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イタリアンにぬか漬けのさば?

アンチョビの原料がカタクチいわしなら、さばもおいしく加工すればイタリアンになくてはならない素材になるはずだ。金華さばをぬか漬けすると、まろやかな旨みがたっぷりとのった脂の中にあらわれる。さあ、何をつくろう。

文・撮影/長尾謙一 

ソットサァーレ金華さば(金華さばのぬか漬け)
(素材のちから第45号より)

「ソットサァーレ金華さば」は、塩味をおさえたへしこのイメージでつくられた。凝縮された旨みとほどよい塩味のバランスがよく、切り身はオリーブオイルをかけるだけでメニューになる。イタリアンに金華さばのメニューをどんどん広めたい。

金華さばの脂の旨みが〝ぬか漬け〟によって凝縮される。

石巻で、食べやすく棒状に切った金華さばをぬか漬けしたものに出会った。まだ商品として本格的には流通していないが、一口食べてその旨みに驚いた。さばの臭みはまったくなく、しっとりとした身は歯ごたえがいい。これをフィーレで商品化できないだろうか。きっと、これはイタリア料理に使える! そう思うと居ても立っても居られなくなって〝タベルナ アイ〟の今井シェフにこれを持ち込んだ。

オーナーシェフ 今井 寿 さん
イタリア料理 タベルナ アイ 東京都文京区関口

「ソットサァーレ金華さば」とはいったいどんな〝さば〟?

〝金華さばのぬか漬け〟でメニューをつくれませんかと言われて、〝金華さばのぬか漬け〟がすぐにイメージできなくて最初はピンときませんでした。福井県の若狭に〝へしこ〟というさばを塩漬けにした後ぬか漬けにする保存食がありますが、つくり方はだいたいそれと同じだそうです。

違うのは〝へしこ〟は1年以上漬け込んで熟成させますが、この〝金華さばのぬか漬け〟は、わずか1か月ほど。〝へしこ〟は保存食ですから常温でも長期間食べられますが、〝金華さばのぬか漬け〟は冷凍で保存します。ですから身に入った塩分の強さが違います。

送られてきたサンプルを試食してみて、そのおいしさにちょっと驚きました。いい感じで水分が抜けていて、〝へしこ〟の塩をもう少し甘めにしたようなまろやかな旨みがあります。味がしっかりしていて塩味がちょうどいいのです。指で触っても臭いが手に残りません。

塩漬けにしたカタクチいわしを発酵・熟成させたアンチョビがイタリアンにはよく使われているので、同じ青魚の〝金華さばのぬか漬け〟が合わないはずがありませんね。

商品名をたずねると、まだ決まっていないとのことでしたので、イタリアンの商品としてイメージしやすいようにと「ソットサァーレ金華さば」とネーミングしました。

海の風味が皿の上に溢れるようなおいしいパスタができた

まずはイカスミを練り込んだパスタをつくってみましょう。パスタは海苔とイカスミの風味が強く食感がもちもちしているので、これに負けないように「ソットサァーレ金華さば」は炒めて使わずに、棒状に切ってクロカンテをつくりました。硬いような、ちょっとやわらかいような、ちょうどいい食感になるように、電子レンジは600Wで2分から2分半加熱します。腹の部分と背の部分ででき上がりが違いますから、微妙なところはよく見ておきます。これを盛り付けたパスタの上にトッピングします。

海苔とイカスミ入りパスタ
「ソットサァーレ金華さば」のアーリオオーリオ

クロカンテにすることで「ソットサァーレ金華さば」がもともと持っている濃厚な旨みがさらに凝縮されて、パスタの風味の中で旨みのアクセントになっています。脂ののった金華さばのセミドライ感はたまらない歯ごたえです。

それから、ぬか漬けに使った〝ぬか〟をいただいたので、フライパンでぬかと昆布だしを一緒に水分がなくなるまで煮て、水分がなくなったらカリカリになるまで常温で放置してぬかパウダーをつくりました。これをパスタの上に芽ねぎ、生姜と一緒にちらします。

イカスミと「ソットサァーレ金華さば」という個性ある素材どうしが組み合わさり、海の風味が皿の上に溢れるようなおいしいパスタができました。

生で食べると際立つ旨みの凝縮感

次は、「ソットサァーレ金華さば」の生のおいしさを試すために、お米と「ソットサァーレ金華さば」のサラダをつくってみました。ストレートにカルパッチョ風や、オイルで一日マリネしたものも考えましたが、何となく生のさばとくれば〝バッテラ〟が頭に浮かんできて、お米に昆布の風味を移してイタリア風に表現しました。

「ソットサァーレ金華さば」とお米のインサラータ

お米を昆布だしで10分ほど煮てお米に昆布の味を入れます。それから冷水にとってカチッと締めます。これを皿に盛って、あとは野菜を添え、スライスした「ソットサァーレ金華さば」、フレンチキャビアを色合いでちらして最後にオリーブオイルをかけました。塩はいりません。

さばは炙ってもいいと思いますが、このさばならそこまで手間をかけなくても旨みに深いコクがありますから、そのままで十分満足感があります。お米に入った昆布の風味と塩、そしてさばの旨みと塩味だけでいいのです。

このさばはサラダというメニューでもドレッシングには頼りません。酸味さえ必要ないほどちからのあるおいしさを持っていて、サラダ全部が一体化しています。ここにドレッシングをかけてしまうと、せっかくのおいしいさばが酢漬けになってしまいます。ちらし寿司のようにも見えますが、ビネガーは使わずにオイルと塩だけで味付けしました。何度も言うようですが、やはりこの旨みの凝縮感は凄いですね。

「ソットサァーレ金華さば」は後から旨みが追いかけてくる

イタリアのベネチアの郷土料理にバッカラ・マンテカートがあります。本来は水で戻した干しだらを使いますが、代わりに「ソットサァーレ金華さば」でつくりました。

「ソットサァーレ金華さば」のマンテカート

軽く炒めた「ソットサァーレ金華さば」と、牛乳、ニンニクを一緒に煮て、水分がなくなったら蒸したじゃがいもを加えてフードプロセッサーにかけます。本来はここにパルミジャーノを入れたりしますが必要はありません。さばに濃厚な旨みがあるからです。塩も何もいりません。ちょうどいい旨みがきいていて、いい塩加減です。煮込んでいると魚の臭みが出てしまうことがありますが臭みなど何もありません。これをポレンタの上にのせ、あとはパスタで使った「ソットサァーレ金華さば」のクロカンテを軽くさし、ピンクペッパーを飾りました。

ちょっとびっくりしたのですが、このさばは食べていると後から追いかけるように旨みが出てきます。その旨みに凄くびっくりしました。

今回、あらためて金華さばの脂のおいしさに驚かされました。外国産のもののように脂がのりすぎているものは独特の臭みが邪魔になる時があるのですが、金華さばの脂は嫌味がなく本当においしい。

「ソットサァーレ金華さば」はイタリアンだけではなく、和食にも中華にもフレンチにも幅広く使える素材だと思います。


協力/お問い合わせ:株式会社ナチュラルシー

(2022年6月30日発行「素材のちから」第45号掲載記事)

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