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【刀ミュ】三日月宗近の歌の色の話 2016→2021 -共感覚の見地から-

◇はじめに

「共感覚」という知覚現象があります。私、soubiはその中の1つ「音楽や歌を聞くと色が見える」という共感覚を幼少期から保持しています。
(より厳密に言えば、音楽や歌声、特定の単音・調性・周波音に対して、色、質感、形状を感じる…というものです)

共感覚は、自分の意思でコントロールすることができません。
私は物心ついた時から、自分を取り巻く世界に対して愛憎入り混じった複雑な感情を抱いて生きてきました。

しかし幸運なことに、自分の知覚が「共感覚」に由来するものだという事を知ることができ、認知心理学の研究に参加する機会もいただきました。知識を深めていく中で、自分なりに世界の見え方を受け入れ、なんとなく折り合いをつけることもできました。

それにしたがって、自分の知覚について考えること自体は減っていったのですが、昨年秋、ミュージカル「刀剣乱舞」がきっかけとなり、再考するチャンスを得ました。

匿名ツール「マシュマロ」で共感覚やイメージ体験に関する体験談や質問を募ったところ、たくさんのコメントをいただきました。
この記事は、そのコメントへの回答となります。
複数の方から質問をいただきました、刀ミュで黒羽麻璃央さん演じる三日月宗近の歌に感じること、見えるものについて書きました。

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※おことわり
歌や音楽に関する話をしていますが、筆者は専門家ではありません。本記事は一個人の経験に基づく感想であることを予めご了承ください。

①トライアル公演(2015)

「Team 三条 with 加州清光」の中で一人だけ色温度が高い歌声を見せていたのが三日月でした。
(なぜ過去形かというと、基調となる色は年々変容していて、色温度も下がったり上がったりしているからです)

トライアル公演の大千秋楽映像を見た時、三日月の歌の中で際立っていて、かつ好きだなぁと思う色は「白」でした。
あの色を具体的な何かに喩えるとすれば、
ブルーシラーのないムーンストーン。
晴れた午前の陽光の下の琥珀糖。
月下美人の花の色。
「青白さ」という言葉の1ミリ手前……

……という感じでしょうか。
あの「白」には冷厳さのようなものを感じます。

あの色が顕著に浮かび上がるのは
「勝利の旗」のAメロ「♪失くした過去と今、未来」のところとか「Gateway」のサビ直前の「♪Sometimes we lose to win Let's leave the past behind」のところです。
後者は、それまでバックで鳴っていたシンセのビートがごそっと抜けて、三日月のボーカルと鍵盤の音が浮かび上がる、いわゆる「ビルドアップ」な部分なのですが、
三日月の歌の白と鍵盤の音の白、タイプの違う白い光がカーンとぶち当たって乱反射する様がすごくきれいで好きです。

(CD音源ではこの光の乱反射は見えません。ボーカルを多重録音しているので、ボーカルラインは太くなっているにもかかわらず、なぜか光は対消滅しているような感じがするのです。不思議です)

それから「タカラモノ」のCメロの「♪君が笑顔くれたから」のところは、
白い光にやさしい薄紅色の波が加わります。どうしてか胸がぎゅーっと苦しく切なくなる色。あの柔らかい色はササユリの花弁とか、トキの羽色とかに似た感じがします。

②阿津賀志山異聞(2016)/in厳島(2016)

三日月はトライアル公演の「mistake」で、
2番の「♪oh oh oh」「♪躊躇いながらその瞳」のパートを担当していましたが、トライアル公演のmistakeは現行曲より2音も高いですよね。ファルセットを駆使して歌っている姿が印象的です。
(1番の「♪oh oh oh」を担っている今剣は強烈なヘッドボイスを使っています。あれもとてもすごい)

しかし、現行曲の「mistake」では三日月は全編でミドルボイスを使っていて、得意領域で本領発揮ができているなぁって思います。
「♪躊躇いながら そ「の瞳」」の「のォ」ってところ、本っ当にきれいでたまんないなぁ。
大千秋楽映像では閃光のような眩しい白色が見えるのですが、あまりにも爽快なのでニマニマしてしまいます。

