見出し画像

JAZZの世界の不思議なカタカナ名

 英語話者として、ずっと気になっていることがある。ズバリ、ジャズの世界で流通しているカタカナの固有名の数々だ。

 おそらくは、どこかの時点で誰かが間違った表記をしたことに誰も気づかないままにそのまま定着してしまったということなのだと思うけれど、どうして修正されていかないのか。不思議だ。

 例えば、レスター・ケーニッヒ。コンテンポラリー・レコードの創設者であり、歴史に名を残す大プロデューサーだ。英語だと Lester Koenig。なぜ彼の名前が「ケーニッヒ」となってしまったのか、知るよしもないが(誰か経緯を知っている方がいれば教えてもらいたい)、英語で会話をしている時にこの人の名前を「ケーニッヒ」などと発音しようものなら、誰のことやら「??」ということになること間違いない。
 これは推測でしかないが、彼の名を初めて見た人は、Koenig がドイツ由来の名前であることに気づき、ドイツ語読みをわざわざあてたのではないだろうか。であれば、「ヒ」というエンディングは理解できる。
 ところが、レスターは、アメリカ生まれのアメリカ育ち。ドイツ出身者が、他国に移住しても、元のドイツ語発音の名前で呼ばれることはままあるが(例えばアイヒマン)、レスターは、調べた限り、ドイツで生活していた気配すらない。Koenig がドイツ語的だからといって、ドイツ語読みをすればいいというのであれば、例えば、スーザン・ソンタグ(Susan Sontag)は、スーザン・ゾンタークにならなければならなくなる。

 では正解は何かといえば、実はこれも微妙。Koenig は、カタカナ語にしようとすると「コーニッグ」か「ケーニッグ」のどちらかということになるだろう。Koe の発音が、日本語では「コー」と「ケー」のちょうどあいだのような音になるからだ。だが、語尾の「g」は、あくまでも「グ」だ。

 だから、これからでも遅くはない。レスター・コーニッグ(あるいはケーニッグ)とちゃんと原音に近い表記に直してもらいたいというのが、英語話者からの率直な願いだ。
 ジャズの世界では、なぜ一度定着してしまうとそれを修正できないのだろう。他のフィールドではどんどんと修正がなされているのに。例えば、写真家のウジェーヌ・アジェ (Atge)は、最初日本に紹介された時には、「アトジェ」とか「アッジェ」だったのに、だんだんと現在の「アジェ」表記に落ち着いてきた。そういうことがジャズの世界でも起こるべきだと思う。

 もう一つ例を挙げれば、ファラオ・サンダース。Pharoah Sanders。この人のファースト・ネームは、なぜ「ファラオ」で定着してしまったのか。これも謎だ。
 スペルをよく見てほしい。Pharoah であって Pharaoh ではないのだ。後者ならば、間違いなく「ファラオ」だが、前者は違う。これを英語で発音すると「フェーロー」あるいは百歩譲れば、「フェーロア」となるのが普通で、実際、YouTubeで見ることのできるライブの紹介アナウンスなどでは、そのように発音されている。「ファラオ」などと言う人は一人もいない。
 これも推測に過ぎないが、最初に彼の名前をカタカナに変換した人は、ぱっと見で Pharaoh と見間違えてしまったのではないだろうか。実際、そちらの方が、圧倒的に多く普通なので(ちなみにエジプトのファラオ=王は同じスペル)、そういう勘違いは往々にして起こりそうなのだ。
 英語の文献を読んでいても、しばしば彼の名前が Pharaoh と誤記されている例に出会う。それだけ Pharoah と言うスペリングが珍しいと言うことでもあるのだが、もしかしたら本名の Ferrell の響きを意識したのかもしれない。これも、ジャズの世界の人たちは、今すぐにでも表記を改めていくべきだと思う。というか、機会があれば、自分でそう言う提案をしていきたいと思う。他にも似た例は色々とありそうなので。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?