スクリーンショット_2019-04-06_18

達成報酬のバランスを設計する①【ゲームプランナー基礎知識】

ゲームプランナーの実践的な知識ってあんまり市場に出回ってないですよね。

エンジニア・デザイナーと比較してプランナーの業務内容はPJとの直接的な結びつきが強く、抽象化しづらいのが原因の1つでしょう。

故に、プランナー界隈では「車輪の再発明」率が非常に高い気がします。

車輪の再発明(しゃりんのさいはつめい、英: reinventing the wheel)は、車輪を題材にした慣用句であり、世界中で使われている。「広く受け入れられ確立されている技術や解決法を知らずに(または意図的に無視して)、同様のものを再び一から作ること」を意味する。 wikipedia

しかし、集合知が堆積してこそ業界が発展するものです。
ここでは「達成報酬の設計」にフォーカスしてその基礎知識を書いてみます。

施策は何らかのイベントで、報酬枠の1つとして達成報酬が存在するものとします。

「ユーザーは何pt獲得するか」と「報酬をどう配置するか」

達成報酬を設定していく上で考えるべきは上記に集約されます。
この記事では「ユーザーは何pt獲得するか」、つまり想定入手ptを設定するところを扱います。

想定入手pt = 想定試行回数 * 1試行あたりの平均獲得pt

売上 = DAU * PUR * ARPPU
などと同様に、ある数値を設計したい場合、それが算出される式を作っていくのが定石です。

式を作っていくことの良さは、
・分解した要素別に思考を進められやすくなること
MECEを保ち続けやすいこと
ですね。

ユーザーの想定入手ptは、「ユーザーは何回試行すると想定されるか」と「1試行あたり何pt入手できるか」に分解できます。

例えば「このクエストをクリアすると100pt入手できる」「ユーザーはイベント期間中50回くらいクエストをクリアする」のであれば、
想定入手pt = 100pt * 50回 = 5000pt
になります。

では、想定試行回数と平均入手ptはどのように算出できるでしょうか。
まずは想定試行回数から見てみましょう。

想定試行回数 = 試行可能最大数 * 試行完遂率

ユーザーはイベントを通じて最大何回クエストに挑戦できるでしょうか。
また、そのうち何回クエストを成功(クリア)するでしょうか。
両者を掛け合わせると想定試行回数になります。

またまた分解して、それぞれを算出するための式を作ってみましょう。

試行可能最大数 = 所持可能行動力 / 1試行あたりの消費行動力

行動力(=スタミナ)の概念がある場合、上記のような式になります。
・イベント期間を通してスタミナを1000所持(=回復)しうる
・クエストに挑戦するのにスタミナ10消費する
のであれば、
試行可能最大数 = 1000 / 10 = 100回
になりますね。
「イベントを通してユーザーは最大100回クエストに挑戦しうる」ということです。

もう少し細かく見ていきましょう。

所持可能行動力 = 施策実施時間 * 時間あたり行動力回復数

所持可能な行動力は上記の式で算出できます。
「イベント期間1週間」であれば、施策実施期間は 24h * 7d = 168h ですね。
そして、「スタミナが5分に1回復する」のであれば時間あたりの行動力回復数は 60 / 5 = 12 になります。
よってこの場合の所持可能行動力は、
所持可能行動力 = 168h * 12 = 2016
になります。

では想定試行回数を算出するためのもう1要素、試行完遂率 はどのように出せるでしょうか。

試行完遂率 = 試行成功率 * 試行実施率

試行成功率とはざっくりいうと「そのクエストをクリアする確率」です。
簡単なクエストであれば100%で計算してよく、コンティニューありきの高難易度クエストであれば20%〜40%程度に設定することになるでしょう。

この部分はユーザーセグメント・クエストの種類・運用実績によって場合分けする必要があるのが多々です。
ユーザーセグメントをどのように分けるかは別記事で書くことにします。

シンプルに言うと、熟練したユーザーほど試行成功率が高く、始めたてのユーザーほど試行成功率は下がる傾向にありますね。また、コアなユーザーほど張り付きでプレイする(=試行実施率が高い)はずです。

例えば以下のように分解できます。

コアユーザーは全てのスタミナを消費し、全てのプレイを成功する。
ライトユーザーは50%スタミナを消費し、80%でプレイを成功する。
というように考えます。

ここで場合分けされるので、最終的な想定入手ptもセグメント別に算出されることになりますね。

試算してみる

では、サンプルとして試算してみましょう。
実際の算出順はこれまで説明してきた手順の逆になります。

・イベント期間1週間
・スタミナは5分に1回復
として、
所持可能行動力 = (24h * 7日) * (60分 / 5)= 168 * 12 = 2016

・クエストに挑戦するために必要な10スタミナ消費
として、
1試行あたりの消費行動力 = 10

よって、
試行可能最大数 = 2016 / 10 = 201回(切り捨て)

また、
・コア ユーザーは 試行実施率100% 試行実施率100%
・ミドルユーザーは 試行実施率  70% 試行実施率  90%
・ライトユーザーは 試行実施率  50% 試行実施率  80%
として、
試行完遂率 =
 100% * 100% = 100% (コア)
 70% * 90% = 63%(ミドル)
 50% * 80% = 40%(ライト)

よって、
想定試行回数 = 
 201 * 100% = 201(コア)
 201 * 63% = 126(ミドル)
 201 * 40% = 80(ライト)

・1クエストクリアで100pt入手
として、
1試行あたりの想定獲得pt = 100pt

従って、最終的に、
想定入手pt = 
201 * 100 = 20100(コア)
126 * 100 = 12600(ミドル)
80 * 100 = 8000(ライト)
ということになります。

ということで、
コアユーザー向けの目玉報酬を20000pt
ミドルユーザー向けの目玉報酬を12500pt
ライトユーザー向けの目玉報酬を8000pt
付近に配置するとマイルストーンとして良さそう!

というような達成報酬配置設計をしていけるようになります。

おわりに

ということで、達成報酬を設定する上でユーザーがどの程度のptを獲得しそうかを試算してみました。

もちろん実際の現場ではもっともっと変数が多いです。
簡略化のために1試行あたりの平均獲得ptを100にしましたが、
難易度別に挑戦できるクエストを複数用意したり、
ボーナスステージ的なものがあったりするのが普通でしょう。

ですので上記の方法で本当に使用する数値を設計できることはまれかと思いますが、現場で応用していくための基本的な設計思想として扱えるかもしれません。

参考になれば幸いです。
ではまた今度。