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フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.13「また増える同行者」

はじめに

 だいぶ長い話になってしまいました。
 この水上都市編はあと一、二節(話)ぐらいを予定しています。

 では、どうぞ。

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第1章 第4話
第13節「また増える同行者」

「ん、う~ん……」

 アルフはベッドの上で目が覚める。

「あ、お兄ちゃん。起きた?」

 振り向くと、そこにはナナがいた。

「お、ナナか……どうしたんだ?」

「いや、どうしたのかはこっちの台詞だと思う」

「ん?」

「お兄ちゃん、ユミリアさんにかつがれて宿ここに運ばれたんだよ?」

「ん、あー……そういやあの領主の館で、日記を見て腹が立ったから八つ当たり気味に屋敷を壊して……」

「やつあたり気味って……」

「んで、イルムガルトを見つけて……アレ?そっからどうしたんだっけ?」

 うーん、と考え込むアルフ。
 ナナはダメだこりゃと思い、話題を変える。

「そういえば、お兄ちゃん、コレ冷めちゃうよ?」

 そう言って、アルフにスープを渡す。

「ん?おお、アイントプフか美味そうだ」

 先程、宿の亭主から朝食だといって渡されたものだ。
 領主がいなくなった今、値を吊り上げなくて良くなったのだろう。
 そして、圧政から解放してくれた彼らへのサービスとして、朝食を提供してくれたようだ。
 ナナとユミリア達が食べ終わった後、アルフが目覚めた時ようにとナナに渡してくれた。
 うちのは冷めてもおいしくいただけると評判だから、時間がたっても大丈夫だと亭主は笑っていた。

「ありがとうな」

「うん」

 アルフは料理を一口。
 ついで、周りを見回してナナに質問する。

「そういえば他のみんなはどうしたんだ?」

「ユミリアさんはスラムの人達に挨拶するって言ってたよ」

「そうなのか?てか、いつの間にそんな奴らと知り合ったんだ?」

「いや、ちょっと色々あってね」

 ナナは視線を逸らす。

「?」

 結果はどうあれ、街で暴動を起こそうとしたのだ(面白そうという理由で)
 ヘタしたら自分を含めて大目玉を食らうだろう。
 何とかごまかしたいナナだった。

「あ、あとルネって人も一緒だったよ。ユミリアさんに引き摺られてた」

「引き摺られてって、扱い雑だな。探してたんじゃないのか?」

 アルフはルネの様子を思い出しながら言ってみた。
 ルネは何かとユミリア、ユミリアとソレばっかりだ。
 だいぶ心配していたのではないだろうかとそんな風に考えているアルフ。

「そうかな?大切にしてそうな感じがあったけど」

「そうなのか?」

 アルフは大切に引き摺られるとはどういう事なのだろうかと考えたが、深く考えてもしょうがないとすぐに考えるのをやめ、口に料理を運ぶ。

「うん」

「そういや、イルは?アイツの事だから無事だとは思うが……」

「ああ、そうそう。それでユミリアさんから伝言」

「伝言?」

 オウム返しのように繰り返し、また料理を一口。

「『イルのヤツ、館で領主と一夜明かすって言ってたから、邪魔しないように』だって」

 噴き出した。

「だ、大丈夫!?」

「う、ゲホッ、ゲホ……! い、イルが、りょ、領主と?」

「う、うん」

「な、何で!?」

「さあ、『一晩語り合いたい』って言ってたとか」

「ゲホ、ゲホッ……!!」

「ど、どうしたの!?」

「い、いや、何でもない……き、気管支がスープに入っただけだ」

「お兄ちゃん、落ち着いて!それ大変な事になってるから!!」

「イルが、あんな悪趣味領主と?いや、ありえない。ありえない。そういえばイルも結構悪趣味レベルでドSなところもあるし、それで意気投合を!?……いや、イルはあれで人間的にはまともだ……まとも?いや、でもあんな領主みたいな悪趣味さじゃない。となるとなんだ?あ、あれか?俺が館をぶっ壊したからからか!?だから、責任を取って……まさか、そうか!そうなのか、イルっ!!!」

