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男女の境界線は、もっと曖昧に。なぜ“MEN'S”コスメという表現が「違う」のか。

生まれた時から、私は「女性」という前提の上に自分が成り立っていたのだろうか。身体は女性で生まれて来たけれど、「女性として生きること」の定義は正直、未だにわかっていない気がする。小さい頃から「女の子だから」という言葉が嫌いだった。

「女の子だから、髪は長い方がいい。」
「女の子だから、ピンクのものを。」
「女の子だから、スカートの方が可愛い。」

そんな言葉を聞いては、真逆を行ってベリーショートにしたり青のものばかり集めたり、パンツスタイルばかりを好んだ時期があった。小学校の卒業式、当時はスカートが嫌で「ズボンで行きたい。」って言ったり。今は無くなってしまったけれど、COMME CA BOYSというスポーティなデザインのものが好きだったり。BOYSという言葉が付いていることに、どこか安心感を持っていたりした。だけど今は、美しいレースのものが好きだし、ラインが綺麗なスカートやワンピースには惚れ惚れするし、コスメもジュエリーも大好き。でもそれって、私が「女の子(女性)だから」なのかな。

きっと、違う。今の「私」が何を好み、どんな服が着たくて、どんな自分でいたいのか。きっとそれだけのことだと思う。

NYLON JAPANの2月号。“NYLON GUYS"として登場した超特急が、Diorのリップを紹介し、Twitter上で年始に大きく話題になっていた。海外ではここ数年、男性がユーザーとして、広告塔として出てくることが少しずつ当たり前になってきているのだけれど、日本の雑誌で男性が大々的にリップを身につけて広告ページになっているのは初めて見た。NYLONはNY発のファッション・カルチャー雑誌。今、アメリカでは、「美の基準」が大きく変わろうとしている。NYLON JAPANも、きっとその流れを受けての今回の企画だったのではないかなと。作り手の価値観は、アウトプットに大きな影響を及ぼすから。

ポイントは、コピー。

僕/私をピュアに輝かせてくれる、ディオールアディクトリップマキシマイザー。

主語が男女関係なくなっていること。このニュアンスは、実はすごく大事だと思っている。「男性の僕」「女性の私」ではなく、これは暗に主語が「自分」になっているのだ。余計な説明も、文脈もいらない。本当に「関係ない」ってそういうことなんだと思う。

2018年、シャネルが84年の歴史で初めて男性用メイクアップライン「BOY DE CHANEL(ボーイ ドゥ シャネル)」を発表した。

大手ブランドも、少しずつ“男性向け”のメイクアップラインに参入し始めたのだが、疑問を抱いているのが「男女」でブランドやプロダクトを分ける必要があるのかどうか、分けるべきなのか、ということ。

前回、西武そごうの広告についてを扱った記事の最後に“blur”が今年はキーワードになると思うと書いた。blurとは、境界線を曖昧にすること。ジェンダーについては、ファッションやビューティーとかなり密接に関係しているいるからだと思うけれど、男女の境界線はもはや「必要なし」になろうとしている気がする。

日本ではりゅうちぇるさんに代表されるように、特にInstagram上では、毎日違うテイストのファッションを楽しみ、「男女どちらなの?」という言葉が不毛に感じるくらい「自分」としてのアイディンティを表現している人が増えている。この感覚には、正直かなりジェネレーションの差が感じられると思っている。昨年のForbesの記事に、ミレニアル世代の50%がジェンダーは流動的であると捉えており、一部の人は従来のカテゴリーに属さない、と答えているという調査結果があった。そして、10人に1人のミレニアルが自分をトランスジェンダー、またはジェンダー不確定と考えており、女性用・男性用といった概念が文化的に好まれなくなっていること、ラベルを貼られること自体に好意的ではないということも。

ポイントは、単にFor womenだったものを、For menに置き換えていくということではない。前提として、For all peopleをどう実現しているのかが鍵になり、どれだけそのブランドが「自分を対象として含んでくれているのか」を想像させる余白が必要だと思う。

例えばリアーナが展開する「Fenty Beauty」は、ずっと美の多様性を大切にブランドを創り上げている。前回の記事ではランジェリーの紹介をしたが、元々はコスメから始まっており、どんな肌の色にも合うリップ・ファンデーションを展開し絶大な共感を得ている。とにかく数がすごい。40色展開。

そしてHow toのモデルは男性。当然のように登場する。「男性にとっての美」を、特別に扱っていることもない。ごく自然に「美しくいようとする人」が女性も男性も、関係なくそこにいるという前提に立っている。セグメントされていることよりも、いかにインクルーシブなのかということが重要視されている。

そして、イギリスのジェンダーレスコスメブランド「JECCA 」。2017年に立ち上がって以降、トランスジェンダーのモデルたちからも支持されている。立ち上げたのは、創業時21歳だったJessica Blackler。

女性のための、とか男性のためのとかではなく、より「あなた」が美しくなれる方法。ここに「全ての人が含まれているよ」という、順番が1番大事であると価値観の真ん中にある大事なニュアンスを、ミレニアル世代の作り手は認識しているのだ。

男性だから「男性らしい可愛いメイク」を求めるかというとそうではないかもしれないし、女性だから「女性っぽいかっこよさ」を求めるかというとそうではないと思う。「素敵!」「可愛い!」「かっこいい!」という気持ちは、きっと男性枠・女性枠に合わせて用意されるものではなく、個人がそれぞれに感じるものだから。ひと昔前は、可愛いや美の基準が、メディアやブランドによって形成され、それを受動するスタイルが主流だった。

だけど今は、美の基準は個人によって作られ、そこに合うプロダクトやブランドがあるか否か、なのだ。だからこそ、どれだけインクルーシブになっているか、そしてそのブランドが持つ世界観こそが重要になる。

価値観をアップデートするような提案を含むブランド・プロダクト開発にはジェネレーションの感覚がかなり重要になってくると思う。シャネルがどのターゲットを狙うのか、その世代によってはむしろ“メンズ”を押し出していくべきなのかもしれない。

“前提として”性別をどのような要素として捉えているのか、については本当に感覚が変わってきているのかなと思う。私自身、REINGというブランドをやりながら、20歳前後の子たちとこんな話をしたりディスカッションする機会が多いのだけれど、人がもっと本質的に「人」を捉えようとしていていいな、と思ったりする。女性の私、ではなく、「私」として捉えられること。ブランドや企業、世の中にももっとそれが求められるようになるはずなのではと思いながら、今日もプロダクトアイディアを考えることに勤しんでいます。


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