死角

死角

 日曜日。ふと目が覚めた。外はやけに明るくて、もう昼かとため息をつく。ちょっとお腹が空いたな。僕はキッチンまで行って冷蔵庫を見た。
「何もないのか。」
 コンビニに行ってお昼ご飯を買うことにした。外に出ると、虚しい風が体を通り抜けた。先週の日曜日も、そのまた前の日曜日も、外はもっと色に溢れていた。人や車、自転車なんか全く通っていない。おかしいなとは思いながらもコンビニに向かう。やっぱり人は居ないみたいだ。電気もついていない。
「おかしいな。この世界には僕以外は居ないのか。」
 あの嘲笑う目も顔も、もう見なくていいのだろうか。そんなことを考えながら、菓子パンを適当にとって、レジにポンとお金を置いた。僕は外に出て、パンを食べながら散歩をすることにした。人間が居ないこの世界はなんて質素で空っぽなんだろう。そう思っていると、ビル街の真ん中の道路で、楽器をくわえた少女が立っているのを見つけた。

 何も聞こえない。どこに行ってしまったのだろう。寂しい無音の空間に、一人置いてかれてしまった。
「探さなきゃ。」
 謎の使命感を覚えた私は外に出た。やっぱ何も聞こえないや。ちょっと散歩してみよう。どこを歩いても音なんかしなくて、遂にこの世の中にまで捨てられてしまったのかと泣きそうになる。ううん。違う。一人になれたんだ。嘲笑う声も何も聞こえない。これ以上の幸せなんかないんだ。そう思った私は、立ち止まってカナリアを奏でた。何もないこの世界に私の音だけが響いていた。でもそこに男の人の靴の音が聞こえたんだ。


『なんだ。僕だけじゃなかったのか。』
 ちょっと残念。
「他に誰かいる?」
 少女は首をふる。ならよかった。でもこれからどうしよう。少女は僕の顔を見て首を傾げている、
「これからどうしよっか?」
 さっきと同様首をふる。誰も居ない世界でこれからどうするべきなんだろう。僕はとりあえず少女の手をとって、歩いてみた。少女は何も言わないし悪いことじゃないみたい。
「旅に出てみようかな。ゲームをしようよ。僕と。」
 少女は頷く。
「弱音を吐いてしまったら負けね。」

 そっからそのゲームが始まった。そっから二人でいろんな所に行った。砂漠とか、海とか。どっちもあまり弱音を吐かない。少女は楽しそうに楽器を吹いているし、青年はそれを笑っている。

ゲームは引き分け。そう見えた。

 青年は耳が聞こえない。少女は目が見えなかった。それぞれ死角があった。青年は、少女が時々、「死にたい」とか、「もう終わりにしたい」そう呟いていることに気づいていなかった。少女も青年が泣いているのを見えていなかった。

 終わらないと思っていたこのゲームは、とっくにもう終わっていたんだ。