見出し画像

「幼き日、プロヴァンスの美しい夏の思い出~映画『プロヴァンス物語 マルセルの夏』~」

『プロヴァンス物語 マルセルの夏』
監督:イヴ・ロベール 原作:マルセル・パニョル「少年時代」
 

フランスのプロヴァンス地方と聞くと、かつて私が若い頃出されていた女性雑誌などで頻繁に特集記事が組まれるほど、旅行先として大人気でした。
その紫色の花が一面にひろがるラベンダー畑の美しさ、なだらかな丘陵地帯、古い石造りの家、南フランスの穏やかな気候の中で自然とともに暮らす人々…。
 
例外なく私も雑誌に掲載された風景の写真、ともに添えられた記事にあこがれの熱は沸騰し、いつかぜひ旅行してみたいと思わせてくれたのでした。
 
 
医療事務員として仕事をしていた頃は、よく試写会の案内と無料招待がしょっちゅう行われていて、同僚たちと手分けしてハガキを書き応募していたものです。(最近はあまり試写会というものには行っていませんね…)

だから当選ハガキが何人かに届くと、ハガキ一枚につき同伴者1名OKとなっていたので、仲のいい同僚たちといっしょに試写会へと繰り出していました。(当時はスポンサー企業が試写の終了後プレゼント抽選会を行ってくれ、運が良ければ景品をもらって帰れるというのも試写会人気のひとつでした…今もやっているのかな?)
 
ある時地元のフリーペーパーにて、ある映画の試写会の案内と招待券プレゼントの記事が出ていました。
いつもは、前評判の高い映画や有名な俳優が出ている映画に率先して応募していた同僚たちも、この記事に関しては全くのスルー。
どうやら名画と言われるタイプの映画で、それはあまり興味をそそられない様子。
 
でも私はフランス映画という文字に魅かれ、ひとり応募してみたら幸いにも当たったのです。(きっと応募者数がいつもより少なかったのかな…)
「名画も観るよ」という栄養士さんと二人で観に行ったのが今回ご紹介する『プロヴァンス物語 マルセルの夏』でした。


(映画の主題曲と冒頭部分が流れます)

20世紀初頭のフランス。
マルセルはマルセイユで小学校の教師をしている父親と優しくて美しい母親と弟のポールと暮らしています。

父親は無神論者で、逆に熱心なカトリック信者で日曜日のミサは欠かせない伯父とたまに一触即発の議論に発展しそうになります。
父親は優れた教師ですが、自分の持論は曲げない頑固なところがあり、趣味の釣りで大きな釣果をあげ当時最新鋭の写真機で記念写真を撮ってみんなに自慢する同僚に皮肉を言ってしまうほどです。
 
母は、マルセルが幼いころからその頭脳明晰さを表し始め、読み書きが他の子たちより優れていることに、「脳が破裂する!」と言って心配をして文字を読ませないようにしてしまいます。子どもは元気で陽気なくらいで十分と思い込んでいるのでした。
 
伯父はちょっと謎めいた人物で、何をして稼いでいるのかよくはわからないけれどちょっぴりお金持ち。
母の姉と知り合うきっかけがすごく素敵に描かれていて、そしてマルセルとポールにすごく優しいおもしろい伯父さんです。
 

さてマルセルが9歳の頃、難しい試験に合格しそのご褒美と、体の弱い母の静養を兼ねて、夏休みはプロヴァンスの田舎へ連れて行ってもらうことになります。
彼はそこで、人生で忘れることのできない最も美しく眩しいくらいの楽しい日々を送ることになるのです。
 
 

映画パンフレット


蝉の鳴き声で目を覚まし、丘を歩き回り蝉を取ったりしていると、無二の親友となる地元の男の子・リリと出会います。
 
砂漠のような荒地を歩き、高い丘で嵐に会い激しい落雷を目の当たりにしたり、洞窟の大きなふくろうと出くわしたり、町には帰りたくないとこっそり夜中に別荘を抜け出したり…。
街で育ち街しか知らなかったのが、すばらしい大自然と出会いその中でたくましく元気に育っていくマルセルが生き生きとしています。
 

映画パンフレット


そんな中、伯父と父親がマルセルたち子どもには内緒で、銃を使った狩りに行く準備をしていることを知ったマルセルは、連れて行くよう頼みますが断られ、しかしこっそり父たちの後をついていきました。
 
遠くで見つからないよう見守っていましたが、尊敬する父が伯父の銃の腕前になかなか敵わないのを見てとても悔しく思います。どうにかして父親を勝たせたいマルセルは大きな幻の鳥・バルタヴェルを見つけ、父親に撃ってもらおうとしますが…。

美しく香しい夏のバカンスでの日々、忘れられない日の光と、村のことをよく知り尽くしているリリという友との遊び、村の人たちと遊んだ球技で勝った父の誇らしさ…。
この田舎って!プロヴァンスはなんて素敵なんだ!
 
