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フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.15「酒場にて」

はじめに

 今回で水上都市ゲムル編は終了です。

 では、どうぞ。

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第1章 第4話
第15節「酒場にて」

「……随分増えたわね」

 集まったメンバーを眺め、イルムガルトが呟いた。
 アルフ達は顔合わせも含め、酒場で集まり食事をする事にした。
 アルフ、イルムガルト、ユミリア、ナナ、ルネ、ヴィズル。
 ここに集まった六人のメンバーが集まっていた。

「本当にな」

 そう言ってアルフはワインを飲む。
 アルフは酒を飲む時、基本的に物は食べないタイプのため、ツマミには一切手を出していない。
 イルムガルトは逆に、酒は飲まずに食事をしている。
 赤いのか黒いのか、よく分からない色の皿が彼女の目の前に並べられていた。

「それにしても、よくそんなモノ食えるな」

 イルムガルトが食べているのは激辛料理だ。
 アルフの目からすれば、唐辛子しか乗っていないように見える。

「唐辛子攻めというのも良いわね。舌に痛み、喉に痛み、咳も止まらなくなりそうだわ。胃袋もそこそこ」

 うんうんと、(別の意味で)満足そうに食べているイルムガルト。
 次の拷問か何かに使う気じゃないだろうかと戦々恐々とする。

 ユミリアはアルフと似て、飲み物ばかり飲んでいる。ただ、彼女の場合は酒じゃなく、牛乳である。

「そんなに牛乳ばかり飲んで、気にしてるのか?」

 ユミリアの胸元を見ながらそうからかう。
 アルフにとってユミリアが女性であるという事は生物学上という意味合いとしか認識しなくなっており、酒も入っていたので、自然とセクハラまがいの発言が飛んでしまった。
 後方からイルムガルトの鉄拳《つっこみ》が飛んでくる。

「少しは自重しなさい」

「ってぇ……」

 ただ、ユミリア自身もその事を理解しているのか、気にする様子は全く無かった。

「んにゃ、違う違う。よく言われるんだけど、ボクのはただ単に好きなだけ。てか、ボクがそんな事気にするように見えるか?」

「いや、そこで意外なギャップを見せてくれれば、俺もお前が女性だと再認識できるんじゃないかなって」

「つー事は普段は見てないって事かな?」

「おう」

「はっきり言うねぇ」

「いや、最初は見てたぞ。『その格好、目のやり場に困るなあ』とかな。ただ、普段のお前の言動とか見てると、なぁ」

「まぁ、それは言えるわね」

「どうでも良くなって来るんだよな……」

「別に、性別なんて大した事じゃないしな」

「普通は大した事あるんじゃねーかな」

「はは、なかなか豪快な嬢ちゃんだな」

 ヴィズルがチキンにかぶりつき、麦酒《ビール》で流し込んで、二人の所にやってくる。

「その姿で、豪快呼ばわりは心外だね」

「がはは、ちげーねぇ!」

 席の端でナナが気まずそうに、野菜サラダをついばんでいる。
 何せ、ルネは置物のように席に座り微動だにしていない。
 食事もしなければ、何も飲まず、一言も喋っていない。
 隣に座ったナナはどうしたらいいか分からず、しどろもどろだ。

「あ、あの……」

「……」

「ユミリアさ~ん……!」

「はは、置物とでも思っておけば大丈夫さ」

「食べにくいよ~……」

「……」

 ふと、アルフがイルムガルトに問う。

「で、イル。明日からトロイアか?」

「いや、北西に向かう予定よ」

 トロイアはアルフ達のいるゲムルから北東に向かった先にある。
 北西では目的地からずれてしまう。

「北西?」

「ええ、今頃トロイアは戦闘状態。通り抜けるのは現実的ではないわ」

 トロイアは魔界『ナーストレンド』と人類圏を分かつ境界にある最前線の防衛拠点。
 その構造は三重の防壁で成り立ち、それぞれに特徴的な防衛機構を持つ。
 魔界に接する第一防壁は大砲や大型の魔方陣を主軸とする攻撃を主流とする進攻を防ぐ為の防壁。
 二つの防壁に挟まれた第二防壁はトラップが中心の足止めを主流とする防壁。
 人間側に最も近い第三防壁は最も堅牢で守りを中心とする時間稼ぎが目的の防壁。

 戦時中は防衛機構がフル稼働する為、各防壁間を決まった時間でしか通れなくなってしまう。
 その為、帝国側からでも砦を抜けるのは時間がかかる。
 例え通り抜けても、戦争のど真ん中を突っ切る事になるので、危険極まりないし非効率なのだ。 

「でも、あそこを通らないと向こう側にはいけないだろ?」

「裏道があるのよ」

「裏道?」

「ええ。信じ難い事にね」

「信じがたいとは、随分意味深じゃねぇか」

「アルフ、あの女……なんであそこにいたと思う?」

「あの女?……ああ、ローザか。そりゃどっかから侵入してきたんじゃないか?」

「どこか、ってどこ?」

「ん、ああ。そういう事か」

「どういう事?」

 ナナがユミリアの方を向いて聞く。

「話を聞く限りだと、そのローザって女は魔族側の刺客って事でいいか?」

「あ、うん。会った事ある……」

 ナナが少し視線を逸らしながら答える。

「だとすると、その女がこっちに来るなら、普通、砦と山脈を越えなきゃならないんだよ。トロイアの砦を越えるのは困難だ。特に戦時中の今なら、通り抜けるのはまず無理だろうね」

「はぁん。それで、砦を使わずに通れるルートがあるって事か」

「そういう事。砦以外に通れるルートはイアールン鉱山方面しかないわ」

「だから、北西か」

「そういう事」

「ところでさ、外が騒がしくないか?」

「外?」

 丁度、その声に反応するかの様に、店の外から大声が聞こえた。

「た、大変だー!」


 何事かと全員で飛び出す。

 外に出ると、ボロボロの帝国兵が息も切れ切れに街道を大声で叫びながら走っていた。
 やがて、街道の段差に躓いて転ぶと、起き上がる気力もないのかぐったりとそのまま倒れたまま荒い息を吐いていた。
 アルフが兵に近付いて、体を起こす。

「おい、大丈夫か!?」

 かすれた目でアルフを見る兵士。

「き、君は……」

 イルムガルトは兵士の状態を見て他の人達に指示をだす。

「ナナ、彼の傷の手当を」

「あ、は、はい」

「ヴィズル。アナタは宿に行って、部屋を取って。宿代は私が持つわ」

「お、おう」

 ヴィズルが走って宿に向かい、ナナが薬を取り出して兵士の傷口に塗る。
 イルムガルトはしゃがみ、兵士と視線を合わせると表情を緩める。

「私は教会のイルムガルト・イェンナ・フォルナールです。一体何があったのですか?」

「あ、ああ、い、イルムガルト様……お願いです、砦を、トロイアを……」

「トロイアが、どうかしたのですか」

「と、トロイアが陥落しました……!」


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