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第6話 普通に街を歩きたいという切実な願い

脱毛症の症状は、急速に進展してしまいました。
前からも後ろからも、どこから見ても「あの人どうしたんだろう?」と思われるくらいに、ボコボコと脱毛症が広がっていきました。
それも、虫食い状態で広がったのです。大きな穴もあれば小さな穴もあって、青虫に食い荒らされた葉っぱのようになっていきました。

季節は夏でした。
私はとにかく、帽子をかぶっていました。
外を歩くときはもちろん、室内でも、お店の中でも、可能な限り帽子をかぶっていました。自分のこの頭を、他の人に見せたくなかったからです。

他人の視線や仕草に対して、とても敏感になっていました。
電車を待つ駅のホームで、近くにいる女子高生がヒソヒソしゃべりながら爆笑しているのを見ると、自分が笑われているような気分になりました。
「ヤバイ」とかいう言葉を聞くだけで、自分の頭髪のことを笑われている気分になりました。
ほとんどは、私の被害妄想だったのかもしれません。
でも、自分自身でも、鏡を見るとこんな変な顔の人がいるだろうかと感じるくらいなのです。だから、他人が初めて私の顔を見たときに、驚いて二度見するのも無理はないことだと思いました。

そのころ、一番嫌いな場所はデパートでした。
真っ白な明るいライトが、あまりにも眩しすぎると感じました。
自分の顔と頭を隠したいのに、それを許さないかのように強力に照り付けるライト。
そういう明るすぎる環境に、自分の身体をさらけ出すこと自体が恐怖でした。

そして、周りを通り過ぎる「普通の」人々。
自分も「普通」であれたら、どんなに良いだろうかと羨ましく思いました。
ハンサムでなくてもいいから、普通になりたい。他人からの目を気にすることなく、何の心配もせずに、買い物を楽しみたい。そういうごく普通のことに、強く憧れたのです。

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