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経産省における人材戦略と取組とは? ~霞が関の中途採用・活躍推進に向けた先駆け事例をご紹介!~(後編)

ソトナカプロジェクトメンバーの北角です。
昨年冬に「経産省における人材戦略と取り組み」について、人材戦略の4本柱とキャリア採用(中途採用)強化についてご紹介しました(前編の投稿はこちら)。その後編として、省内有志のワーキンググループ(WG)による、キャリア採用(中途採用)の強化に向けた具体的な取組について報告したいと思います。
 
 省内有志のWGは、人材戦略の4本の柱ごとに設置され、今回はそのうちの一つである人材戦略論点③「高度・多様な人材確保(キャリア採用(中途採用)の抜本拡大)」のチームリーダーの片山政策企画委員、サブリーダーの海老原政策企画委員、福岡政策企画委員にインタビューしました。
キャリア採用(中途採用)強化による経産省全体の組織力強化に向けた熱い想いをお届けしたいと思います。

左:片山弘士さん 製造産業局総務課 政策企画委員、当WGのリーダ
右上:福岡功慶さん 通商政策局総務課 政策企画委員、オンボーディング研修プログラム担当
右下:海老原史明さん 大臣官房業務改革課 政策企画委員、オンボーディングキット担当

キャリア採用(中途採用)の抜本的拡大は、経産省全体の組織力強化につながる!課題と今後の期待とは?

まず、インタビューさせていただいた3名(3名とも新卒採用で経産省に入省)にお伺いしたのが、なぜこのキャリア採用(中途採用)WGに参画されたのかという動機です。そこから見えてきたのは、経産省という組織に対する課題意識でした。
 
― 新卒で入省された皆さんが、キャリア採用拡大について取り組まれようと思ったその背景はなんだったのでしょうか?
 
「もともと経産省は他省庁に比べて、地方自治体や民間企業等の外部からの出向が多く、ソトの人材を受け入れてきた土壌はありました。しかし、これまではあくまで新卒一括採用によるプロパー職員中心の組織であり、ソトの人材のポテンシャルを最大限生かせていなかったんです。日本全体として人材流動化が進む昨今、これまでの人材戦略の在り方では立ち行かなくなってきた、と実感するようになりました。

その背景には、経産省が担当する政策の取り巻く環境が複雑化する中で、異なるバックグラウンドから物事をより立体的に評価することが求められていることに加え、政策立案の手法にもイノベーションが必要になってきていることが挙げられます。同時に雇用の流動化が進み、働く個人の生き方・働き方そのものも多様化していく時代に、経産省としても『多様性』から生まれる化学反応を組織の力にすべく、人材戦略の改革が必要なのです。」
 
― そもそも、キャリア採用(中途採用)は、経産省の組織においてはどのような位置づけなのでしょうか?
 
「実はこの論点自体、コンセンサスがなかったという問題があって、政策企画委員会で議論になりました。前職までで一定のキャリアを積んでいるのでその専門性が重要視されるべしという意見もあれば、経産省の中核で働く上では『総括』業務をこなすためのジェネラリスト的な能力も重要だ、という意見もある。結局、新卒で採用された職員がキャリアの中でその両方を備えていくのと同様に、その両方を備えた、あるいは備えられるポテンシャルを持った人材を採用してくべきではないかという結論に至りました。

当然のことながら、経済産業省の仕事は内部だけでできるわけではなく、外部の独立行政法人や学界、産業界とのネットワークがあって初めて成り立ちます。したがって、こうした外部の知をどこまで内部化するかの問題、要は役割分担であり、高度に専門性が必要なポジションには外部の研究者や弁護士といった専門家を適材適所で配置していくこともできるので、キャリア採用者には専門性だけでなく、政策を作り上げていく能力や人材育成など、ジェネラリスト的要素も兼ね備える必要があるんです。」
 
― なるほど。キャリア採用(中途採用)は、新卒で入省したプロパー職員と同様に、自ら周りを巻き込んで政策をどんどん作って動かしていくための総合的な能力が求められるということですね。
では、その上で、多様性に富んだ組織となるためには、どうしたらいいのか。足元の課題はなんでしょうか?
 
「議論を重ね見えてきたのは、キャリア採用者(中途採用者)のポテンシャルを最大限生かすための取組・仕組みが不十分であったということです。具体的には、経産省のミッションがあまりにも広いため、必ずしも十分に言語化されておらず、それが浸透していないこと、新人研修は行っているものの、中途で入ってくる方や出向者向けには経産省で働く上での基礎的な知識を得る研修が無いこと、省内の人的ネットワークに入り込みにくく孤立しがちであることなど、このほかにも様々あると思いました。」
 
― まさに。私自身も入省直後のケアの物足りなさを感じました。特に、自分が求められている成果は何かという目標設定、達成するためのお作法や思考方法がわからず大変苦労しました。
 
 
これは、人材戦略論点③チーム(チームメンバーは、新卒入省の職員のほか、キャリア採用者(中途採用者)、出向者で構成)が内部で進めた議論の内容の一部を抜粋したものです。
経産省の組織をより良くするために、2030年までに年間の採用者数のうちキャリア採用者を3割程度確保することをKPIとし、3つの課題それぞれの打ち手を明確化しました。
次の項では、その中でも特に3つめ、キャリア採用者(を含む経産省新規入省者)に対するオンボーディング支援について取り上げたいと思います。

キャリア採用者(中途採用者)の即戦力化に向けた、オンボーディング支援の中身とは?

