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③髄膜炎の来院パターンと初期対応を知る!

頭痛の横綱疾患といったら, クモ膜下出血, そして髄膜炎です. 髄膜炎の中でも特にエマージェンシーなのが細菌性髄膜炎です. 無菌性(ウイルス性)髄膜炎ももちろん見逃してはいけませんが, 細菌性の場合には初療で拾いあげなければ予後は一気に悪くなってしまいます.

頭痛診療の心構え:頭痛 7 Rules

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いつ細菌性髄膜炎を疑うのか

細菌性髄膜炎を初療から診たことがあるでしょうか?肺炎や尿路感染症とは異なり, 毎日診る疾患ではありませんが, 疑い症例を含めると決して稀な疾患ではありません. 診療の場にも依りますが, 毎週の様に疑い症例に出会い, 2ヶ月に1件は出会う, そんな感じでしょうか. 1日に3件, それも日中の救急外来で遭遇したこともありますからね.
細菌性髄膜炎の古典的3徴というと, ①発熱, ②項部硬直, ③意識障害が有名ですが, 全て揃うのは半数程度です. 揃っていれば誰もが疑いますが, 揃うまで待っていてはいけません. 頭痛の頻度も比較的高く(85-87%), 3徴+頭痛のうち2つを満たす場合には必ず鑑別に挙げるべきでしょう. 逆に, 頭痛は認めるものの, 3徴全て認めない場合には髄膜炎の可能性はぐっと下がります(2, 3).
経過も大切です. 細菌性髄膜炎は数時間〜数日の経過なのに対して, 数週間, とくに4週間以上続く場合には, ウイルス性, 結核, ライム病, 梅毒, さらにはクリプトコッカスなど真菌性の可能性が高いでしょう(4).
救急外来ではとにかく見逃さないことが大切です. 頭痛を主訴に来院した場合には, 3徴, 特に意識障害の有無が大切でしょう. 急性経過で意識が普段と異なれば, 細菌性髄膜炎を必ず鑑別の上位に挙げ, その他の原因が確定できない限りは精査するべきです. そんな大袈裟な, やりすぎではないか, そのような指摘も時に受けますが, 限られた時間の中で迅速な対応が求められる髄膜炎診療において, 現場で悩みすぎていては治療が遅れてしまいます.

疑ったらどのように行動するのか

細菌性髄膜炎?と思ったらズバッと頭を”細菌性髄膜炎モード”に切り換えて対応します. 具体的には, ルート確保や一般の採血は提出し, ABCは安定した状態とすると, 血液培養2セット, 頭部CT, ステロイドを投与し抗菌薬投与, それと同時に腰椎穿刺といった手順です. やることが多いため, 一人で対応するのではなく人を集め対応することを忘れずに!
培養を採取してから抗菌薬を投与するのが理想であるため, 腰椎穿刺は抗菌薬投与前に行いたいとこではありますが, 準備やら手技の関係で数分で終わるものではなく, また抗菌薬を投与してもすぐに血液脳関門を突破し髄液から菌が消えてしまうわけではありません. ステロイド・抗菌薬を落としながら腰椎穿刺を施行するというのが現実的でしょう. 来院後1時間以内の抗菌薬投与が一つの目安となります(5).
頭部CTは必須かと言われると, 頭蓋内圧亢進所見などいくつかの判断基準が存在しますが, 救急外来で出会う細菌性髄膜炎の多くは意識障害を伴います. 1/JCS, なんとなくおかしいといった僅かな意識障害を逃さず対応することが大切なわけです. ってなことで, 意識障害の原因検索目的に頭部CTを撮影するといった流れになります. 多くの施設で頭部CTが即座に施行可能なため, あまりここは悩まなくてOKでしょう. 撮影できない, もしくは腰椎穿刺の禁忌である頭蓋内圧亢進, 穿刺部位の汚染(褥瘡など), 凝固異常などを伴う場合には, 細菌性髄膜炎として治療開始します. 血液培養をきちんと抗菌薬投与前に採取していれば, 半数以上の症例で菌が検出され, 臨床経過とともに判断できるでしょう. 
ちなみに, 頭部CTを撮影したら必ず隈無く読影しましょう. 当たり前のことではありますが, 頭が髄膜炎モードになっていると, 頭部CTは陰性だろう, または頭蓋内圧亢進所見がないかという点のみに注目して読影しがちです. 髄膜炎だと思ったらクモ膜下出血だった, 髄膜炎だと思ったら脳腫瘍だった, 髄膜炎だと思ったら◯◯...など, 頭痛や意識障害の原因が実は他に存在するかもしれません. 頭部CTに限りませんが, 具体的な疾患や病態を意識して読影するとともに, 一度は客観的な視点で気持ちを切り替えて読むようにしましょう.

