拝啓 あみ様(作詞のおすすめ)2

【これはシンガーソングライターの卵である「あみ」さんに、作詞のアドバイスをしたものです。ちなみに、私は別にプロの作詞家ではありません。】

前回、けっこうきついことを書いたので、傷ついたりしてますか? ごめんなさい。
でも、乗り越えなければならない階段なのでがまんしてね。

さて、次は料理の仕方と書いたけど、ちょっと違う話になるかもしれません。
あなたの歌詞を見ていると、あなたはたぶん何かと戦っているのですね? あるいは何かから脱出しようとしている。そこには、戦うべき敵や、打ち破るべき何かがあるはずです。その敵とは、壁とは何でしょう? これを具体化することが必要です。もちろん特定の誰かではないでしょう。何かもやもやした不快感とか、怒りとか、焦りだったりするのかも知れません。自分自身に対するいらだちなんかであることもあるでしょう。
それをどう表現したらいいのでしょうか? 前回指摘したように、ストレートに「何かわからないけどもやもやした気持ち」とか「自分自身に腹が立つ」と書いちゃうのは、あまり上手い手段ではありません。だったら、どうするのか? ここでもやはりメタファー(比喩)が有効な武器となります。
例えば、昔の演歌なんかだったら、「砂をかむような味気のない毎日」という表現があったりして、これもメタファーなのですが、「砂をかむような」なんてメタファーは余りにも使い古されているので、「アレ?」という驚きは得られません。では、こんな風に書いてみたらどうでしょうか?

10000ピースの真っ白なジグソーパズル
1つ1つはめ込み続けて
そして疲れて眠る

上手いメタファーかどうかは別にして、何か見慣れない表現だし、それでいて言いたいことの手触りを感じませんか? それで、調子に乗って続けると、たとえば、

毎日が真っ白なジグソーパズルなら
爪を思い切り伸ばして 1つ1つにしっかりとキズを付けてやる
指が血まみれになって 白いピースが赤く染まる それが私の歩いた足跡なんだ
もう指先の痛みさえいとおしくなって行くんだ バカな女だと笑いたいヤツは笑えよ

こういう風にメタファーを拡張して行くと、どう戦っているのかも具体化できたりします。

たとえば、菅田将暉の「さよならエレジー」は、もうこのメタファーのオンパレードです。

僕は今無口な空に 吐き出した孤独という名の雲
その雲が雨を降らせて虹が出る どうせつかめないのに

「無口な空」「吐き出した孤独という名の雲」。この最初のフレーズは、メタファーの教科書みたいな感じですね。そして、この曲はラブソングなんだけど、単に恋愛を歌ったんじゃなくて、僕の「生きる」姿を切り取ったものなのだというテーマ性をしっかり提示しています。「虹が出る どうせつかめないのに」が効いています。
さらにメタファーは次々と登場します。「愛が僕にかみついて離さない」「さみしさのカタチは変わらないみたいだ」「やさしさが濁った日々の憂鬱は満員電車みたいだ」「冷めたぬくもりをむやみに放り投げた」どれもこれも「アレ?」と思わす印象的なフレーズです。ちょっと使いすぎの感じがしないわけではないけど。
そして、もう気づいていると思いますが、前回言ったように、「難しい言葉」は1つも使われていない。観念的な言葉も「孤独」だけです。聞き手に「アレ?」と思わせる理由は、その言葉の組み合わせ方、並べ方です。乱暴な言い方をすると、すごく不自然な並べ方している。あり得ない組み合わせです。「無口な空」?「愛がかみつく」?「やさしさが濁る」?「冷めたぬくもり」?みんなそうでしょう? これが暗喩と呼ばれるレトリック表現です。
こうして見ていくとわかるように、メタファーはレトリック(修辞法=言葉の飾り方)であるのですが、うまく使えば、「思い」に手触りやリアリティを与えることができるのです。
この「さよならエレジー」は、「さよなら」とか「エレジー」とあるけど、決してありふれた失恋ソングではありません。2人の愛は終わっていない。ひょっとしたら燃えさかっている。でも、その燃えさかる中でさえ、「愛の永遠」を信じられず、「愛の終わり」を予感してしまっている醒めた僕がいる。その「悲しみ」の思いは、この人独特のものになっています。「エレジー(哀歌)」というのは愛の終わりへの哀しみではなくて、愛を信じられない自分自身に対する哀しみなのかもしれません。
「愛がかみついて離さないと言うけれど さみしさのカタチは変わらないみたいだ」「さようならさえも上手く言えなそうだから 手を振るかわりに抱きしめてみたよ」あたりは、「愛することができない自分」への哀しみがうまく表現されています。
私は、次のフレーズが印象的です。

そばにいるだけで本当幸せだったな そばにいるだけでただそれだけでさ

すごく哀しいフレーズですよね。まだ愛は終わってないのに「幸せだったな」と過去形で語っています。もう彼の心の中ですでに愛は終わりつつあるのです。一度それに気づいてしまったら、もう自分自身をごまかすことはできない。

と、今日はここまでにします。

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