フヴェルゲルミル伝承記 -1.4.14「地下スラム街の行く末を」
はじめに
ユミリアサイドです。
では、どうぞ。
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第1章 第4話
第14節「地下スラム街の行く末を」
「ふぁ~……」
ユミリアがスラム街を歩く。
後ろにルネが付いてくる。
特に何かをするでもなく、何かを話すでもなく付いてくる。
ルネとは一段落した領主の館で再会していたが、その時も二人は何も語らず、イルムガルトからルネと気絶したアルフを受け取ると、そのまま宿に向かった。
いつもの事だ。
ユミリアはルネを意に返さない。
まるで空気のように彼の一切を気にしない。
無視しているわけではない。
ただ、気にしていないのだ。
ルネはユミリアについていく。
まるで飾りのように彼は彼女についていく。
嫌々ではない。
ただ、当たり前なのだ。
二人にとって、それが普通であり、当然なのだ。
柱を抜け、スラムの通りに出る。
布を張り合わせた道は相変わらずゆらゆら揺れている。
アミューズメントとしては面白そうだが、日常生活に使うには不向きな構造だ。
ユミリアが遠くを眺めると、壊れた柱をスラムの住人達が修理している姿が見える。
下を覗くと、何人かの人間が釣り糸を垂らしていた。
この町の住人はそうやって食をつないでいるのだ。
川から反射する光が、町を明るく照らしている。
地下のスラム街だが、昼間はこうやって案外明るいのだ。
雨も凌げるので、見ようによっては暮らしやすいスラム街ともいえる。
スラムの住人達の家、ハシゴ代わりの柱をトントンと軽い足取りで降りる。
スラム街の中層まで来た時、アーノルド達五人がユミリアに顔を見せる。
「姐御」
「おー、全員生きてたな?ってか、アレじゃあ死ぬ要素がないな」
「はい。でも感謝してます。仇、討てましたから……」
「……感謝」
「姐さん、マジサンキュー」
「礼は言ってやる」
「改めて、姐御。ありがとうございやす。コレであっしらは自由になりやした」
「良かったな。で、これからどうすんだ?」
「イルムガルトさんでしたっけ、彼女に聞きました。この町に帝都から代わりの執政官が来るらしいんです。次は有能なのをよこすよう進言するって言ってくれました」
「へぇ、じゃあ心配ないんじゃないか」
「はい」
「で、君達もついにこの地下生活ともおさらばできると」
「いえ、俺達はこのスラムを改良して、地下で暮らそうと思います」
「今更、地上で俺達の居場所なんてないだろうからな」
「こんな危険な所で物好きだねぇ」
そう言ってユミリアはクツクツと笑う。
「師匠に似たんじゃないっすかぁ?」
「同意」
「言ってくれるね」
「ただ、身を引いたワケじゃないっすよ。俺達はこの地下スラムを上より暮らしやすい世界にして、やつらを見返してやりますんでさぁ!」
「ええ、地下スラムとはいえ、ここはこの都市の要所です。そして、ここで暮らしてる人達にもこの柱は生命線です。上にいた時は気にも留めてませんでしたが」
「だ・か・ら、自分達ってこの街では柱について誰よりも詳しいんすよねー」
「俺達はここで、この柱と共に暮らす。それがこの街の為にもなるし、飢えの連中も俺達をないがしろにはできねぇ。しかも、下の川で魚も取れるから商売も出来るし食いっぱぐれねえ。俺達がちょっとイジりゃ随分暮らしやすい所になるぜ。それこそ上に暮らしてるヤツら以上になぁ!」
「……皆で決めた」
「そういう事で、あっし達は新しい執政官と話し合って、この街を建て直せればと思っていやす」
「了解。イルに話といてやるよ。そういうのは好きそうだし、何とかしてくれるんじゃないか?」
「いいんすか!?」
「期待すんなよ」
「いえ、十分です。後は僕達で何とかします。いや、して見せます」
「そっか、じゃあ期待してるよ。次にでも来た時、どうなってるか楽しみにしてるよ」
「もちろん、生まれ変わった街で存分にもてなしさせていただきまさぁ!」
「楽しみにしとくさ。んじゃ、そろそろ行くとするよ。達者でな」
「「「「「ありがとうございました!!!!!!」」」」」
ユミリアはルネを連れて、柱の先に消えていった。
ルネは最後まで喋らず、ユミリアの後ろでただ待機していた。
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