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荀子 巻第十二正論篇第十八 7 #2

前回は、薄葬と厚葬の盗掘について、聖王が政治をすると天下は豊かになり、民は足ることを知り恥を知るので、厚葬され埋められた宝物を盗む恥を知るため盗掘をしない、というところまで読みました。
続きです。

夫れ乱今にして然る後に是れに反す。かみは無法をもって使いしもは無度を以て行い、知者も慮るを得ず能者も治むる得ず賢者も使うを得ず。くのごとくんば則ち上は天の性を失い下は地の利を失い中は人の和を失う。故に百事は廃し財物はきて禍乱起り、王公は則ち上に不足をうれえ庶人は則ち下に凍餒とうたい羸瘠るいせきす。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

無度→度外れ。
禍乱→世の乱れや騒動。
凍餒→こごえることと飢えること。生活に苦しむこと。
羸瘠→疲れやせる。
拙訳です。
『世の乱れている今になってその(聖王の)後でこれ(聖王の政治)に反している。為政者は法律を無視して使い、庶民は節度なく行動し、知恵のある者も熟慮することが出来ず能力のある者も統治することが出来ず賢者も人をうまく使うことが出来ない。このようであれば上は天の本質を失い、下は地の産む利益を失い、中は人の和を失う。全ての物は廃れ財物は尽きて世の乱れや騒動が起こり、王公は上に在って不足を憂え、庶民は下にいて生活に苦しみ疲れ痩せる。』

ここに於いて傑紂[の属]群居し而して盗賊も撃奪して以て上を危うくし、必ず禽獣の行、虎狼の貪なるが故に巨人おとなをもほじし(乾肉)にして嬰児をもしゃにせん。是くの若くんば則ち(又)た何ぞ人の墓を抇り人の口をえぐりて利を求むることをとがめんや。此れはだか(裸)にしてこれ埋むと雖も猶お且つ必ず抇らん。んぞ葬まい(埋)するを得んや。彼れ乃ち将に其の肉をくらいて其の骨をまんとするなり。[抇ると抇らざるとの理はかくの如し。]

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

群居→群れをなしていること。また、群がり住むこと。
撃奪→奪う。
炙→②あぶり肉。
尤→③とがめる。非難する。
拙訳です。
『ここにおいては暴君桀や紂のような輩が群れをなし盗賊も略奪を行い上を危うくし、鳥や獣のような行いを必ずし、虎や狼のように貪婪であるために大人をも乾燥肉にしてしまい嬰児をもあぶり肉にするだろう。このようであればまた、どうして人の墓を堀りあばき死人の口をえぐって利益を求めることを非難できるだろうか。(厚葬せず)裸にして埋葬したとしても必ず盗掘するだろう。どうして葬り埋めたままにすることができるだろうか。盗賊は死者の肉を食い骨までしゃぶろうとするのである。盗掘するとしないの理由はこのようである。』

の大古は薄葬なるが故に抇られず乱今は厚葬なるが故に抇らると曰うは、是れただ姦人の[自ら]乱説に誤られて以て愚者を欺き、これを淖陥とうかんせしめて以て利をぬすみ取らんとするのみ。夫れ是れを大姦と謂う。伝に、人を危うくして自らは安んじ、人を害して自らは利す、と曰えるは此れを謂うなり。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

姦人→腹黒く悪賢い人物。
乱説→根拠のない言説。
淖→どろ。ぬかるみ。沼。
拙訳です。
『大昔の葬儀は簡素であったから盗掘されず、世の乱れている今は手厚い葬儀を行うから盗掘されると言うのは、腹黒く悪賢い人の根拠のない言説に誤らされてそれで愚かな者をだまし、泥沼に陥れて利益を盗み取ろうとしているだけである。このようなことを「大姦」と言うのである。古い言い伝えに「人を危険な目に遭わせておいて自分は安全にあり、人に損害を与えて自分は利益を得る。」と言うのはこの「大姦」の事を言うのである。』

薄葬だと盗むべき価値のある物がない、厚葬だと盗む苦労・リスク以上に得る物がある、だから盗掘を防ぐには薄葬を勧める。これはこれで筋が通っているように思えます。
世が乱れに乱れて食べる者に困れば、人は物だけでなく死者そのものを手に入れ食べるようになる、薄葬であろうが盗掘は当然になる、と言う展開は恐ろしいですが否定できません。
聖人が政治を行えば、天下は豊かに富み、また足るを知り、厚葬されても盗掘するような人は出てこなくなると言います。
何かと格差が問題となっている日本の現在は、「乱今」ではないと言い切れるでしょうか。豊かに富んでいる人もいますがそうでない人もいます。足るを知って「有余を重ねる」ことを戒めているでしょうか。
荀子の投げかけに今日も考え込んでいます。

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