フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.9「悪趣味領主」
はじめに
さて、この第4話が始まってから度々話に出てくる領主の登場です。
だいぶ気持ち悪くしてみたつもりです(悪役らしく)
では、どうぞ。
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第1章 第4話
第9節「悪趣味領主」
鉄格子の中に一組の家族がいる。
男性が一人、女性が一人、そして女の子が一人と男の子が一人。
男は腕をもがれ、意識を失っている。
女性は全身が痣だらけで虫の息だった。
皆鎖につながれている。
扉が開く音がし、二人の男が入ってくる。
一人は貴族風な身なりの潰れた蛙のような顔をした脂っこい男、もう一人は屈強な肉体を持つ男。
これが、『領主』とその護衛である。
護衛の男が鉄格子の中に入り、子供二人を連れ出そうと鎖を引っ張った。
その子供の母がすがりつくように懇願する。
「お、お願い、で……どうか、どうか……!」
消え入るような声ですがりつく女性。
男は、女を蹴飛ばし、外で待つ貴族風の男に女の子を渡した。
子供達は泣きじゃくるも、男に猿轡をされ、声を封じられる。
「んー。んー……!!!」
「チッ、暴れんなよ」
男は二人の首を絞めて意識を奪う。
「ダメじゃないか。壊さないでくれよ?」
「俺はそんなヘマはしない」
「それに、折角の悲鳴じゃないか。じっくり堪能するべきだと私は思うね」
「こんなに煩くては話が出来ない。『舞台』なら会場でじっくり楽しめばいいだろう?」
「ふむ、それもそうか。焦らされるのもまた一興というわけだね」
「まー、そんなとこだ」
「ああ、猛獣の雄たけびと若き子らの絶叫、それを見た彼らの上げる悲鳴……」
領主はうっとりと語る。
「すばらしいとは思わんかね?」
「概ね同意するが、どっちかっていると俺はあの『ペット』共がアレでどんな遊びをしてくれるかの方が興味あるんだよ」
「うむ、それは私も楽しみではあるよ。どれだけ無様に踊ってくれるのか……ふふ、それを想像するだけで私はイってしまいそうだよ」
「で、コレの『開演』はいつなんだ? アレを運ばにゃならんのだが」
そう言って男は後ろの鉄格子を指差す。
そこでは先程の意識を失った男女が無造作に転がっている。
「ううむ、もう少しで良い舞台が整うと思うのだよ」
「珍しいな。いつもならそろそろ始める頃合だろ?」
「実は新鮮なのが手に入ったんだ」
「新鮮?」
「これが実に若々しくて元気な子でね」
「このガキ共よりもか?」
引き摺る子供達を指してそういう。
角に頭をぶつけようが、擦り傷が増えようがお構いなしだ。
領主は廊下に無造作に置かれた空き箱の箱を開ける。
「うーん、若さで言ったらこの子達の方が若いけど、あの子の方がずっと元気だよ」
「そりゃ、このガキ共は随分使い込んだからなぁ、だから『舞台』に出すんだろ?」
「そうなんだけどね。それもそろそろマンネリ化してきたじゃないか?」
「まー、確かに。そろそろ飽きてきたな」
「うんうん。だから、少し趣向を凝らしてみようと思うのだよ」
「趣向?」
領主は引き伸ばされた蛙のように潰れた顔をにちゃりと歪める。
「まず、この子達にその少女が食べられる様をマジマジと見せるんだ。イキが良いからね。それはもう暴れたり抵抗したり、良いショーに思うんだ」
領主はしゃがみ、脂ぎった手で子供達を撫でる。
「最後に少女は絶望と恐怖と苦悶の声で歌ってくれると思うんだぁ」
「なるほど。恐怖を極限まで植えつけるわけだな」
「そう! そして、食べ終わった所で両親のご登場だ。この子は心配するだろうねぇ、パパやママが食べられると思って……」
