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フヴェルゲルミル伝承記 -1.5.4「『輝く災い』の一体、ラーナ」

はじめに

 無事投稿できました。
 そういやルネとヴィズルですが、彼らはもっと後で参入する予定でした。
 まあ、ルネに関してはもうすぐ参入予定でしたので、あまり問題はないんですが、ヴィズルはもっとずっと先でしたので(確か第二章の終わりぐらいからの予定でした)どうからませようか悩みます(そしてビジュアルがまだ出来てない(汗 )

 では、どうぞ。

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第1章 第5話
第4節「『輝く災い』の一体、ラーナ」

 砦内部。
 締め切った扉の前に魔方陣が展開される。

「うぉ!?」

 魔方陣からアルフ達が現れた時、周囲にはすし詰めのごとく、魔物の群れが押し寄せていた。
 動こうにもこのままでは動きが取れない。
 イルムガルトがアルフの頭を押さえ、周囲に液体の入ったビンを投げつける。

 知性の無い魔物は反射的にビンを弾くと、ビンはあっさりと割れ、その中身が魔物に降りかかる。
 魔物は悲鳴をあげて逃げようとするが、密集していたのが災いし体制を完全に崩してしまった。

「アルフ!」

「おう!」

 アルフが槍で群れの一角に穴を開けた。
 しかし、通路に敷き詰められた魔物の群れはすぐさま穴をふさぎ、再びアルフ達に迫り来る。

「キリが無いわね……」

「くそっ、何とか突破口でも作れれば」

「了解。敵の殲滅を開始。臨戦態勢に移行します」

 ルネの前に複数の魔方陣が展開される。魔方陣は幾何学的に、空間ごと圧縮するようにしされる。
 まるで粘土を固めるように、魔方陣は一本の武器を作り上げる。
 それは一本の大鎌。
 
「警告。範囲内の人間は巻き込まれないよう注意して下さい」

 ルネが鎌を振り回す。魔物は豆腐のように切り刻まれ、その断面から再び魔方陣が展開される。
 魔方陣は魔物を飲み込みその姿を消し去った。

「な、なんだ?」

「疑問への回答。転移魔法の応用です。この鎌は魔力で構成された転移魔方陣を……」

「そんなのは後! 私は先に進むから、アナタ達は中の魔物を片付けて!」

 そういい残すと、イルムガルトは魔物の隙間を縫うように砦の奥へと向かっていった。

「お、おう……」

「この魔方陣には接触するものを対象に……」

「ルネ……それは後にしよう。まずはこいつらを片付ける」

 遅い来る魔物を槍で牽制しつつ、ルネに指示をする。

「了解。疑問への回答の優先度を下げ、敵殲滅の命令を優先させます」

「ったく、やりづれぇ……」





 砦内部、入り口付近。
 先程までアルフ立ち退いた場所で、ナナとヴィズルが負傷兵の治療を行っていた。

「お兄ちゃん達、大丈夫かな?」

「ん、大丈夫だろ……」

 ヴィズルが兵士の一人を担いで部屋の片隅に寝かせる。
 ごちゃごちゃに雑魚寝している兵士達を整理し、ナナの治療をしやすくしていた。
 今の所、魔物の影は無い。

「おじさん、適当だね。あ、そこの人はそっちに寝かせて。多分骨折れてるから慎重にね。後で固定するから」

 ナナが傷薬を使って兵士達の怪我を治しながら、ヴィズルに指示する。

「おじさん言うな! おれはまだ42だ」

「十分おじさんだよ。あ、こっちの人終わったから向こうに連れてって」

「お前、見た目に反して意外と言うな……」

「まあ、お姉ちゃん達といればそうなるんじゃないかな?」

「おっそろしいヤツ等だな」

「おじさんもそういう意味じゃあんまり変わんないんじゃないかな。そんな雰囲気がする」

「失礼だな。こんな善良な一般人を捕まえておいて」

「多分、善良な一般人はお兄ちゃんを脅さないと思う」

「うぐっ、言ってくれるじゃねぇの……」

「そぅねぇ、そぉねぇ~。お嬢ちゃんはぁ~聞いていた以上にしっかりしているのねぇ~」

「誰だ!」

 部屋の奥の人影が動く。

「いやぁですねぇ~、ワタシはぁラーナと申しますのぉ~」

 人影はゆっくりと近づき、その姿を現した。
 その身丈に合わない、ぶかぶかの深緑色のロングコートを纏った女性。
 頭のハットから出ている髪は透き通るような水色で、その長い髪は後ろで二つにまとめられている。
 その顔に黒い目隠しがされていた。

