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最近おでん食べてない

上京してからだからもう長いことおでんを食べていない気がする。

実家にいた時は冬になったら親が二週一に近いペースで作っていたので食卓に並ぶたびに内心で「またおでんに逃げやがった」とおもっていた。

でかい金物鍋いっぱいに作られたおでんは女所帯に年寄り込みでみんなそこまで食べるわけではないうちの家族では一晩で食べきれるわけはなく(おかず扱いでご飯もつけてくるから余計入らない)、大概は次の日の夜まで残って祖母がもそもそと食べる格好だった。

冬の時期は鍋もこれと同列に並ぶ。こちらも土鍋いっぱいに具をつめられた鍋は女所帯に年寄り込みでみんなそこまで食べるわけではないうちの家族では一晩で食べきれるわけはなく(ご飯もつけてくるから余計入らない)、大概は汁の中にしらたきとネギと白菜と豆腐の残骸が浮いた状態となり普通の鍋に移され次の日の夜までに味噌汁代わりに出される格好だった。

今となっては、冬場でそこまで手を入れずにある程度一時に量を作ってその後までおいておけるため夕食におでんを何度も選択したであろうことは推察できる。逃げやがった、などと心の中で毒づいてもそこまで厭になることも無く程よく煮えた餅巾着と大根を食べるのが好きだった。鍋の方も同じ理由だろうけどもこちらはあまり好きにはなれなかったが。

上京してからは自分でおでんを作って食べようという気は起きなかった。作ろうと思えばスーパーで適当なおでん種を買ってくれば作れるだろうがそんな気分の起きようこともなく、この時期になればコンビニでもレジの横で温められた什器の中から早くおうちに連れ帰っておくれ、と僕らを一所懸命に誘惑している様を確かめられるがそれに誘惑されることもほとんどなく自分は横のホットスナックを注文するのだ。

すまないコンビニのおでんくん、君たちは僕の腹に届くおでんではないのだ。許してほしい。けしてかって実家で食べたおでんの記憶の郷愁を振り切れない訳でない。ただ衝動と意思の巡り合せの悪いだけなのだと思う。

……今度帰省できたときに久々に実家で食べられるだろうかね。