「Endless Night」という曲は、三日月の歌声によく似合うアレンジがなされているなぁと聞くたびに思います。ピアノと弦が際立つロックバラード。
2016年ではあつかし本公演、in厳島、真剣乱舞祭'16で唄われていますが、個人的には「in厳島」のテイクが一番好みです。
胸郭で声が豊かに共鳴していて、歌の色温度も下がっていて……
あの歌の色は、夜空に浮かぶ月のような淡くてきれいな色でした。

(※これは余談なのですが、大サビ直前の「そばに居ていいか?」は、
あつかしアルバム、あつかし大千秋楽映像、in厳島、そして壽乱舞音曲祭のCD音源…全部まったく違った趣を見せますね……
もちろん全部心臓に悪い……三日月の夢女子になってしまう…:( ;˙꒳˙;):)

③つはものどもがゆめのあと(2017)→阿津賀志山異聞2018 巴里(2018)

黒羽さんの歌の魅力といえば、やはり「東北生まれ」だけを理由にするには美しすぎる鼻濁音と、鼻腔共鳴の巧みさ……でしょうか。
そしてそれらが魅力として武器としてより研ぎ澄まされていくのは、つはもの~あつパリ期のように感じます。
あんなにエレクトロな「Mirage」も黒羽さんが歌うと徹頭徹尾「三日月の歌」に聞こえます。おそらくあつかしの頃の三日月ではこうはいかなかったんじゃないかな…

「BE IN SIGHT」「♪離れないで baby」の「baby」の「b」は、私はCD音源だと「m」に聞こえそうになります。もしかすると音を鼻に抜きそうになるキワキワのところで唄われているのかもしれない。

そんな鼻濁音もとい美濁音の魅力が炸裂するのが、
「この花のように」「華のうてな」
とても気持ちよさそうに歌うなぁ…というのが初めて聞いた時の印象でした。いずれのサビも黒羽さんの共鳴腔のスイートスポットに当たっているように思えてなりません。決してただ清々しいだけの歌ではないですが、聞いているこちら側としてはとても心地良いです……

具体的に好きなポイントを挙げるとすれば、
「この花のように」では
「♪一度巡れば」の「め「く゚」れば」とか、
「♪生涯の約束」の「しょう「か゚」い」でしょうか。あの流麗な発声は何度聞いても惚れ惚れします。
「♪この花のように清く咲く」の部分は、大千秋楽映像の歌だと春の朝の空の柔らかい薄青と、トキの羽色のような薄ピンクがふわ~っと湧き出るのですごく好きです。

「華のうてな」は、冒頭から好きです。
「♪しく しく(頻く頻く)くれ くれ(呉れ呉れ)」…何度も繰り返すという意味を含むこの言葉を、声の芯を固めずふわっと歌っているのが良い。
あの茫洋とした感じ、三日月が幾度となく繰り返し、渡り歩いてきたであろう永い永い時の流れを思わせます。忘我の境地といいますか。

(CD音源だとボーカルにリバーブをかけているので、本公演映像よりもいっそう神秘的に聞こえます。ただ、真の闇夜の中で独りで立っている三日月のイメージも誘発されるので、大変しんどい気持ちにもなります……
三日月……;;;;)

大サビの「♪半座分かつ華のうてな 誰が為にそこにある」
「半座」の「nざ」の音は破擦音なのにすごく滑らかで美しいですし
「誰が為」の「nか゚たァ」の高らかさについては言わずもがなですね……暗雲を吹き飛ばすような歌だなぁ……

つはものの大千秋楽映像では、このあたりで三日月の歌にローズピンクのオーラみたいなものがそよそよと現れます。この色も華やかでとても綺麗なので思わず目を見張ってしまう……

トライアル公演からあつパリまで順を追ってみていくと、三日月の表情筋の強固さがぐんぐん増していくのもわかります。
(最初期は声を支える、あるいは絞る時に眉間の辺りに力が加わっているのがわかりやすく見て取れるのですが、次第に能面のようなアルカイックスマイルをたたえたまま歌いきっていくようになるのですよね…畏怖…)

