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一週遅れの映画評:『浅田家!』光の速さを掴まえて。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『浅田家!』です。

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 本当はガッチリ批評として語るなら大山顕の『新写真論』とか中平卓馬の『なぜ、植物図鑑か』あたりを参照すべきなんだけど、今週はそんな余裕がなくて……だから軽い感想として聞いて欲しいのだけど。

 これねぇ、かなり意地の悪さが忍び込んでいるというか……その表面的には「家族愛ヒューマンドラマ」をしているのよ、ポスターからあらすじからタイトルまでそういったものを喚起させてる。で実際その印象とほぼズレない物語が展開するのだけど、その裏側で刺しに来てる。それもハッキリと刃物を突き立てるようなやり方じゃなくて、毒を塗った画鋲でプスッと刺すような狡猾さで。
 
 なんと言うかな、たぶんこの作品が言ってることって
「全ての写真は遺影である」
 ってことなのだと思う。
 
 内容としては前半と後半に分かれていて、前半は売れない写真家だった政志が「自分の家族」をテーマとした写真集を作り評価されるまで、後半は311震災によって津波被害を受けた岩手県で写真の洗浄ボランティアに関わる中での物語が展開される。
 
 震災以降の人の繋がりについて、私は過去に『シン・ゴジラ』の評論と『キズナイーバー』批評で書いたことがあるのだけど(それについては電書に収録しています)、その中で「震災の前から、私たちは断絶していた」という話をしているのね。

 被災地と非被災地、原発肯定と反原発、保守とリベラル。震災によってできたのは絆なんかじゃなくて私たちを分断する言葉で、それぞれに強固な姿勢を取らざる得ない人々で、本当は目の前の相手と話さなくてはいけないことがあるのに「これが相手の思想と反したらどうしよう?」っていう恐れが先に立つ時代になってしまったこと。
 それによって「私たちは断絶してしまった」からの「それは前からずっとあって、それを覆い隠すことができなくなった」という話をしていたわけで、それは今でも変わってはいないのね。
 その中で「じゃあそれでも断絶していない他者とは誰なのだろう?」っていう疑問に対して「家族」って回答は、まぁまぁ概ね妥当じゃん。その家族だから分かり合える、みたいな耳障りのいい話じゃあなくて。共同生活をするひとつのユニットとしての家族、思想とか考え方とか政治的スタンスとは「別の」理由によって嫌が応にも共同体にならざるえないクラスタとしての「家族」というグループがあるよ、っていう話で。
 だから前半部はわりとそういう話。
 
 ただそれって「非被災地」の話でしかないわけですよ。
 
 被災地では「家族」っていう共同体が一瞬で破壊される。ものすごく単純な力で粉砕されていく共同体っていうもののあられもなさ、精神的にじゃなくて物理的にも「私たちは断絶している」ということ。人はいきなり死ぬという事実が覆い隠されていたことを、一気に、大量に暴いてしまった。
 
 家族なんていう共同体は虚像で、そんなものは他の繋がりと同じように脆いものだ。それを切り取って保管する「写真」にいったいどんな価値があるのか?
 だから主人公の政志は写真洗浄のボランティアをしている中で「写真を撮って」と頼まれるが、それを断ることしかできない。
 
 家族という共同体は幻想で、写真は虚像で。それでも一つだけ確かなのは「その撮影の瞬間、そこには彼らがいた」ということだけは揺るがしようの無い事実として横たわっている。どんな気持ちを抱えていようとも、レンズを向けられて反射的に浮かべた笑顔やピースが心情とはまったく相容れないものでも、その切り取られた場面に存在するものは揺るがしようがない。
 
 私たちは断絶している。それは今この瞬間だって、未来だって変わらない。それでも過去の一瞬には、写真によっておさめられたその場所には確かに何らかの共同体が存在していたことを示唆している。
 
 絆とか繋がりなんて、ここには無い、これからも無い。でも過去を振り返ったときだけ「もしかしたらあの時あの場所には何かあったかもしれない」と浮かび上がってくるものがある。それが刹那に崩れるとしても、その光景を、いや「光」を捉えた写真だけは、「あったかもしれない」ものを留めておける。
 
「全ての写真は遺影である」

 失われたものを振り返って確かめるためだけに写真はあり、私たちはそうやって過去にしか誰かとの関係を見れないのだ。
 『浅田家!』は確かに家族を題材とした作品だ。だがその「家族」は過去にしか存在しない、という毒をこっそり忍ばせているのである。

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 この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。


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