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2月 演劇解体新書vol.1-vol.4

フェニーチェ演劇解体新書 はさまざまな角度から、一つ一つ丁寧に演劇を腑分けしていく演劇ワークショップシリーズです。この記事では、企画がどうやって始まったのか、どんな内容になったのかを書いてきます。

「やったことがないことをやる」

2021年の秋、劇場の担当者さんと企画を立ち上げる為、京都駅の喫茶店で打ち合わせをしていた。フェニーチェ堺は2019年秋にオープンしたばかりの劇場で、僕は2020年から毎年WS(ワークショップ)をしている。

「今年はこれまでの枠にとらわれず、やったことのないことをやって欲しい」

担当者さんの上司の方からのことづけを受け、アイディアを捻り出してみる。「名作戯曲の悪者ばっか演じる時間とか楽しそう。悪者会議とかしてみたい」「楽譜から演劇作ろうよ。音楽家と一緒に」「フェニーチェって4階席まであるデケェ劇場あるじゃないですか、あそこで新作作らせてくれません?」「劇場でWSやってると劇場の中ばっかだから、もはや街歩きしたいな」などなど、本当に無責任にガヤガヤ雑談し、日が沈む頃、出し過ぎたアイディアを4っつの企画にまとめ解散した。変な企画ばっかだけど、どれか一つでも通ればいいなぁと思いながら帰路に着く。数週間後、何故か4っつの企画全て通りましたと連絡が来た。僕と担当者の当時の焦りを想像して欲しい。(絶対面白いけど、本当に出来んのかな……?)

WS(ワークショップ)ってなんなんよ?

さっきから当然のようにWSWSって書いてるけど「なんて読むかわかんねぇし、そもそもWSってなんなのさ?」という人もいると思う。

演劇の世界で「WS(ワークショップ)」という言葉は大体二種類の意味で使われることが多い。『参加して技術をもらって帰る短期レッスン』というものと『商品化を目的とせず実験的に作品をつくってみる』というもの。
現在の日本では圧倒的に前者が多いが、後者のWSには「商品を作らなければならない」というプレッシャーから解き放たれ、自由な発想や柔軟な思考から新しいものが生まれる楽しさがある。僕は後者のWSがもっともっと増えてくといいなと思っている。未完成を楽しむ時間が作家にも俳優にも、そうでない人にも必要なはずだ。
演劇解体新書シリーズでは講師から一方的に解説を受けるだけでなく、一緒に考え一緒に試しながら作っていく=「少し学んで沢山考える」を目指すことにしました。

Vol.1『登場!人物!全員!悪人!講座』7-8月

人を殺めたことのない俳優がどうやって殺人犯を演じるのか?という話をしている

リチャード三世、メッキー・メッサー、マクベス。名作戯曲の悪人だけを演じ続けるWS。「表現する演技」「存在する演技」2種類のアプローチを勉強した上で、それぞれのチーム毎に戯曲とアプローチの種類を選び、シーンを立ち上げていった。
自分が共感できない価値観のキャラクターを演じる時、そのキャラクターにどうやって寄り添えばいいのか、環境や身体的な状況など色んな角度から考えてみる。最終的に10組ほどが互いに演技を見せるのだが、見事に全てのチームのアプローチが異なっており、多様な悪人に出会えて非常に楽しい時間だった。

Vol.2『新しい伝承をつくる』10月-11月

一緒に散歩して「自分が知らないもの」を探す

ただただ僕が散歩好きで、散歩したいから考案したWS。街を歩きながら「自分の知らないもの」を写真に撮り、そこから物語を膨らませ、最終的に“新しい伝承”をでっち上げるという内容。
僕らはなんでも携帯で検索できる時代に生きているから、知らないことに無頓着になってしまいやすい。携帯を置いて「……これは一体何なんだろう……」と考え始めた時、想像力が働きだす。一旦「学ぶ」のを止めることで、「考える(想像する)」ことが始まる。大切なのは、知識がアイディアを邪魔してしまわないこと。他の人が知らないのを見ると「それって〜ですよ!」と教えたくなるけど、ぐっと堪える。
最終的にこのWSでは「鉄を喰む虫を使い、刀をつくる一族の物語」と「鏡の中に引き込まれた狐が他人の夢を叶え続ける物語」不思議な伝承が二つ完成し、上演された。