「でも、開く鉄格子は彼らじゃないんだぁ」
領主はゆっくり立ち上がって男に笑いかける。
「この子達だ。この子達のだ! 一瞬にして心配する側とされる側が入れ替わるんだよ!!」
「すぐに気付くだろう。エサになるのは自分達だと。食べられるのは愛しの子供達だと!」
「ああ、会場は恐怖と悲鳴で包まれるだろう! 会場が絶望と嗚咽で潤うだろう! それを蹂躙する魔物達の咆哮に会場が! 彼らが! そして私達が震え上がるだろう!!!」
領主は子供達を木箱に詰めると
「ああ、たまらない」
「へへ、そりゃ楽しみだ」
「嬉しいよ。私の周りにこの趣味を理解してくれる人はまずいないんだ」
「全く、良い趣味してやがる。俺もしてぇが何分金がかかる」
「仕方ないさ。魔物を仕入れるのも、奴隷術をかけるのも、人を攫うのも、その隠蔽にも、どれも相応の額を払えなければ、ここまで楽しめないよ」
「んなに金使って、良く底を尽きないモンだな」
「なに、金ならこの街でいくらでも湧き出るじゃないか。それに、いざとなったら何匹か町に放して、魔物が出たとかいっておけば、帝都から復興支援の金を貰えるだろ?」
「それで、あの魔物どもを放り出したのか」
「案の定、帝都からいくらか支援してもらえる事になったさ」
「だが、それはマズいんじゃないか? 教会が関与してきたら」
「『教会』など所詮『教会』。魔物退治しか興味のない者の集まりだ。帝国の介入さえなければ何とでもごまかせるさ」
「で、今回の前座を務める少女がこちらさ」
そう言って領主が扉を開く。
そこで、少女が寝かされていた。
青みがかった黒髪……イルムガルトだった。
「ん、んぅ……」
イルムガルトはすでに目覚めており、寝たふりをしていた。
先程の会話もまる聞こえである。
だが、イルムガルトにとってはまだ足りない。
街に魔物を放ったのは領主である事はすでに分かっていた事であり、先程の会話は裏が取れた程度の事でしかない。
領主があれだけの魔物を一人で用意できるはずがない。
魔物を仕入れ、隷属魔法をかけた『仲介業者』がいるはずだ。
教会としてはそちらを、元を断たなければいけないだろう。
さて、イルムガルトはここからどうやって領主から情報を引き出すか。思考をめぐらす。
(とりあえず演技をして、様子を見ましょうか……)
「どこ、ここ? え、あれ? な、何で縛られてるの!?」
「お目覚めかね。お嬢さん?」
「あ、あの、あなた、は?」
領主が突然イルムガルトの頭を蹴り飛ばす。
「? ……?」
「おお、君は突然の事に何が起こったかわからなくなるクチなんだねぇ」
荒い息遣いで嘗め回すようにイルムガルトを見る領主
(なるほど、他者を痛めつける事に興奮を覚えるタイプか……となると……)
続いて何度も何度も頭を踏みつける。
「い、痛い、痛い!!や、やめ、止めてください」
イルムガルトが声を上げると、領主は満足したのか足を止めた。
「ああ、止めてあげるよぉ。今のはちょっとした味見なんだぁ……」
(はぁ、痛めつけ方も雑……こんな頭の悪さじゃ、情報も期待できないわね。黒幕の場所聞き出したらさっさと引き渡すか……とりあえず『舞台』とやらには参加してあげようかしらね)
「おい、そろそろ……」
「ああ、そうだ。そうだねぇ」
領主は気持ち悪い笑顔をイルムガルトに向ける。
「待っててね。もうすぐおいしいディナーになれるからね」
(じゃあ、堪能してもらおうかしらね『毒蛇』のディナー)
怯えるように体を震わせながら、領主達に引き摺られる形で『舞台』へと向かった。
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