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キューブリックが語るキューブリック

“鬼才”スタンリー・キューブリック監督の未公開音声を発掘。初期から遺作までの名シーンを選抜。“完璧主義者”で皮肉とユーモアにあふれた映画論を徹底的に語る。 「時計じかけのオレンジ」は英国で上映禁止となり、「シャイニング」は劇場を凍りつかせ、「2001年宇宙の旅」は“最高のSF”として半世紀後の現代も魅力する…自然光を生かした撮影手法や、衣装や舞台装置の“リアルさ”追及の奥義とは? 巨匠と親交のあったミシェル・シマンが秘蔵した音声を、キューブリック財団の監修で公開したドキュメンタリーの書き起こしです。


ナレーション:ミシェル・シメンは10年に渡りキューブリック監督へインタビューを繰り返していました。著書「キューブリック」はその集大成です。気むずかしい監督に受け入れてもらうのは簡単ではなかったのでは?

シマン(評論家):キューブリックは誰も受け入れません。私の場合は我慢してくれたかあるいは一時的に受け入れてくれただけです。友人とは違います。

インタビュアー:記事のチェックは?

シマン:読まないですね。何を話したか、それだけチェックします。


シマン:まず インタビューを受けた動機を聞かせてください。自分の映画は語りたくないはずでは?

キューブリック:私が考える映像美学について語る意味があるとは思わないし、それが可能だとも思わない。それに映画を作った理由を問われ、気の利いたことを言わなければと思うことも面倒なんだ。「博士の異常な愛情」では核戦争「2001年宇宙の旅」では宇宙人の存在・・・「時計じかけのオレンジ」では暴力・・・でも正直 映画を撮る動機は私自身も分からない。自分の思考プロセスを定義するのはとても難しいことだ。どのストーリーを映画にするかというのは なぜその女性を妻にしたのかと同様簡単には説明できない。

シマン:でも数千冊の中から1冊を題材に選ぶのは理由があるはずでは?

キューブリック:自分以外の誰かが書いたストーリーだからこそ初読の喜びがある。物語の期待感や心が動かされる感覚は自分が書いたものからは得られない。

シマン:あなたは徹底的なリサーチにこだわることで悪名高いが?

キューブリック:確かに私は探偵のように細かな調査でヒントを探す。「バリー・リンドン」では何千ものスケッチや絵画を集めた。書店で美術書を買い集め、バラバラにして分類した。映画の衣装はデザインではなく、当時の絵画から忠実にコピーしたんだ。美術学校で学んだ知識を頼りにデザイナーに“18世紀風”の服を作らせるのは愚かなことだ。

シマン:観客が物語に入り込めるように映画はリアルであるべきだと思いますか?

キューブリック:映像の可能性を広げるものには常に興味があるが、リアルの追求だけが目的じゃない。すべての作品が直面するのは見る側に映像は本物だと思わせることだ。時代設定が現代でない場合は特にリアルな雰囲気を作るのが出発点だ。

シマン:自然光での撮影もその理由から?

キューブリック:昔から歴史物の映画の照明はウソくさいと思っていた。

マリサ・ベレンソン(俳優):撮影については他のどの映画とも違っていました。特に照明です。大部分 蝋燭の灯で撮影したんです。キューブリック監督が見つけた機材も使っていました。素晴らしい経験をしましたが大変でした。だって1ミリも動いてはいけないんです。じっと座って照明に付き合うだけの日が何日もありました。

キューブリック:照明やレンズ 構図の知識は映画監督の仕事でも役立っている。「スパルタカス」のカメラマンは私が構図決めに時間をかけるのを不思議に思っていた。彼は“簡単なニーショットだから俳優とリハーサルすれば万事決まる”と言った。構図にこだわる理由を理解していなかった。スチール写真を学んだことが私が映画作りを志すきっかけだった。写真の知識なしで映画は撮れない。

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