見出し画像

フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.8「二つの目的は領主の所へ」

はじめに

 ユミリアサイド~>アルフサイドです。
 プロットにない展開はどう進めようか非常に悩みますね。
 アレ? ナナが魔法使いフラグ立ててる(汗

 では、どうぞ。

[ - 目次 - ]

<< 前

―――――――――――――――――――――――――――――――――

第1章 第4話
第8節「二つの目的は領主の所へ」

 巨大魚を倒した五人とスラムの住人達は力尽きたように眠り込んでいた。
 死んだ魚は川に浮かび、橋の隙間に引っかかっていた。
 ユミリアは腹を見せる魚の上に飛び乗り、死体の検分を始めている。
 ナナは半ば無理やり連れて来られる形で魚の腹の一番安定している真ん中に立っている。

「ん~」

 しゃがんでペチペチと魚の腹を叩くユミリア。
 何気なく、ナナがユミリアに質問をする。

「ねえ、ユミリアさん。この魚……魔物、だよね」

「へぇ、わかるのか?」

「うん、なんとなく、流れが違うみたいな……」

 『人や動物』と『魔物』の違いは『魔核』の有無と『害悪性』にて判断される。
 前者は生物的な違い、後者は社会的な違いであり、今回ナナが指摘していたのは前者だった。
 見た目だけでいうなら、その姿は巨大ではあるがただの魚だ。
 それだけでは『怪物』であるかもしれないが『魔物』では無い。
 魔物はその体内に魔力の発生器官、通称『魔核』を持つ存在を指す。
 だからこそ、人と魔物では体に流れる魔力の流れに若干の相違が生まれる。
 ナナはその違いが分かったようだ。

 魔族はその中でも知性のある者、魔人は人に魔核がある者 

「ふ~ん、素質があるのかもしれないなぁ……」

「素質?」

「魔法のさ」

「そうなの?」

 人は空気中の魔力を呼吸によって取り込み、血液として体中を循環させている。
 魔法を使うときはその溶け込んだ魔力を呼び水として使うのだ。
 一方、魔物は魔核が魔力を生み出しその魔力が血液に乗って体中を循環させている。
 ちなみに、だからこそ魔物と人間の間に決定的な力の差が生じてしまうのである。

「魔力の流れを感じるのは魔法の基本だけど、その流れで魔物かそうでないかを区別をつけるのは難しいからね」

 どちらも血液と一緒に体内を循環する構造は変わらないので、魔力が呼吸を通じて流れるか、体の内側から自然発生しているかを見極めなければならないが、傍目からその違いを見抜く事はまずできない。
 意識的に魔力濃度を上げなければ可視化されるような事もないので、魔物かそうでないかを見分けるのは、空気の違いを肌で感じ取るような繊細なセンスが要求される。

「へぇ……」

「まあ、知性の高い魔族なら隠せるから、その能力自体はあんまり大した事ないんだけど……」

「そうなんだ」

 若干うなだれるように声色に表れている。

「でも、基礎をしっかり理解してないとできない事だからな。それを感覚でできるのは十分な素質があるんだと思う」

「へぇ~」

 声に少し明るさが戻る。

「わかりやすいな。坊」

「え、あっ……!」

 笑って指摘するユミリアに対し、ナナは顔を赤らめる。

「で、坊。この魚、どう思う?」

「どうって……この辺りの魚じゃないよね……」

「どうして、そう思う?」

「魔物だし、体当たりして柱折ったし……あんなのがここにいるなら、ここをスラム街にしないと思う」

「おお、かしこいな」

 ユミリアがナナの頭を撫でる。

「へへ」

 ひとしきりナナの頭を撫でた後、ユミリアはナナをつれて柱に戻った。

「さて、アイツ等が目覚めたら、この魚を連れ込んだ黒幕をぶっ殺しに行こうか」

「黒幕?」

「『領主』だよ」

 地上では月が町を照らす時間になった頃、町の酒場ではアルフとヴィズルがいまだ酒を交わし続けていた。
 アルフはワイン。ヴィズルはウィスキーのボトルをそれぞれ5本ずつ空けていた

