要なのかもしれないと考えている。

(続きはまた来週)


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