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発酵という最高のエンタメに出会った話

発酵、好きですか

私は以前まで素通りしてました。
日本酒やパンを筆頭に発酵食品は大好きなのですが、発酵という言葉が前面に出てくるとおいしさより健康が強調されがち、そんな印象からあまり面白みを感じず距離を置いていたのが理由でした。

ところがふとしたきっかけで発酵を系統立てて知ることになり、一瞬にして認識が変わりました。
発酵とは、最高のエンターテインメントである、と。

楽しさがわかるようになると、発酵は沼です。
学問的な学びも楽しければ、自分で発酵食品を作ったり試して遊ぶこともできます。
発酵を知ると日々の食生活も豊かになります。
お酒は発酵の力を借りて作られますし、醤油、味噌に限らず日々の様々な料理が発酵によって作られています。
発酵の知識は日々の中で役立ち、美味しさを深めてくれます。

発酵とは

微生物が人間の役に立つ形で働いてくれることを発酵と呼びます。
発酵を学ぶことは微生物の特徴を知り、彼らとの遊び方を覚えていくことと言えます。

生物のうち目に見えない小さなものを微生物といいます。
乳酸菌、納豆菌、カビなど。
たとえば麹菌はカビの仲間で、味噌、醤油、みりんなど生活に欠かせない様々な食品がこの麹菌、カビによって作られています。
ビール、ワイン、日本酒、パンに欠かせない酵母も微生物です。
微生物が毎日をおいしくしてくれています。

微生物を知ると生命が面白くなる

この微生物、面白いんです。

微生物、細菌には酸素を必要とする好気性菌と、その逆の嫌気性菌があると知ったときそれを感じました。

そもそも酸素は地球誕生当初の大気に多く含まれていません。
生命が誕生した 40億年前の地球は高温高圧の水蒸気、二酸化炭素、窒素の大気に覆われ、ガスの厚みで太陽の光も地表に届かず、海の底で火山から湧く硫黄などを餌に細菌が細々と生きるくらいでした。

大気に酸素が満たされるのは 27億年前、ガスが晴れて太陽光が地表に届くようになり、光合成を獲得したシアノバクテリアという細菌が誕生します。
このシアノバクテリアが光合成により酸素を作り、大増殖とともに大気が酸素に満たされ、やがてオゾン層の形成にまで至り、生命が地上を目指す次のステップが始まりました。
いまの地球は微生物が作ったとも言えます。

DALLE によるシアノバクテリア誕生のイメージ生成
時代考証は大いに間違っている

酸素を代謝に使う好気性菌はこのシアノバクテリア以後に誕生したと考えられます。
学びたての私には自分の身の回りに目に見えない微生物の世界があり、その特徴を紐解くと 27億年といった地球の歴史をたどることになる不思議さと壮大さが刺さり、発酵への興味が一気に深まりました。

人は微生物と共に暮らしている

この地球で暮らす限り、人間は常に微生物の影響を受け続けています。
わかりやすい影響は、腐敗です。
腐敗も発酵もどちらも微生物の作用によるものです。
何かが腐敗するとき、そこには微生物がいます。
人間が役に立つと思えばそれは発酵と呼ばれ、それ以外は腐敗と呼ばれます。
微生物は目に見えませんが、腐敗や発酵を通じてその存在を実感できます。

また人間と微生物は不可分です。
常在菌や腸内フローラで知られるように人間は様々な形で細菌を宿しており、その数はひとり辺り 100兆を超えます。
細菌は栄養素の分解、ビタミンの生成、免疫反応との関与など様々な形で身体機能に作用しており、人の身体はこの細菌との合作で成り立っています。

自分が勉強したことのない分野というのもあったのでしょうか。
身の回り、今このときも周りに微生物たちの目に見えない世界があり、その存在は人間よりはるかに古く、寧ろ彼らの作った世界に人間が住まわせてもらっているようなものだと思うと、不思議さを感じると共にぐっと微生物の世界が面白くなりました。

