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井筒

[能の謡曲]鬘物(かずらもの)
『井筒』 世阿弥 室町時代

「筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 生いにけりしな 妹見ざるまに」
(昔あなたと遊んでいた幼い日に、井筒と背比べした私の背丈はずっと高くなりましたよ。あなたと会わずに過ごしているうちに)

「くらべこし 振分髪も 肩すぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」
(あなたと比べあった、振り分け髪も肩を過ぎてすっかり長くなりました。その髪を妻として結い上げるのはあなたをおいてはありえません)

「井筒」は当時の知識人に馴染みの深い古典『伊勢物語』(二十三段)を題材としています。
廃寺に立ち寄った僧の前に現れた女は、この寺とここにある井戸に纏わる昔話を語り出す。寺の由来から、そして、まだ幼い男女が思いを交わしたところから・・・・。
「・・・・・宿を並べて門の前、井筒に寄りてうない子の、友だち語りらひて、互ひに影を水鏡・・・・・」

足利義満から絶大な支援を受けていた世阿弥。
三十代後半、役者として都での名声を獲得しました。
脚本家としても卓越して才能を持っていた世阿弥は、
今までの物真似中心の能から方向転換し、
美しさ主体の歌舞能を追求します。

世阿弥が生み出した構成方法
【 複式夢幻能 】
①ある土地を訪れた旅の僧に見知らぬ者が現れ言葉を掛ける。
②その者は、その地に纏わる昔物語を他人事のように語り始める。
ところが遠い昔の出来事をあたかも見てきたかのように詳しく語るので、不審に思った旅の僧が尋ねると、自分こそが今語った物語の主人公であると名乗って姿を消す。
③腑に落ちない僧は、地元の人からこの地についての物語を詳しく聞き、さっき出会った人物は間違いなく、その物語の主人公の霊であるとわかる。
④僧が弔っていると、先ほどの霊が在りし日の姿で現れ、昔を語り、懐旧の舞を舞う。・・・・・そして何処ともなく姿を消す。気が付けば、すべては僧の夢の中の出来事であった・・・・・。

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