トライアル公演では一音一音振り絞るように歌っていた「漢道」
「♪涙を流す夜」があつパリでは大変華麗に歌い上げられていることに改めて驚かされます。

三日月の歌声の色温度が目に見えて下がったのはあつパリ期です。
全体的に歌の芯が確立されたのがはっきりわかります。孤高の白が確かな色を帯びている。
トライアル公演の時は小狐丸よりまっしろだった三日月の歌の色が「TimeLine」では小狐丸より彩めいて聞こえてくるので……もうね……びっくりします……

この時期の三日月の歌の中心にある色はブラウンです。ミントの花からとった蜂蜜のような、透明な香しい暗色です。
この色はCD音源の「Lost The Memory」で特に顕著に感じます。
「甘い歌声」という自分の中の概念がひっくり返されるような甘い甘いクリスタルボイスです。

この時期の「華のうてな」は、低声がふくよかになって、歌のリリカルさが増していますし(高声を鍛えるより低声を鍛える方がはるかに難しいので、これはとても凄いことです)、
「返歌 名残月」「♪名残月 散りゆく定め知りつつも」の「なこ゚りつき」は美濁音に拍車がかかっていて、さらに耀きを増しています。
十五夜の月のように、煌々と堂々としているんですよね……すごいなぁ……

(※そういえば、あつパリ大楽の「華のうてな」って
「♪しくしく くれくれ」の部分だけなぜか原曲から半音高く歌われているんですよ。パリ公演では原曲のままだったのに。
なんでだろう……って思いながら、あのちょっぴり紫色がかった「しくしく くれくれ」をいつも聴いています。謎です……)

ここまでソロナンバーやソロパートについて書いてきましたが、デュオの時の三日月も素敵です。
つはもの大千秋楽映像の「歓喜の華」の、
「♪涙の雫 拭いさってゆく」の小狐丸とのユニゾンは、歌も絵面もシンクロ率がとても高いので、いつもにこにこしながら観ちゃいますし、

あつパリのパリ公演音源の「向かう槌音」と、
大千秋楽映像の「向かう槌音」は、小狐丸役を担当する役者が異なるのですが、テノの北園さんとバリトンの岩崎さん……声域も声質もまったく違うふたりの小狐丸にそれぞれ寄り添うように、三日月の歌の響きがチューニングされているのがわかります。
目に見えてわかりますし、いずれもとても好きです。

④壽 乱舞音曲祭(2021)

三日月が2年ぶりに刀ミュの舞台に帰ってきたのがこの公演。
そして、刀ミュの三条太刀ファンの悲願がひとつ叶ったのがこの公演。

黒羽さんの三日月と北園さんの小狐丸が板の上に揃い、
「向かう槌音」が披露されました。当時の私が歌に関する感想を書いていたので、誘導として再掲します。

私は壽ではじめて黒羽さんの三日月の歌を生で聴くことが叶ったのですが、「抜け出せないような底の底」みたいなものを見てしまったぞ……

三日月の歌の色温度は、ここに来てぐっと上がりました。
あたたかなハニーブラウンはすっかり鳴りを潜め、ひんやりと青みを帯びて黒橡(くろつるばみ)色が照っていました。

「向かう槌音」は、小狐丸役の北園さんの、古典芸能を思わせる華やかな歌い回しが目を引きますが(※個人的に色々聞き比べて検証した結果、能舞台で聞く狂言の発声が最も似ているという結論に達しました)
黒羽さんもこの曲では、三日月役で歌う時にはおよそ使わないような声をバリバリに出しますよね。
「三日月宗近」として歌っているのではなく、「小鍛冶のワキ・三条宗近を降ろした三日月宗近」として歌っているように感じます。

そして何より、
あつパリ期の頃は歌の中に溶けちゃっていた「細い月」「乱れぬ律動」という言葉が、壽では完璧に刻まれていました……あれ、内心ガッツポーズをキメちゃうくらい良かったです……