食と酒が更に楽しくなる

発酵を学ぶと食と酒の楽しみも変わりました。

以前から日本酒を学んでましたが、発酵を知ると更に理解が深まります。
例えば並行複発酵を理屈ではなく、麹菌、酵母の目線から見ることができるようになり、解像度が上がりました。
三段仕込みや並行複発酵といった醸造プロセスもなぜそれが必要なのか、腐敗と発酵の知識と歴史を知ることで記憶ではなく理解としてわかるようになりました。

食もより楽しくなります。
例えばお酢の伝統的製法である静置発酵を知って興味がわきました。
お酢は酒から作られ、その元の酒造りで味が変わり、酢酸発酵の過程でも味が変わります。
酢酸発酵には種酢といわれるスターターが使われ蔵ごとの種酢があるため、これも味に違いを生みます。

実際に静置発酵のお酢を味わってみるとこれが本当に違うんですね。
他の人に試してもらってもやはり違う反応が返ります。
餃子のつけダレなどはわかりやすく、庄分酢の「静置発酵 有機純米酢」とミツル醤油の「生成り、 再仕込み返し」醤油を 2:1 で合わせるだけで旨さが爆上がりします。

庄分酢とミツル醤油
調味料の探求はまだまだこれから

発酵を知ることは身の回りの調味料や料理を仕組み、歴史から知ることにもつながり、新たな扉を開いてくれます。

発酵を楽しく学べるコンテンツ

発酵、興味あるかも。
そんな方に是非お勧めしたいのが RADIO #ただいま発酵中 です。
Podcast で配信されており、Apple Music や Spotify で視聴できます。
最初の 4エピソードが発酵への良き入口になっており、4回、まずは試しに聴かれてみるのがお勧めです。

発酵があまりメジャーでないのは取っ掛かりの難しさがあると思います。
食やお酒が好きな側から見ると発酵は文化や歴史の話でもありますが、少し足を踏み入れると化学の世界でもあり、私が中学時代に苦手だった化学式が出てきます。
そんな複数のジャンルをまたいで専門性を持ち、受け手目線で面白く発酵の世界をガイドしてくれる、そんな入口となれる存在があれば発酵の楽しさがぐんと身近になると思いますが、それこそが RADIO #ただいま発酵中です。

Podcast つながりで「たべもの RADIO」もよく聴いています。
お気に入りの回は「冷やす仕組み」です。

人類は昔から発酵を保存手段として用いてきており、その保存手段を大きく変えたのが冷蔵技術とコールドチェーンです。
このテーマを系統立てて扱ってくれたシリーズは神回といえます。
発酵と付き合うともれなく腐敗もついてくるため、現代の食品衛生を俯瞰する上でもこのシリーズは役立ちます。

発酵が面白いと思えた方は学問的な知識もインストールしておくことをおすすめします。
コラムやネット記事、レシピなど「それ大丈夫?」と思うようなものに出くわすときがあります。
発酵は食料保存の技術でもありますが、その根拠を崩して用いてしまうと発酵でなく腐敗になり、食中毒リスクを伴います。
どのようにして発酵と腐敗をわけるのか、その技術と理論を知っておくと自分でリスクを判断できるようになります。
前述の「RADIO #ただいま発酵中」でも聞き続けるうちに必要な知識が備わります。
食品微生物学という一歩踏み込んだジャンルもあり、食と発酵を知りたい私はこの分野をゆるゆると学んでいます。

書籍では The Art of Fermentation が定番のようです。
こちらは実用的な内容で、いまも生活の中で親しまれている世界の発酵技術を網羅的に紹介しています。
網羅的であるため、ここから発展したい、読み解きたいと思うと補助となる知識や書籍が必要になるでしょう。

The Art of Fermentation

面白い発酵の情報源を見つけたときはこのエントリに追記したり、note でも紹介していこうと思います。
マガジンも作っております。

発酵、楽しいですよ。
長くおいしく楽しめる趣味になります。
ちょうど新しい年度始まり、趣味のひとつに試されるのをお勧めします。