 一人でワナワナと震えながら、ブツブツ繰り返すアルフをナナがキョトンとした顔で見つめていた。

「何やってるの?」

 振り向くとイルムガルトが立っていた。
 ものすごい、呆れた顔でアルフの方を向いている。

「あ、ああ、イルか?」

「ええ、今帰ったわ」

「ど、どうだったんだ?その、領主と……」

「ええ……」

「? だいぶ不機嫌だな」

「ちょっとね」

「は、やっぱり俺のせいか!?」

「? アナタの?」

「や、やっぱり俺が館を壊したから……」

「ああ、そういう事。そうね。それも言っておかなきゃね」

「す、すまん! お、俺が……」

「アナタ、力使いすぎ」

「力?」

「だいぶ回復してきたとはいえ、あんなに無茶して力を使ったら体が耐えられるワケないでしょう?」

「あ、あの、イルさん?」

「何?」

「あの館は?」

「ああ、おかげで館はほぼ全壊。残ったのは地下の部屋ぐらいかしらね」

「う……」

「そのおかげで、裏帳簿や取引記録。その他もろもろの資料。おかげで帝国に潜む裏組織をある程度は潰せそうだわ。多少は帝国の寿命は延びそうね」

「そ、そうなのか? で、領主と一晩過ごしたってのは」

「ああ……っと、その前に」

「ナナ、少し下で待ってなさい。少し生々しい話をするから」

「? うん」

 ナナは部屋を出て行った。

「な、生々しいって、一体何を……」

「さて、領主と何をしてたのかって話だったわね」

「あ、ああ……」

「拷問してたのよ」

「ご、拷問!?」

「ユミリアが、領主をズタボロにしてくれたおかげで治療からはじめなきゃいけなくなったから、少し手間取ったわ。まあ、逃げられるよりマシだったけど……」

 とりあえず、その内容に関しては深く聞くのを止めたアルフだった。

「で、その領主様からは何か聞けたのか?」

「何も」

「へ?」

「取引相手は聞き出せたんだけどね」

「なら」

「殺されてたわ。恐らく魔物に」

「魔物? あの館から逃げ出したりしたのか?」

「いや、たぶんあの女の仕業よ」

「あの女……ローザか!?」

「恐らく、挟撃作戦はついでで、こっちが本命だったのかもしれないわね」

「いや、いくらなんでも、軍事作戦より、優先される事なのか?」

「そこが理解出来ないのよね」

うーんと、悩み込む二人。

「あの、すみません」

 亭主がアルフ達に声をかける。

「お客様がアルフ様にお会いしたいと申しておりますがお通ししても?」

「俺に?」

「ええ、ヴィズルと名乗っていました」

「ああ、アイツか。わかった通してくれ」

「かしこまりました」

「おう、邪魔するぜ」

「どうしたんだ?」

「いや、アンタがこの宿に泊まっているって聞いたんでな、ちょ〜っと酒代を返してもらおっかなーと思っちまって」

「ハハ、ナンノコトダイ」

 ヨソを向くアルフ。

「はは、冗談だ。で、アンタ領主の館ぶっ壊しちまったつーじゃねーか」

「耳聡いな。どっから仕入れたんだ?」

「あんだけド派手にやりゃ誰だって気付く」

「で、そんな事を聞きにこんな所まで来たのか?」

「まさか。でっけえヤマ追っかけてるつったろ? ようやく尻尾を掴んだと思ったら逃げられちまってな」

「間抜けね」

「うっせえ、てか喋れたのか、嬢ちゃん」

「まあね」

「で、そいつ領主のヤツとも絡んでたみたい何だ。お前なら何か知ってるんじゃないかと思ってな」

「ああ、そう言う事か。残念ながら俺は暴れただけだからな。こっちの方が知ってるんじゃないか?」

 イルムガルトはふぅと一つ溜息をつく。

「アナタの探し人は、この街の郊外。広い道の真ん中で、白骨死体になって発見されたわ」

「は、白骨死体!? って、アンタ、何で俺が探してる人間がわかるんだよ?」

「街中であんな派手に揉め事起こしてれば、流石に話ぐらい出るわ。大方、館での出来事に便乗したんでしょうけど、死人が出れば話題にもなるわ」

「な、なるほどなぁ」

「でも、そっか、死んじまったら、しゃーねぇ。約束通り、俺も魔王討伐手伝うぜ」

「はぁ!?」

 イルムガルトが思わずアルフの方を振り向く。
 アルフは、サッと顔を背けたが頭を捕まれ強引に戻された。

「どういう事か、説明して貰える?」

「い、いや、ご、誤解だ!っていうかヴィズ!お前、約束なんかしてなかっただろうが!!」

「ん〜、そうだったっけなぁ〜」

 そう言って、一枚の紙をアルフだけに見えるように取り出した。


 それは、酒屋の伝票。


 つまり、ここでOKしなければ、差額を請求するという意思表示だった。

 マズい。とアルフは思う。
 酒を飲んで話を聞くまでは彼女も了承済みだが、ここまで飲んで良いとは言われていない。
 もちろん、安くすませろだの、どれくらいまでなら飲んで良いだのは言われていないのだから、いくらでも言い訳できるが、相手はあのイルムガルト。
 すぐに言い負かされてしまうだろう。

 アルフは咄嗟にヴィズルに飛びついた。

「(わかった。連れて行く。だからその件は白紙にしてくれないか? 差額が必要なら今度払うから)」

「(ん、別につれてってくれるなら構わねーよ)」

「何してんの?」

「い、いやぁすまん。酔ってたみたいでな。記憶が曖昧だったんだ。確かに約束しちまったらしい」

「はぁ、仕方ないわね……」

「い、いいのか?」

「ええ、戦力があれば攻略の手口も増えるでしょうし」

 そう言って、イルムガルトはヴィズルの肩に手を乗せ、笑顔・・で語りかける。

「(妙な事はしないようにね?)」

「(お、おう……)」

 寒気のするような笑顔に気圧され、ヴィズルは頷いた。

(イルムガルト……コイツは油断できねぇな……でも、危険を冒すだけの価値はある。俺達の『革命』の為に……)

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