太陽は嫌いだ。誰でも簡単に浴びることのできるスポットライト。私はなにもしていない。興味もない他人の話を聞いては相槌をうって、社会の決まりにそってばっかり。私らしさを出せずに、私は人とは違うなんて思いながらなにもできない。一人でただ墓穴をほってまた孤独になっていく。

ただ、今日は違った。今日は日曜日。薄暗い路地で2ヶ月程前に見つけた太陽の当たらない喫茶店。ドアを開けてカランコロンと静寂の中、綺麗に鳴る。

いらっしゃいませ。

少し低い落ち着く声。中には私の嫌いな太陽の光はなく、電球から出る少しぼんやりとした優しい光でつつまれていた。まるでマッチ売りの少女が最後につけたマッチのように、暖かい。

こちらにどうぞ。

私は無言で少したくましく見えるその大きな背中の後をついていった。案内された席はクラゲの入った水槽がよく見える二人用の席。

珈琲をお願いします。

私は水槽という小さな檻の中でも優雅に踊るクラゲを見つめながら珈琲を待っていた。静かな喫茶店の中で水の揺れる音と、珈琲をたてる音が綺麗に重なりあっている。

いれ終わった珈琲を音をたてないように、そっと置いた優しそうな彼は、毎回ように私の前に座った。

今週は何が?

低くて優しい声が私に話しかける。私は少し苦い珈琲を一口飲んだあと、彼のように音をたてないように置いてそっと息をはいた。

今日も私の話を聞いてくれる太陽のような彼に私はなんとなく恋をした。

はじめて太陽を好きになれた。

だから、今日もなんとなく太陽のような彼を好きでいようと思った。

彼は薄暗い、でも暖かい喫茶店で太陽として輝いていた。