 
賢いけれどまだまだ幼いところがあるマルセルの貴重な夏の体験。
 
最初から最後までどこかクスっと含み笑いをしてしまうような、ウィットに富んだやりとりやエピソードが散りばめられていて、どれもかわいらしいというと語弊がありますが、登場人物全員を魅力的にしてくれます。
 
 
あんなに釣った魚と記念写真を撮った同僚の教師を笑っていた父親が、幻の鳥を仕留めてかついで村を練り歩いて村民の注目を集め、ついには自分も獲物と記念撮影をしてしまうという人間味あふれた本来の父の姿を見て、元々尊敬していた父のことがもっと大好きになったとマルセル自身が最後につぶやいています。
 
 
そして映像を見て驚いたのが、“プロヴァンス”のかつて私が抱いていたイメージとは全く違っていたことでした。上の動画をご覧になればその様子がお分かりになると思います。
 
ラベンダー畑はいっさい出てこず、画面の中の風景は草の生い茂る小高い丘や荒れ地、砂漠のような岩場などでした。高くそびえる“ガルラヴァン”という象徴的な山。でもこれも間違いなくプロヴァンスの姿の別の一面なのです。
 
 
さてこの『マルセルの夏』には続編があって、撮影自体は同時期に撮ったのでしょうが、公開はそれから数年たってからでした。
『マルセルのお城』です。
あれから恒例となった夏の別荘への道のりは遠く、体の弱い母にとって歩いて野山を超えるのはやはり酷な道中であり、どうにかできないかと近道を見つけてしまう父親。
 
この「見つけてしまう」という表現にこの映画のちょっと不安部分が含まれています。
少しドキドキするシーンがあります。
 
おまけに、マルセルに恋のようなものが訪れます。
まあ、そのお相手の女の子とその家族がちょっと風変わりで、でもあまり擦れていないマルセルの純粋さと好対照として表現されており、今回もクスっと笑える場面が裏切られることなく描かれていて、おもしろい仕上がりになっています。
 
劇的な事件や大問題が起こるわけではないけれど、平和な中に訪れるちょっぴり刺激的な事象として描かれており、飽きさせない表現方法がバランスよいのも私が大好きな理由かもしれません。

映画パンフレット


 
物語の最後は主要登場人物のその後がさらっと描かれています。
大人になったマルセルがどうなったかや、リリの消息などがこの映画の原作である自叙伝の著者、マルセル・パニョル(映画監督であり劇作家)のナレーションで語られていきます。
(もっともマルセル・パニョル自身は1974年に亡くなっていますので、1990年に製作されたこの映画でのナレーションは本人ではありません)
この映画は彼の、忘れられない幼き日々を描いたものなのでした。
 
 
陽の光がいっぱいの明るい映画だと思いましたが、そんな中にももちろん悲しく切ないこともあるのが人生で、そういう現実を最後に思い知らされているような幕の引き方でした。

他にもフランスの昔の教師の生活の様子や、小学校の子どもたちの様子がよくわかり、新鮮でちょっぴり驚きに満ちています。
音楽も良くあっており、テーマ曲はどこかで聴かれたことがあるかもしれません。

歴史考証も美術も音楽も配役も全てにおいて、完ぺきではないかなと思っているのです。最後に肝心の配役について記しておきます。
 

主な配役…
マルセル:ジュリアン・シアマーカ  
父ジョゼフ:フィリップ・コーベール
母オーギュスティーヌ:ナタリー・ルーセル
ポール:ヴィクトリアン・ドラマール
ジュール伯父さん:ディディエ・パン
ローズ伯母さん:テレーズ・リオタール
ベロンのリリ:ジョリ・モリナス


 


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?