意識が悪いのは熱のせいでは?

意識が悪いのは発熱のせいではないか, 認知症のせいではないか, そんな風に考えてはダメですよ. 肺炎の3人に1人, 尿路感染症の4人に1人は意識障害を伴うため, これら救急外来で頻度の高い2大感染症だと根拠を持って診断できる場合にはその限りではありませんが, 肺炎や尿路感染症をその場で診断するというのは簡単な様で難しいものです. 特に意識障害を伴う敗血症の状態の場合には, その後の経過や培養結果をみて確定診断していることが多いのです. さらに, 肺炎が存在したからといって髄膜炎が否定できるかというとそんなことはありません. 肺炎球菌性肺炎と肺炎球菌性髄膜炎は合併しますからね. 経過や画像から肺炎が考えられても, 意識障害を認める場合には髄膜炎を考えておかなければいけないのです. 抗菌薬の投与量や選択が大きく変わりますからね.

脳炎も忘れずに

細菌性髄膜炎を疑う症例においては, ウイルス性のなかでも最も多い単純ヘルペスウイルス脳炎(herpes simplex virus encephalitis : HSVE)も考える必要があります(6). 早期のアシクロビルの静脈内投与が推奨されており, 初療の段階で髄液のグラム染色などで起因菌(原因)が同定されていない場合には, 初期治療としてはアシクロビルも併せて開始し, 検査結果や臨床経過を踏まえ判断するというのが現実的です.
抗N-methyl-d-aspartate(NMDA)受容体脳炎など自己免疫性脳炎の可能性も考慮し対応することもありますが, 救急外来におけるマネジメントとしては, とにかく意識障害を伴い細菌性髄膜炎を否定できなければ, ”細菌性髄膜炎モード”のスイッチを入れ対応するといったシンプルな考え方でOKです.


参考文献

#1. Attia J, Hatala R, Cook DJ, et al. The rational clinical examination. Dose this adult patient have acute meningitis ? JAMA. 1999 ; 282 : 175-81.
#2. van de Beek D, de Gans J, Spanjaard L, et al. Clinical features and prognostic factors in adults with bacterial meningitis. N Engl J Med. 2004 ; 351 : 1849-59.
#3. Brouwer MC, Thwaites GE, Tunkel AR et al. Dilemmas in the diagnosis of acute community-acquired bacterial meningitis. Lancet. 2012 ; 380 : 1684-92.
#4. Jain R, Chang WW. Emergency Department Approach to the Patient with Suspected Central Nervous System Infection. Emerg Med Clin North Am. 2018 Nov;36(4):711-722.
#5. 日本神経学会, 他(監), 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014作成委員会:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014. 南江堂, pp 1-123, 2014
#6. Kamei S, Takasu T : Nationwide survey of the annual prevalence of viral and other neurological infections in Japanese inpatients. Intern Med 39 : 894-900, 2000.
#7. 日本神経感染症学会, 他(監), 単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017作成委員会:単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017. 南江堂, pp 1-100, 2017

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