「僭越ながら~『輝く災い《ブリーキンダ・ベル》』の一つを任せていただいております~」

 ニヤァと口を耳まで裂けるほどに歪ませる。

「ナナ!」

 危機を感じたヴィズルはナナの前でに出て庇う。

「いやですわぁ~私は~こんな所で戦うつもりはありませんよぉ~」

「信用できねぇよ」

「ええ~、私達は敵同士ですもの~。当たり前ですわぁ~」

「分かってんじゃねぇか」

「でもぉ~、立場を考えるべきですわぁ~」

「立場?」

「ええ、私に~戦う気があるならぁ~今すぐにでも始めてますもの~。ここには良い肉壁がい~っぱいあるんですよ~こんなにいい条件はないでしょぉ~?」

 そう言ってラーナは目隠しに隠れた瞳で倒れた兵士達を眺め回す。

「ひぃ!」

「チッ……!」

「そーいう事ですわぁ~。信じる信じない関係なくてぇ~、話し合いに応じるしかありませんのぉ~」

「で、何を話し合おうってんだ?」

「切り替えが早くて助かります~」

「いいから、用件を言いな」

 「聞くかどうかは別だがな」という言葉を続けようとしたが、ヴィズルはぐっと飲み込んだ。
 今、ここの殺生与奪の権利は彼女が握っている。

「でぇ~用件というのはですねぇ~」

 ラーナが口元の笑みを深くする。

「その子~ナナを私達に引き渡していただきたいのぉ~」

「え!?」

 ナナが驚き、一歩退く

「そりゃまた、随分といい趣味してんな。お宅の所にゃ、幼女を愛でる趣味のヤツでもいんのかい?」

「幼女って……おじさん。さっきの仕返し?」

「うるせぇ、黙ってろ」

 軽口を叩いているようで、ヴィズルにも余裕がない。
 頬に冷たい汗が流れる。

「理不尽……」

 その点、ナナは怯えているようで案外余裕があった。
 状況を飲み込みきれてないからかもしれない。

「で、どうなんだい?」

「いるかもしれませんわねぇ~何せうちは大所帯ですからぁ~」

 クスクス笑うラーナ。
 何とも得体の知れない不気味さが漂っている。

「でも~その子の『用途』については分かりませんわぁ。私は『参謀』にお願いされただけですもの~……」

「参謀、そんなヤツが……」

「あら~、一応我らは魔王『軍』なんですよぉ。参謀ぐらいいますわぁ」

「で、その参謀様が一体何で嬢ちゃんを欲するんだい?」

「言ったでしょ~それはぁ私にもわかりませんよ~」

 近くに転がっている小さな壷を持ち上げ、これ見よがしに舌でなめる。
 人間とは思えない長さだった。
 人の形はしていてもやはり彼女は魔物なのだ。

「化物が……」

「あらぁ~、私を人間だとでも思って下さったのですかぁそれは光栄です~」

「へっ、誰が思うかよ。形だけのただの魔物が」

 その言葉にラーナが反応した。
 いかにも不機嫌である事を伝えるように、近くの兵士を蹴飛ばした。

「うぐぁ!!」

 蹴られた兵士は二、三回転がり、痙攣しながら意識を失った。

「安心してくださいなぁ~殺してはいませんよぉ」

 ナナが兵士を助けようと飛び出そうとするが、ヴィズルが片手で制した。
 それを見ながらラーナは少し考え事をするような仕草をする。

「ん~、少しマナーというものを知る必要がありますねぇ~」

「何の話だ?」

「いえ~、『魔物』というのは間違いないんですけどねぇ~、あんまりそう言われて良い気分はしないんですよぉ~」

「は?」

「あなた方はぁ、自分を指して『動物』だと言われて良い気分しますかぁ~?」

「まあ、間違っちゃいねぇが、確かにいい気分はしねぇな」

「でっしょぉ?だから、私達に対して使う呼称なら『魔族』といって下さい~。それが私達の社会《ニザヴェリル》の常識ですよぉ」

「成程……って、そんなウンチクなんざ、どうでも良いんだよ」

「ええ~そうかもしれませんわぁ~。敵同士なら罵倒も妥当ですものぉ~」

 ラーナはそう言って持っていた壷を落として割った。

「じゃあ~そろそろ返事を伺いましょうか~」

「聞くまでもねぇだろ?ノーだ」

「そうですかぁ~。残念ですねぇ。それじゃ~余興にここにいる人達皆殺しにして~……その子を手土産にでもしましょうかぁ?」

 ラーナから殺気が膨れ上がる。

「くっ……!」

「おじちゃん……!」

「ふふ~。それじゃあ~いきますわぁ~……」

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