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知々夫紀行

📘『知々夫紀行』
幸田露伴

1899(明治32)年2月

我邦には獅子虎の如きものなければ、獣には先ず狼熊を最も猛しとす。されば狼を恐れて大神とするも然るべきことにて、熊野は神野の義、神稲をくましねと訓むたぐいを思うに、熊をくまと訓むはあるいは神の義なるや知るべからず。(或曰、くまは韓語、或曰、くまは暈にて月の輪のくま也。)ただ狼という文字は悪きかたにのみ用いらるるならいにて、豺狼、虎狼、狼声、狼毒、狼狠、狼顧、中山狼、狼飡、狼貪、狼竄、狼藉、狼戻、狼狽、狼疾、狼煙など、めでたきは一つもなき唐山のためし、いとおかし。

秩父は山重なり谷深ければ、むかしは必ず狼の多かりしなるべく、今もなお折ふしは見ゆというのみか、此山にては月々十九日に飯生酒など本社より八町ほど隔たりたるところに供置きて与うといえば、出で来ぬには限らぬなるべし、・・・

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三峯神社(埼玉県秩父市)は、日本武尊が東国平定の帰途、三峯山に登り、東国の平和を祈り、国生みの神「伊弉諾・伊弉冉尊」のご夫婦の神様をお祀りしたのが始まりと云われています。狼を守護神とし、狛犬の代わりに神社各所に狼の像が鎮座しています。古くから火難・盗難・悪疫際・災難除の神様として多くの人々に信仰されています。日本武尊を道案内した山犬(オオカミ)がお使いの神として祀られ、ご祭神の「伊弉諾・伊弉冉尊」の霊力を受けた山犬を御眷属様と新し、一年を限り貸し出しています。
長野市の城山にある三峯神社は「明治二十四年五月及び六月の大火災を始めそのほか火災頻繁におこるので、其筋より二十五、二十六両年に乾燥時期毎の夜響を要請され、ここに城山町内で協議の上、恐ろしい火難を消し去り町内安全のため・・・」と案内板に書かれています。御眷属信仰の「三峯神社」。長野市はここ城山、長野県では上田市、松本市にあります。「火難」を除けるために奉斎されたようです。さがせばもっと見つかるかもしれません。各地の街歩きが楽しみになりそうです。
・・・日光法印が山上の庵室に静座していると、山中どことも知れず狼が群がり来て境内に充ちた。法印は、これを神託と感じて猪鹿・火盗除けとして山犬の神札を貸し出したところ霊験があったとされる・・・。

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