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Träumerei

*子供の情景 トロイメライ(夢)シューマン作曲より着想。
音楽を聴きながら読む小説第二弾。

作者より


マルコは孤児でした。母親の顔も父親の顔も知らないのでした。
それでもクリスマスの夜には、いつも「お母さんに会いたい」と楽しそうに、サンタクロースに伝えることを忘れないのです。

マルコには小さいながらに(まだ5歳なのです。)ささやかな願いがありました。いつか必ずこの孤児院の扉からお母さんが入ってきて、抱きしめてハグしてくれることをです。そして天使たちがそばに来て歌うのです。そう厳な曲を、素晴らしく楽しい曲を。

でもたまに思います。足元にきたアリンコを見て、それが自分のようだと。
このアリンコたちのようだと。僕は他の人にとってはこのアリンコのような存在なのかな。僕は孤独だな。それは恐ろしく早くきた孤独でした。誰よりもどんな大人よりも早くきた孤独でした。

孤児院で育っていくマルコのことを、誰かが何か言うでしょうか。
街の人たちは冷たい視線を投げかけてくるでしょうか?
わかりません。
でも、お母さんは本当にいつか、いつの日か、やってくるのでしょうか。

色々な疑問がマルコの頭の中を支配する夜、必ずつぶやく言葉があります。
それは窓の明かりが見える時。
全てが全てあの美しい月が夢のようであっても、母の優しい胸元が恋しいのだ。
「悲しくなんてない。」そうマルコは心の中で叫ぶのです。
「何も悲しくない」と。
でも「何も悲しくない」なんてことはあり得ません。
それはマルコにとっては強がりでしかないのでしょう。そうやって自分を支えているのです。

そんなマルコの心情を知ってか知らずか園長さんは、いつも言っていました。

「ここを出ればもう一人前ですからね。あなたも必ず大人になるのです。
未来を心配してはいけません。大丈夫。神様はいつでもあなた方の元にいるのです」

 マルコは感じます。
 なら、神様は僕を忘れてしまったの?
 なら、神様はどうして僕を一人ぼっちにするの?

悲しいことに誰もその問いに答えられないのです。
答えることができるのは木々のざわめきたちだけでした。
孤児院の外は林で、葉っぱや枝が風に揺られていました。

「寂しいね、でも大丈夫」とつぶやくのです。
優しい囁きです。それは繰り返し繰り返し続きます。マルコはいつもその風に乗ってくる言葉を聞きます。
それから勇気をもらいます。

マルコはいつか大人になったらこの寂しさを忘れられるのでしょうか?

大人になって夢見て、いつか羽ばたくことができるのでしょうか?
誰にもわかりません。

でも確かなことは、この静寂がマルコを育てていくということだけです。
孤児院は丘の上の少し寂しい場所にありました。

どうかマルコがいつか、いつの日か、この寂しさや侘しさを必ず乗り越えることができますように⋯⋯。




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