……そんな感じで。
演目として最も印象深いのは「向かう槌音」なのですが、
「華のうてな」「返歌 名残月」も忘れられそうにありません。
2年前のあつパリの時は、ハニーブラウンの歌から漲る生命力のゆるぎなさが眩しくて、つやつやしてて熱いほどで。
うわぁ…って物陰からおそるおそる覗いていたんだけど、
それから2年経って、黒羽さんの歌におよそ2年とは思えない古木の年輪みたいなものを感じてしまって。
やっぱり、うわぁ……すごい……ってなってしまう。

ベースとなる淡くて儚い色の中に、黒橡色とか、トキの羽の薄紅色とか、熾火の火花のようなが見え隠れして、
朗々とした旋律の奥底に、死の薫りや静けさとか絶望とか孤独とか、他にも秘めたる感情みたいなのが横たわっているように感じられます。
千年刀の歌でした。

低声もますますパワーアップしてたなぁ……
炭の中で静かに燃えるを思わせるような色をしていて、圧倒的に惹かれるものがありました。

そしてね。
「返歌 名残月」「♪今咲き誇る花の哀れよ」のラストのロングトーン。
あれが瞼に焼き付いちゃって離れない。

黒羽さんが、三日月が、全身を使って声を支える様がね……
記憶に焼き付いちゃったんですよね……
コロナが完治した後も、また以前のように歌えるようになるまで色々と難儀されたと思います。黒羽さん、舞台に戻ってきてくれて本当によかった……ありがとう……って思います。

他日程に比べて異色を放っているなぁって思った歌唱は、
1/11昼公演「Endless Night」
この記事を書くため、アーカイブ配信期間に全日程のエンナイを聴き比べたのですが、11日昼公演のエンナイは、鼻まわりに意識が集中していたあつパリ期にかなり近い発声で奏でられていて、
なんというか……聞いているこちらの渇仰の感情を引き出すようなエンナイでした。
「なんてありがたい歌なんだ……」って思いながら、泣きそうになりながら聴いていました。
とても慈愛に満ちた歌でした。この日この時現地で聴けてよかったです。

エンナイの「♪夜風に任せ」の「かせぇぇぇ」ってところが以前よりもっと好きになりましたね……
あつかし期の時は、声の末端が細くなったり、あるいは細くならないよう振り絞るように歌われていたのですが、
今では、狙いたい音に向かい声が綺麗に持ち上がっていくのがわかります。すごく素敵でうっとりしてしまいます。

「かせぇぇぇ」は、日によって最高音だけファルセットに切り替わることもありましたが、だとしても全く減衰することはなくて、三日月の声がミドルボイスからファルセットにシームレスに移行しているのが見て取れました。とても良かったです……

*   *   *

◇おわりに

……というところで終わりたいと思います。
私は音フェチな気はあるものの、一人のひとの歌に着目して、その変遷を言葉にしながら辿るという聞き方はしたことがありませんでした。

美しいものを見つけるのは大好きですが、それを言葉にして定位するのは今だにちょっと怖いです。自分の好きなものでもそうだし、人の好きなものや大切なものなら猶更。
喩えは、表現は、果たして適切だっただろうか。最も肝要なことは描けただろうか。華美すぎやしなかっただろうか。独りよがりになってないか。そんなことばかり考えてしまう。

でも、今回マシュマロを送ってくださった方がいたからこそ、とても充実した視聴経験ができました。お声掛けくださり本当にありがとうございました。


私の歌の師匠は、
「10代はタマゴで、20代はまだまだヒヨコで、30でやっと若鳥になってきて、歌はそれからが最高に熟する」というようなことを言っていて、
当時は子ども心に「えっ?40以降?それって遅くないですか?」なんて思っていたのだけど、今なら先生が仰っていた言葉の真意が少しわかる気がします。
きっと歌い続ける限り歌は進化を続けられるのだろうな。

また黒羽さんが三日月として舞台に戻ってくるとき、新しい感動がありますように。

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▼刀ミュと共感覚体験に関する記事はこちら

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