雪うさぎはどんな顔?

ひとつ前のお話の別サイド。
やよいはCDに出ていないのでちゃんとした設定が少ししかありません。

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露天風呂の湯けむりの向こう側には、雪景色。

『旦那様? お湯加減は……どうですか……?』
ちらりと横を見る
その人は微笑みながら
『ありがとうございます……嬉しいです。
 え? もっと、です、か……。
 はい……旦那様の、おそばに……んっ……』


「やよい、掃除は終わったのかい」

「ぴにゃっ! あっ、うん……えと、はい、女将さん終わりました」

現実に戻る。
お母さんで、今は女将さんが確認しにみたいです。

「お、お掃除終わりました。 えっと、次は……」
「……」

女将さんがジッとわたしを見ています。
さっきの……声にでていたのでしょうか

「(ドキドキ)」
「ふふふ……やよい」
「はい」
「その辺にある雪で雪うさぎをつくりなさい」
「え……雪? うさぎ……?」
「そうです。
 そして、その雪うさぎを桶の中にいれて写真を撮りなさい」
雪うさぎをつくって、それで写真を……?
なにかに使うのでしょうか?
でもでも、これも大事なお仕事にちがいないです。

「わかりました、可愛く作ります」
「そうです、若女将の修行と思ってしっかり作りなさい。
 私はカメラを持ってくるので、それまでに作っておくのよ」
「はい」

そう告げると女将は露天風呂から戻っていきました。
よし。
桶をひとつ持って露天風呂の奥の方に向かいます。

「あった、うさぎさんの目。
 おみみは……これで、いいかな。
 あとは、奇麗な雪を……これくらいでしょうか?」

南天の実と同じく南天の葉っぱ、そして雪を持って洗い場の方に戻り
もう一つの桶に雪を丸めのうさぎの形にしていく。

「こんな感じでしょうか?」

そして、南天の実と葉っぱを……うん、可愛くできました。
……うーん、何かもう少し欲しい気がします。
えっと、あれがいいかな。

「どうですか、やよい」

雪うさぎを入れた桶を飾り終えたところで、女将さんが戻ってきました。

「はい、こんな感じで出来ました」
「いいですね。
 これは落ちていた椿の花ですか? とても上手に飾っていますね。
 ではこれで写真を撮りなさい」

そう言いながら差し出してきたのは、わたしのスマホです。

「女将さん?」
「これで雪うさぎを撮りなさい。
 雪景色と温泉もちゃんと入るようにするのですよ」
「は、はい」

角度を変えたり、少し遠めにしてみたり……以外に難しいです。

「どうしたのですか?」
「えっと、上手く撮れないです……」
「仕方のない子ですね。
 私が撮るので、やよいはそれを持って温泉の近くに屈みなさい」
「にゃ? わたし……ですか?」
「はやくなさい」
「は、はい」
「……」
「……」
「……その顔はなにかしら、やよい」
「え、えと……」
「若女将たるもの、いつでも笑顔ですよ」
「は、はい」

自分では笑顔だと思うのですが……

「……」
「……」

シャッターは押されません。

「あ、そうそう、さっき連絡がありましたよ」
「……?」
「さくらさんたちがお越しになるそうよ」
「!?」

『カシャッ』

「え?」
「良い顔でした。 では送っておきます」
「え、お、女将さん」

凄く慣れた感じでわたしのスマホを操作しています……。

「はい、返します。
 やよい、今日の仕事は終わりなので、
 少し休んだらお風呂に入ってしまいなさい」

スマホをわたしに手渡して女将さんは露天風呂から出ていく。

「は、はい」

〈こっちはまだ雪景色です。
 雪を見ながらの露天風呂も気持ちよいですよ♪〉
〈あとあと、露天風呂の雪と南天の実で雪うさぎを作ってみました!〉

メッセージアプリに写真とメッセージが……送信されています。
送信先は……さくらさん!?
それに文面……女将さん??

「えええっ!?」

わたしが驚いているとガラッと露天風呂の入口の引き戸が開き、
女将さんが顔を出します。

「ちゃんと返事をするのですよ。
 そして、心の準備もしておきなさい」

そういってまた戻っていきました。
女将さん……笑っていたのでしょうか?

《わぁ!雪!温泉!行きたいのですよ!》
《それにそれに、うさぎさんもやよいちゃんもすっごく可愛いのですよ!》

すぐに返信がきました。
写真……そうだ、写真! どんな風に写ってるの……でしょうか?

「ふにゃぁぁぁ……
 こんな、写真……顔ぉ……お母さぁん、もうぅ……もぅ……」

お、お返事しないと。

〈ありがとうございます〉
《いいなぁ、温泉、ご主人さまにお願いしてみようかにゃぁ》

ドキッとします。

〈雪があるってことは寒いってことなので無理しないでくださいのです〉
〈もう少しすれは暖かくなってきますのです〉
《それならなおさら今行かないとなのですよ!》
〈もしお越しになったらいっぱいおもてなししますのなのです〉
《にゃぁん、やよいちゃんのおもてなしなのです》

ふわふわしてメッセージが……おかしいです
その後、自分の部屋に戻って暫くメッセージをやりとりしていました。

「ふふ……さくらお姉ちゃん」

メッセージの向こう側でニコニコしているのが
凄くわかる感じだったので思わず顔が緩んでしまいます。
そして、その向こうにいる人のことも。

「旦那……さま」

まだ旦那さまでもお姉ちゃんでもないのですけれど、
そうなったら……って思ってしまいます。

「あの写真、旦那さまも見るのでしょうか……
 お姉ちゃん見せるってゆってましたよね……
 にゃぁぅぅ……もぉ……ぅう」

また顔が熱くなってきました。

「そういえば、心の準備ってなんだろう?」

お母さんの言った事を理解するのは、もう少し後でした。

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お姉ちゃんから電話があったのは、お布団を敷いている時でした。

『雪見風呂、一緒に入ろうなのですよ!』

【おしまい】

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