元来経産省では、「俺の背中を見て学べ」という考えで、積極的に人材育成を行う意識が弱かったと聞きます。国会業務や政策立案など、先輩の下でサポートをしながら仕事を学ぶといった職人仕事のような習得方法が当たり前だったとも聞きました。それが通用してきたのは、深夜残業が当たり前な時代の話であって、働き方改革を進めていこうという今のような時代にはそぐわなくなっています。キャリア採用者などの社会人経験者を即戦力化して組織力をあげるには、暗黙知を形式知にすることが重要であり、かつ誰もがいつでもアクセスできるアセットとして整備されていることが必要です。
 
 そこで今回整備され、令和5年4月から実際に活用されているのが、「オンボーディングキット」です。入省後にまず知っておくべき基礎情報、例えばPCやTeamsの使い方から国会業務・政策立案のイロハなどが網羅的に整理されたマニュアル本です。
「政策」とは課題解決の手段であって、それぞれの課題の性質ごとにどのような解決手段があるのか、どのようなプロセスを経て立案・実行・評価がされるのか、その他にも公務員特有の情報公開等の仕事についてなど、初めての人にもわかりやすく簡潔に記載されています。民間から転職してこれを読み込めば、自分の配属された課室がどのようなミッションを達成すべきなのか、そのためには自分は何をすればいいのかといった、全体の中での自分の立ち位置が明確になり、腑に落ちた状態で日々の業務に取り組むことができそうだと思いました。

 このオンボーディングキット(マニュアル本)に加えて、研修には動画を多く取り入れることで講師のコスト削減を図ったり、研修内容の定着のために上司などとの1on1を実施し、学んだことを自らの業務に昇華できるよう整理させることで、新入生が受け身にならないようにオンボーディングできるような工夫がこらされたりしています。

流動化する労働市場を前提に、意欲と能力のある応募者にオープンな組織を目指して

よくキャリア採用者(中途採用者)が疑問にもつのが、「自分がこれまで積み上げてきたキャリアの中で得た経験や専門性は、どうやって霞が関で活かせるのだろうか?」という点です。特に、弁護士、企業、地方自治体や独立行政法人など、その分野で専門性をもった方々が期限付きで霞が関に出向できているケースも多く、そういった出向者と民間企業等から転職で入省するキャリア採用者(中途採用者)と、求められる専門性についてはどう捉えたらいいのでしょうか。この点については、以下のような答えを頂きました。

「特定分野における専門性は重要である一方で、経産省の業務の骨格のひとつは『総括』という各課室や局の“扇の要”としての企画・調整業務です。キャリア採用者(中途採用者)は総括の業務も担っていくため、ジェネラリストとしての素養も求められますし、大変重要です。専門的な知見やスペシャリストとしての要素については任期付採用者や出向者がより期待される、といった役割の明確化が重要ではないかと思います。」
 
最後に皆さんに、今後どのような応募者に経産省にジョインしてほしいか、どのような人材と一緒に働きたいかをお伺いしました。

 
「このWGに自ら取り組もうとおもったのは、中途採用者など多様化するチームで、より複雑化していく政策課題にアプローチできることへの期待があったし、そうすることで政策自体の高度化も期待できると思ったからです。自分で政策をつくってみる、自分がやりたいことをやってみることで、初めて仕事が楽しいと感じるんだと思います。「やらされている」という意識だけではなく、いかに目の前の仕事を自分ごと化できるか、前のめりで意欲のある方とぜひ一緒に働きたいですね。」と福岡委員。
 
「外部の方の知見により、政策の幅は圧倒的に広がります。一例を示すと、我々は政策の作り手ですが、ずっと行政で働いていると、使い手の立場がわからない。企業の方々向けの補助金申請など、申請手続きがとても面倒くさい、なんでこんな制度になっているんだといわれても、自身で補助金申請をしたことがないからなかなか理解するのが難しかったりするんです。政策作りには様々な立場の人材が携わること重要だと思います。今よりもっとソトの人材を受け入れていくことが、ナカの人材(新卒入省のプロパー職員)にとっても意味があることだと思いますし、その流れをつくるドライバーとして、キャリア採用者(中途採用者)へ期待をしています。」と海老原委員。
 
「経産省では入省1年目から、提案力、調整力、俯瞰的に物事を捉える能力など、企業のCEOがもつようなスキル、すなわちコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルに加え、極めて幅広いミッションの中で様々な部局を渡り歩くことにより、経営学で言われる『イントラパーソナルダイバーシティ』、すなわち一人の個人の中に幅広い多様性を持つということが業務の中で求められ、培われていると思っています。いろいろな部署を経験することで、視野が広がり、水平思考ができるようになり、人的ネットワークも広がります。こういう人材が経産省に限らず、活躍できる人材だと思うし、こういう人材をこれからも育てていく必要があると思います。」と当WGリーダーの片山委員。
 
インタビューを終えて、キャリア採用(中途採用)は、優秀な人材を採用し定着させるということにとどまらず、組織全体の多様化や組織力の強化に寄与するものだという印象をつよく受けました。
私自身も、キャリア採用(中途採用)で入省した一人として、今ソトにいる方々が、霞ヶ関や経産省に興味をもち、入省したいと思っていただけるよう、ロールモデルとなるべく、より一層身を引き締めていこうと思いました。

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