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【レビュー】若造(チャマーコ)

キューバの戯曲。
クリスマスの数日間をめぐる、とある家族の物語。
日本初訳初演。台本を持ちながらの作品を観劇が初めてだったので衝撃。
少し本編にふれつつ、分析をしてみた。
正しいか正しくないか、合ってるか違うのか。
いったん置いておいて考えるのが好きだから、記憶が新しいうちにメモしておくことにした。

考えようと思えただけで進歩。
また読み返した時に別の想いが湧くかもしれない。

前情報を全く入れずに観劇。知り合いがいたから観に行こうと思えたし、戯曲も貰えて信じられないサービス。
しかも今回観た作品と合わせて3作品もある。
いつか誰かと読んでみたい。




物語

事件が起きたところから物語は始まる。時間は先に進み、戻り、なぜ事件が起きたのかが描かれていく。前日に交わされた言葉、殺害を知るも黙ると決めた人、自責の念に苛まれる加害者。
加害者の家族。
全て語られずとも、それぞれの心に「何か」が湧きおこり、ぶつかる。
時代も国も違うけれど大切な人を想い、己と葛藤するのは同じ。

空間

声の大きさで空間は狭くも広くもなる。家の中、公園、ホテル…。照明は微かに暗い状態がずっと続く。その影響か、ほんの僅かな瞬きに敏感になる。
舞台には長机、椅子、黒板。目に入ってくる物語の世界は少ない。
その少なさが逆に想像力で補われた。
ト書きの方の後ろに置かれた照明がいつ使われるかそ楽しみにしていて、予想以上に綺麗な当て方だったので浴びている俳優が羨ましかった。


演出

言葉を届けることを重要視していて、扉を叩いたり殴るなどの行動は観客の想像に任されていたように感じた。ト書きの「音」だけで想像力を掻き立てるのは、まさにガイド。
大声を出しそうなセリフなのに、あえて押し殺すように声を抑えていたのはきっと葛藤が人を惹きつけるから。
怒りを全面に出す表現もあれば、抑えたいけど抑えられずに溢れてしまう表現もヒリヒリとして好き。コップから水が溢れるかわからない、表面張力のバランスが崩れてしまいそうなあの感覚。


登場人物

カレル・ダリーン(若い青年)

彼の身に起こった数日間。取り返しのつかないことをした、と静かに自分を責める様子が指先にまで現れていた。前半は隠しているけど、判事や叔父と話し、物語が進むうちに身体に自責の年が滲み出てくる様子は時間経過の切り替えができていたのではないだろうか。
ミゲールには強気なのに叔父には少し怯えたり、判事には優しい顔を見せるのは普段色んな顔を持つ私たちとも通じる部分。

アレハンドロ・デパース(判事)

前半はかなり感情的で声を荒げるシーンも。大きな声を聞くのは体力が削られるのでこの役が出てくるシーンはほとんど気を張ってしまっていたのだけれど、時折見せる優しい言葉に癒された。最後のセリフはカレルを想ってのことだったのだろう。
ひたすらに優しかった。
カレルに息子を重ねることを語る姿は特に。その2人のシーンも観たかった。


ミゲール・デパース(その息子)

演じた俳優の知り合いだったので、どんな演技をするか気になっていた。去年、短いが彼の演技をじっくり観る期間があったので不思議な感じだった。
もう追いかけることができない少しの寂しさと、どこか親目線の嬉しさ。
判事の父とのシーンは、押し殺す声と爆発させたい感情のぶつかり具合いのバランスがピンと張った糸のようでずっと観ていられた。
姉のシルビアとのシーンは劇的なことは起きなかったけど、それが突然の別れになる寂しさをより引き立たせていた。


シルビア・デパース(ミゲールの姉)

登場したときの長台詞で一気に引きこまれた。皮肉にもカレルと親密な(そう見えた)関係。真実を知る日は来るのだろうか、いや、来ない方が幸せだろう。

「知らないことがいいこともある」よく聞くが、彼女にピッタリだと思った。
ミゲールとのシーンが張り詰めた物語の中でいい安心感。
ミゲールより父と話せるように見えたが、過去に何かあったと思わせるぎこちなさも見えたので気になるところ。


ロベルタ・ロペス

俳優の、微妙にハスキーがかった声が素敵。普段からあの声だとしたら羨ましい。謎が多いけど、カレルについて全てを知っているように隠したように見えた。
だとしたら、昔何があったのだろうか。
守衛という言葉から想像できない風貌だったので、常識に縛られている私の当たり前にまた気づいた。


フェリペ・アレホ(カレルの叔父)

ときどきクラウンのような笑いの要素が垣間見えた。(お客さんに笑われていた)
酔っ払いのように見えたが、彼の性格なのかも?
息子ををわかりたいと思っていたのに、カレルはアレハンドロに心を許した。
あぁ無情、とはこのことか。
頭をぶつける演出があったのだけれど、予想以上の大きさに驚く。たんこぶできてないか心配...。


パコ

かわいい。声を聞くまで女性だと思っていた。それにしても、女性の格好をする男性に惹かれるのは何でだろう。カレルをどう思っていたのか気になる。
モノローグや他人が彼(彼女)について語る場面はないけれどほんの些細な行動で勝手に想像してしまった。
後日談を観たい。


サウル・アルテール(警官)

ガラが悪く見えたけれど、仕事柄の影響かも?
フェリペにカレルのことを黙っていたのは優しさか、それとも...?
正義感が強いのか、優しさの表現が苦手なだけか。
1回では読めない役。
ただ、すぐに手錠をかけない様子から考えると正義感溢れるわけではなさそう。


ト書き

最近気になっていたので、ト書きのためだけに俳優をあててくれたのは嬉しかった。
マイクとの距離、声色の高低差...。終始、曇天のような暗さが照明と合ってた。
最後が特に好きだった。痺れた。
カレルの影。明かりがふっと消え、無音の中響く言葉。最後の二行は堪能した。

あと5秒くらい、明転が遅くてもよかった。それほどまでに、闇に惹かれていた。



戯曲

観客が惹き込まれるとき、長いセリフは一瞬だ。
今回は戯曲をもらえたので改めて読んでみると「こんなに話してたっけ?」と思えるくらいのセリフの長さに驚いた。
そして、自分がその境地に達するにはどれほどの時間が必要か嫌でも考えてしまう。





つい先日、死を経験してからの観劇だったので父の気持ちは痛いほどわかったし、伝えられる時に伝えておかねばならないと言われているような気がした。演劇に気軽にふれる機会を作りたいと思っていて、台本を持ちながら演じる、リーディングという形式があると知ったタイミングだった。

必要なものとは必要な時に出会う。

ト書きを読む方の表現が想像を超えてきたので、今後の戯曲を読む際のヒントになった。


そして気づきが一つ。

やっぱり、嬉しい。

今回観ようと思ったのは、海外戯曲が好きな俳優が出演すると聞いたから。
海外戯曲が好きな彼が日本初演の作品に出演すると聞いて「夢が一つ叶ったね、よかったね」と親心のような感情を抱いた。

2022年、彼と出会い演技の成長を追う機会があったのでもう追いかけることができない寂しさも同時に湧いた。羨ましさも正直、あった。

それでも、嬉しかった。去年までは羨んでいたばかり、自分には何もないと思ってきた人生だった。もう大丈夫、私は自分の人生を歩んでいる。最近確信したことを今日も感じた。


私は、私ができることを。


また、いつか。
こんな素敵な舞台の取材ができるようになりたい。なる。



パコ(中央)の座り方が好き。



お疲れ様でしたー!!


※写真はミゲール役、滝本圭のTwitterより。





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