Vol.3『音楽を演劇に翻訳する』10月-11月

楽譜の解説を受ける出演者達

音楽家の古橋果林さんを迎え、モーリス・ラヴェルの『ボレロ』の楽譜を基に演劇を立ち上げていくというWS。初日は果林さんから楽器の扱い方を教わったり、楽曲についての解説を受ける。

解説の中で出てきた要素、
1「一つのリズムとニつの旋律によって構成されている」
2「奏者が入れ替わり同じ旋律が何度も何度も繰り返される」
3「音楽が大きくなっていく」
などをヒントに演劇に立ち上げていくことにする。

まず二つの旋律に対して【別れ/再会】をテーマに二つのダイアローグ(会話の台詞)を藤井が書いた。楽曲の構成に合わせて、ダイアローグAとダイアローグBを交互に演じていく。リズムは楽器演奏が担うことになり、これで「一つのリズムと二つの旋律」は整った。
奏者の入れ替わりはそのまま俳優の入れ替わりに置き換える。会話の内容は同じだが、全く違うシチュエーションで演じていく。「学生が友達を待つ風景」で始まるパートもあれば「母の墓前で義母と共に手を合わせる風景」で始まるパートもある。全く同じ台詞しか話さないが、きちんと成立するようにつくった。

最終的に、生演奏を交えながら二つの会話を18回繰り返すという滅茶苦茶かっこいい『アリフレ=アフレロ=ボレロ』という新作が出来上がった。

楽曲の構成と演奏楽器の役割を説明してくれる果林ちゃん

Vol.4『「落とす」し「揺らす」し「広がる」し「溢れる」』2月

「落とす」し「揺らす」し「広がる」し「溢れる」 の上演風景

2000席規模の日本トップクラスの大劇場で「落とす」「揺らす」「広がる」「溢れる」四つのテーマに沿って藤井が持ち込んだ演出アイディアをもとに、風景から物語をつくるというWS。
巨大な劇場が会場ということもあって、一度締め切られたあとの追加募集もすぐに定員になり、20名の参加者中5名が東京など関東圏から通うなど、なかなか人気のWSだった。最も実施難易度と安全管理が難しく、担当者さん、劇場の各セクションの技術スタッフさんの力をお借りしてなんとか実施できた。

「揺らす」では吊り下げた照明機材をガンガン揺らす演出を主軸にシーンを組み立てていく

「演出家の為のWSを開催できないか」と言うのが最初の思いつきだった。それも、僕らのような若手演出家があと10〜20年は触ることが出来ないような最先端の舞台機構を使用した演出について取り組みたかった。このWSでは20名の参加者が藤井と共に演出家として場面を構成し、他の参加者に対し演技指導をし作品を作り上げ、最終日には新作『落とすし揺らすし広がるし溢れる』を上演した。

台車の上に乗せた灯体(ライト)が人間を吹っ飛ばしていく
唄って神様を地面から引きづりだそうとする
「溢れる」ではセリ上がりを使った演出がテーマ。テンションあがる

演劇解体新書が終わっちゃった……

最終日、演劇解体新書のメインヴィジュアルを真似する藤井

22年度の演劇解体新書シリーズ、四つのWSが全て終わった。知っている知識を「教える」だけでなく、その場その場で参加者と講師が「考える」というこのシリーズは、ずっとスリリングで、ずっと楽しかった。上演した作品群を振り返っても、どの作品も非常に面白く、心に残るものになった。

こんなメチャクチャなWSを実施させてくれる懐の深い公共劇場が日本にあることが誇らしいし、日本全国にもっともっとこういう劇場が増えて欲しいと思う。もちろん、公募された参加者達が力一杯メチャクチャを楽しんでくれたことにも感謝を伝えたい。幸せな時間だった。

また演劇解体新書シリーズが来年度以降も続きますように! そしてそん時はあなたも参加して、一緒に頭を抱えてくれますように。待ってます

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