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54.悪寒戦慄があったら要注意!

ミュージカル好き救急医の独白 vol.54
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

みなさん, インフルエンザに罹ったことありますか?一般的に高熱が出ますが, 熱が出る前あたりに寒気を自覚しますよね. 決して薄着をしているわけでもないのに身体がブルブルするあれです. 中には布団をかぶってもブルブルが治まらなかった経験がある人もいるでしょう.
インフルエンザ以外の感染症でもこの寒気を自覚することがあり, その程度が激しい場合には危険なサインであることもあるのです. 今日はそんなブルブルのお話を.

今回のミュージカル

ダンスオブヴァンパイア
「プロフェッサー, プロフェッサー」, アルフレートが客席を歩きながら叫びます. 吹雪の中でアブロンシウス教授を探しているのです. 狼の吠える声の寒さにアルフレートは震えあがりながらブルブルブルブルしているわけです. 大人気ミュージカル『ダンスオブヴァンパイア』の一幕のはじめです. 初演から観劇していますが, 山口祐一郎さんのパワフルさは衰えるどころか再演を重ねる毎にパワーアップしています. このミュージカルの魅力は多々ありますが, やはり山口さんのソロナンバー, それもある程度の尺があるナンバーが何曲もあることでしょう. 圧倒的な歌唱力と表現力, 一幕の『フィナーレ』, 二幕の『抑えがたい欲望』, もう素晴らしすぎてブルブルしちゃいますよ.

救急外来あるある

77歳の女性(zさん)が, 自宅で動けなくなり救急搬送となりました. 39℃の発熱があって辛そうです.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.z:「昨晩からなんだか体調が悪くて. 」
Dr.S:「熱があるようですが, 寒気はありましたか?」
Pt.z:「朝からガタガタ震えてしまって…」


悪寒戦慄とは

悪寒とは「急な発熱により起こる, ぞくぞくとした寒け」と辞書を引くと書いてあります. この悪寒, 程度があります. 重ね着でブルブルがおさまる軽度悪寒(mild chills), 重ね着でもブルブルがある中等度悪寒(moderate chill), 布団の中でもブルブル, 歯がガチガチの悪寒戦慄(shaking chills)の3段階に分かれ, 悪寒戦慄を認める場合には, 菌血症といって血液の中に菌が入り込んでいる(菌血症といいます)可能性が軽度の悪寒に比べると数倍以上と報告されています. 布団をかぶってもブルブルガチガチしてしまい, その後発熱を伴う場合には注意が必要です.

どんな病気で悪寒戦慄を伴いやすいのか

注意が必要といっても寒気だけでどうにかなってしまうことは通常ありません. インフルエンザのときも寒気があってもしばらくすると落ち着いてきますよね. 問題となるのは勝手に治らない病気です. 感染症でいうと肺炎や尿路感染症などの細菌が原因となることが多いものです.
悪寒戦慄を認めると血液の中に菌が入り込んでいる可能性を考えないといけないと述べました. それではどのような細菌感染がこのような状態に陥りやすいのでしょうか. 2つだけ今日は覚えておきましょう. 1つ目は腎盂腎炎などの尿路感染症, そしてもう一つが胆管炎です. どちらも腸内細菌が悪さをするのですが, これらは血液の中に比較的菌が入りやすいのです.
つまり, 悪寒戦慄を伴い, その後発熱を認め状態が悪い場合には, 尿路感染症や胆管炎を考えないといけないのです. 悪寒戦慄+背部痛, 悪寒戦慄+右上腹部痛などには要注意ということですね.
女性の場合には尿路感染症の頻度が比較的高いため, zさんの場合には, 腎盂腎炎かな?って思うわけです. わかりました?


♪真実は 一つだ そう 卑しく恥ずべき欲望こそが 我らの支配者♬
『抑えがたい欲望』

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