「へぇ!アンタ等、魔王討伐なんかすんのか!」

「ああ、仕方なくな~」

 酔いでテンションは上がっているが、普通に会話をし続けている。
 二人とも、酒に強いようだ。

「スゲェな。俺も、んなでっけぇ事、やってみてぇモンだぜ」

「なら、アンタも来るか?」

「いやぁ、行きてぇのはヤマヤマだがよ。ちっと今は離れられねぇんだ」

「ん、何でだ?」

「今でっけえヤマ追っかけてんだが、どうにも尻尾を掴ませちゃくれねぇんだ。コイツが片付くまで、俺ぁ離れる事ぁできねぇ」

「でかいヤマ?」

「お、いいか、これがなぁ……っと、いけねぇ、いけねぇ。危うく話ちまう所だった」

「いいじゃねーか、話してくれよ」

「へ、手柄を取ろうったって、そうはいかねーぜ」

「手柄って何だよ?」

「そんだけデケェヤマだって事だよ。酔ってても、コレだけは教えらんねーぜ」

「ケチ」

「はは、悪ぃな」

 ルネがアルフの元にやってきた。

「お、どうしたんだ?」

 ルネはイルムガルトの言う通り、アルフに報告した。
 アルフはルネもどうだと誘ったが、ルネは無言でアルフ達が泊まっている宿に向かってしまった。
 宿でしばらく待っていたがこの時間になっても、二人とも・・・・戻ってこなかったので迎えに来たのだった。

「まだ、戻ってきていない」

「イルが?」

 ルネは頷いた。
 ルネとしては一刻も早くユミリアと合流したいという意志しかないが、結果的にイルムガルトがいないという異常を伝えに来た形となった。

「おいおい、もうこんな時間だぞ、大丈夫なのか?」

「……そうだな。ちょっと探しに行くか」

「手伝うぜ」

「いや、それにはおよばねーよ。ごちそうさん」

「おう」

 そう言ってアルフはルネを連れて酒場を出て行った。

「……って、オイ! ちょっと待て!!」

「お会計です」

 間髪いれずに店員が持ってきた伝票を見て顔を青褪めるヴィズル。

『合計150エレ』

「少しは払えよ! クソやろおおおおおお!!!!!」

 酒場を出たアルフ達はヴィズルを撒く為にすぐ近くの脇道に入る。

「さって、行くか」

「下?」

 どうやら、ユミリアが地下のスラム街いるのではないかとにらんでいるようだ。
 アルフもイルムガルトと同じ結論に辿り着いている。ならば、この少年がその可能性に気付いている事もなんら不思議ではないだろう。
 しかし、アルフの目的はそこではない。

「いや、噂の「『領主』様の所さ。おそらくイルはそこにいる」

 イルムガルトは何らかの手段で領主に近付いているだろう。
 そう、直感が告げていた。

「……」

 無表情で無言のまま立つルネ。
 ユミリアの事ではないので、動くつもりもないようだ。

「ユミリアも来るはずだ」

「行く」

「お前、ほんとユミリアの名を出すと即断するな」

「?」

「騙されないように気をつけろよ」

「? 騙す?」

「いや、俺達がユミリアと行動してるのは本当だ……というよりアイツが勝手に付いて来てるんだが」

「なら問題ない」

「いや、他にも騙して来るヤツがいるかもしれないだろ?」

「いたら……」

 ルネは少し首を傾けながら、手を首の前に持ってくると、真一文字に引いた。
 首狩の仕草。どうやら、騙したら『死、あるのみ』という事らしい。

(イル。命拾いしたな……)

 アルフ達は領主の屋敷のある街の西側、川の上流の方へと向かう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

次 >>

▼公開情報▼

こちらでも公開しております。


もし、気に入っていただけたり、お役に立てたならサポートしていただけると励みになります。