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荀子 巻第十八成相篇第二十五 3 #1

請う、相を成して、聖王をわん。堯・舜は賢をとうとびてみずから辞譲し、許由きょゆう善巻ぜんけんは義を重んじて利を軽んじ、行い顕明なり。堯は賢に譲りて、以て民の為めにし、氾利兼愛して徳の施しひとしく、上下を辨治し貴賤に[差]等あり君臣[の分]を明かにす。堯はのうに授け、舜[その]時に遇う。賢を尚び徳を推して天下治まる。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

道→いう。語る。述べる。唱える。
身→自分で。自分から。みずから。
辞譲→へりくだって他人に譲ること。謙譲。
許由・善巻→(注より抜粋)許由は、堯に天下を譲られたがそれを拒絶して山に隠れ、のちまた召されるに及んで穎水えいすいで耳を洗って世俗の汚れを清めたという高士。善巻は舜に天下を譲られてやはり受けず、深山に隠れたという。
行→おこない。ふるまい。よいおこない。
顕明→①あきらか。人の目にあらわなこと。
氾→広い。広くひろがる。ゆきわたる。あまねく。
兼愛→自他・親疎の区別なく、平等に人を愛すること。中国古代の思想家、墨子 (ぼくし) が唱えた。
拙訳です。
『歌の形式で聖王について述べよう。聖王堯や舜は賢人を尊んで自らはへりくだり、許由や善巻は道義を重んじて利得を軽んじてその良い行いは明らかである。堯は賢人に譲り、それにより民衆の為に、利得を行き渡らせ平等に愛し徳の施しを等しくし、上下を区別して治めて貴賤に等級をつけ君臣の役割を明確にした。堯は能ある者に位を授け、舜はその機会に巡りあった。賢人を尊んで徳を押し広めて天下は治まった。』

賢聖ありと雖も適々たまたま世に遇わざればたれかこれを知らん。堯は徳とせず、舜は辞せず。[堯は舜に]めあわすに二女を以てし任ずるに事を以てす。大人なるかな舜や、南面して立ち万物備わる。舜は禹に授くるに、天下を以てし、得(徳)をとうとび賢を推して序を失わず。外は仇を避けず内はしんおもねらず賢者に予(与)う。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

孰→「たれ」「たれか」と読み、「だれが~か」「だれを~か」の意を表す。
任→まかす。まかせる。信用して委ねる。自由にさせる。
事→①こと。(エ)まつりごと。政治。
大人→③徳の高いりっぱな人。度量のある人。大人物。
南面→天子の位に就くこと。天子となって国内を治めること。
備→②そなわる。(イ)足りる。みちる。
得→③とく。⇛徳。
避→①さける。(カ)しりぞく。たちのく。
予→あたえる。さずける。
拙訳です。
『賢人・聖人がいたとしてもたまたま世の中に出る機会がなければ誰が彼らを知るだろうか。堯は自らを徳があるとはしないで、舜は辞退をしなかった。堯は舜に二人の娘をめあわせて信用してまつりごとを委ねた。舜は徳の高い立派な人物であることよ、舜が君子の位に就くとすべてが満ち足りた。舜は禹に世界を授け、徳を尊んで賢人を推挙して序列を失わなかった。外には仇でも退けず内には親戚でも優遇せず賢者を選んで仕事を与えた。』

聖王である堯と舜の話しです。
堯は、自らの徳を誇ることなく謙譲し、その位を許由、そして善巻に譲ろうとしましたが断られ、舜に譲ることになったのでした。
舜は堯から「国」を譲り受け、「天下(世界)」を禹に譲ることになります。舜が天子の位に就くとすべてが満ちたりて、その結果統治の範囲が国を超えて世界にまで広がったと言うことですね。
「賢聖ありと雖も適々たまたま世に遇わざればたれかこれを知らん。」の一文から、堯と舜の出会いは偶然であったようです。人の縁というのは不思議ですね。夏王朝のはるか前の二人の聖王が、現代でも語り継がれています。

続きは次回とします。


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