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フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.11「そシて、舞台の幕は下りる」

はじめに

 最後のユミリアサイド、描写を少し変えてみました。

 では、どうぞ。

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第1章 第4話
第11節「そシて、舞台の幕は下りる」

「んぅ、雷かね?」

「あ? 今日は雲一つなかった気がするが」

「まあ、天気は私達人類より気まぐれだからねぇ」

 遠くで雷鳴が轟いて、二人がそんな感想を漏らす。
 しかし、それは正しくない。
 雷鳴は遠くで鳴ったわけではない。
 この『舞台』は音の反響を良くする為、音が漏れないように設計されている。
 ただ、完全防音などではなく、内外の音が聞こえづらい程度なので、外の雷鳴が小さく聞こえただけだ。
 だから、遠くで聞こえたように錯覚した。

 イルムガルトはその雷鳴を聞いて動きを止める。

「おやぁ、疲れちゃったかなぁ」

「確かに疲れたわね」

 領主はイルムガルトのその声色に若干の戸惑いを覚えた。
 先程までの震えて怯えた少女の声じゃない。
 通りの良いその声はその場にいた全員を凍りつかせた。
 イルムガルトとしてはただ、口調を変えただけだ。

「さて、水上都市ゲムル領主ログ・フゥ・ゲムル。何か申し開き、あるかしら?」

「な、何と生意気な口を……私を誰だと思っているのだね!?」

「アナタこそ、誰に対してここまでの事を仕出かしてくれたのか分かってる?」

「何だと!?」

「まあ、いいわ」

 面倒くさそうに首を振る。

「フォルナール教会セティ派より、貴殿を捕縛。しかる後、処刑します」

「ふ、フォルナール教会!?」

「お、横暴だ!き、教会の人間如きが、帝国の貴族であるこのわ、私を処刑だと!?」

「アナタほど横暴でもないでしょう」

「も、もし私を捕まえてみろ! 帝国に講義してやる! 貴様を教会から追放してやる事もできるんだぞ!!」

「へぇ、是非ともやってみて欲しいものね」

「い、言ったな!? 後悔させてやるぞ!」

「ええ、どうぞ? アナタがこの『イルムガルト・イェンナ・フォルナール』を追放できるというのならね」

「ヒィ、い、いい、イルムガルト!? あ、ああ……な、何でそんな大物が出て来るんだ!?」

「な、何を怯えているんだね!?」

「あ、アンタ!アンタも貴族なら知ってんだろ!? あの有名な『毒蛇』だよ! あ、ああ……だ、ダメだダメだダメだ!!俺達はもう殺されちまうんだ!!!」

「ま、待ちたまえ! 冷静になるんだ。教会の幹部が、こんな危険な潜入操作をするはずないだろう?彼女の名を騙った偽者だよ」

「あ、ああ、ああ! そ、そうだな。ひ、人違いに決まってる!」

(私の名を騙る教会の人間の方がよっぽどありえないんだけど……人って追い込まれると自分の信じやすい方に逃げるのよね)

「とにかく、アナタは帝国で言う『殺人』『誘拐』『器物破損』『収賄』『脱税』『違法徴収』」

「は、はは、その程度でこの私を処刑するのか?教会は帝国法に口出しできないだろう?」

「……それはともかく」

「な、何」

「『魔物の境界誘致解放』ならびに『魔物使役による殺人・破壊活動』さらにこれを民間人に対して行った」

「そ、それがどうしたというのかね。これは商人からペットとして買ったものだ。殺人だって、さっき言った通り教会が口出しするものじゃないはずだ!」

「何処をどう解釈したらそうなるのか分からないけど、国の法律にのっとれば私達はいかなる活動も可能なのよ」

「なら、私が帝国に直訴すれば問題はないはずだ! 私はそれだけの力があるのだ!!」

 法は私を守ってくれるのだといわんばかりの台詞だった。

「ただ、例外があるのよ。『魔物』に関する問題が生じた場合、それは何より優先される。特にアナタのようなケースはね、ヘタをすれば『国王すら』私達が手をかけられる程の重罪なのよ」

「な!?」

「この世界、魔物は『敵』。人を脅かす魔物から守るのが私達『フォルナール教会』。その教義はこの世界における人類の絶対。脅かすものは何人たりとも許さない」

 表情は変えず、声に殺気だけ含み、教義を語る。
 語り終えたイルムガルトはその表情を一変させ、柔和な笑顔を『作る』と再度彼に告げた。

「という事でアナタを捕縛します」

「な、何をしている檻を、檻を放て!!」

(案の定、あの子達の檻も開けたわね……)

 子供達が開いた檻の中で怯えているのが見える。

「は、早く殺してしまえ!!」

 猪が金縛りから解け、突撃を再開する。
 一直線にイルムガルトに向かう。
 先程とは違い、イルムガルトは微動だにしない。
 その鼻先がイルムガルトに届くその直前。

 頭上から雷撃のような一閃が猪を貫いた。
 倒れた猪の上にアルフの姿。

「見事ね」

 アルフはイルムガルトを見る。
 だいぶ痛めつけられた痕が目に入るとアルフは領主に対して槍を投げつけた。

「ひ、ひぃい……!!」

 驚いて腰を抜かした領主は運よく彼の槍をかわす事ができた。

「戻れ」

 槍は自動的にアルフの手元に戻ってきた。
 狼型の魔物がアルフに襲い掛かる。
 アルフは下あごを殴り、怯んだ魔物をそのまま槍で突き上げた。
 雷撃が頭を貫き、魔物が倒れる。

「ああ、こりゃ相当頭にキてるわね」

 そう言って観客席を眺める。
 領主が男に連れられて外に出ようとしている。
 この隙に逃げるつもりだろう。

(追いかけないといけないけど、アレを放っておく訳にもいかないわね……)

 三体目の魔物を潰したアルフは四体目に襲い掛かろうとしていた。

(まあ、多分出口にはユミリアがいるでしょうし、あの子達を保護してから向かいましょうか……)

 そう判断すると、イルムガルト子供達の檻に向かう。






 長く暗く、複雑な館の地下の廊下。

 ユミリアが鼻歌を歌いながら歩いている。
 『子供達』が待っている。
 憎しみに飢えて待っている。
 『お土産』は喜んでくれるだろうか?

 ユミリアは上機嫌に歩きながら思う。
 『味見』は確かだった。
 手は少し汚れているなと軽く振る。
 赤いしぶきが壁に散る。

 ユミリアは手にソレを引き摺りながら歩く。
 絶対に喜ぶだろう。
 何せ、彼らが待ち望んだモノなのだ。
 
 さあ、辿り着いた。
 『子供達』は今か今かと獲物を待ちわびる。

「ま、待ってくれ、わ、私が悪かった。だ、だか……」

 『手土産』が語る。
 ユミリアは意に返さず、無造作にソレを『子供達』の方へ放り投げる。
 キタ、望んだものがキタ!
 そう彼らは『手土産』に飛びついた。
 ハイエナのように男に群がる。
 取り合い、蹴り付け、殴りつけ、封を開くように、中身《ざんげ》を早く、早くと。
 包み《からだ》はいらない。中身《こうかい》だけが彼らの求めるものなのだ。
 絶え間なく、彼らは袋を破ろうとする。

 それはついに、ゴキリとシンを折る音がキこえた。

 あァ、ついに中身《ひめい》が出てきたヨと彼らは狂喜する。
 もっと、『中身』を、『中身』を……
 そうシて、イツしか『手土産』の『中身』はナくなった。


 こうして、水上都市ゲムルの領主は舞台から引きずり降ろされたのだった。

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