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『一週遅れの、一週遅れの映画評:『戦慄怪奇ワールド コワすぎ』の回』脚本

 今回は特別編として映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ』の映画評を中心とした、映像作品を配信しました。

映像作品
『一週遅れの、一週遅れの映画評:『戦慄怪奇ワールド コワすぎ』の回』
出演、撮影:Eye of the すぱんく
編集、効果:野村 隆子
監督、脚本:すぱんくtheはにー

 また、以下の脚本は「作中の時系列」に沿ったものとなっており、各ブロックについている通し番号が「配信された順番」となっております。
 ぜひ、映像版とテキスト版を合わせてお楽しみください(映画評本編は11分頃からです)。

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 あのね、めちゃくちゃ最高だったの。『コワすぎ』の集大成としてはもちろんのこと、ホラー映画としても。あのね、ストーリー部分を追っていくと超スペクタクルな面白い作品なんだけど、ちょっと落ち着いて考えると「あれ? これもしかして……ものすごいノロイをこっちにぶつけてない?」って気がつくわけですよ。
なんというか作品に入り込んで楽しんだ分だけ、そのノロイが降りかかるって言うか。フィクションの壁を貫通してこっちに襲いかかってくる、って言うか。とにかくめちゃくちゃ恐ろしい作品でした。まず見てて楽しいし、すっげー興奮する場面があるんだけど、そういった観客にノロイをかけてるって意味でこれは完璧なホラー映画でもありました。

 しかしこれどっから話せばいいのかな。まずはあらすじからいくのがいいかね?
3人組の男女が怪奇映像を撮るために、そのなかのひとりが提案した廃墟、というか廃工場みたいなところに行くのね。そこで奇妙な現象に合い、最後には全身に血を浴びたような「赤い女」に刃物で追い回される。しかもその女は、どう考えてもテレポートしてるとしか考えられない移動を繰り返して襲ってくる。
 なんとか命からがら逃げ出した3人は、その時の映像を心霊ドキュメンタリー作品を多数手がけている工藤というプロデューサーの元に送る。それを見た工藤は「この赤い女捕獲したらよぉ、劇場版にしてガッポガッポだろ! なぁ!」と勢い込んで、市川ディレクターとカメラマン田代、そして投稿者である3人と共に、霊能者を引き連れてその廃工場へと向かうのであった……ってお話なんですね。

 で、実際その赤い女が登場して襲いかかってくるんだけど、そこで不思議な現象が起こるわけ。
 うお……マグカップ倒れちゃった。まぁいいや。
えーと、工場の中にいたはずなのに、いきなり全然違う建物の廊下にワープする。しかもその廊下をどんだけまっすぐ走っていっても延々と同じ場所に出てしまう。時間もおかしくて、その廃工場に着いたのが昼間だったはずが、いきなり真っ暗な夜になっていたり、かと思えばさっきの廊下を走ってるときはまた昼間になっていたり。

 つまりは時間や空間が全部メチャクチャになっているわけですよ。場所もいきなり変わる、日時さえ安定しない。過去の世界にいきなり飛ばされたりもして、本当に時間の概念がぐちゃぐちゃに引っ掻き回されてしまうわけ。
 で、ここからネタバレしていくからね? いい? 大丈夫ね?
 最初に怪奇映像を撮った3人組、工藤たちに映像を送った人たちね。実は「この廃工場で怪奇現象が起こる」って話を持ちかけたひとりは、前にもこの場所に来ていたことが判明するんですよ。
それがなんでわかったかって言うと、時間を飛ばされるなかでその「1回めの訪問」が起きた時にたどり着いてしまう。そこでは投稿者のひとりと、別の友人が明らかにデートっぽい雰囲気でそこにやって来てるのね。で、なんか軽くイチャイチャしてるところに全身黒尽くめの男が突然あらわれる。
 この廃工場に行くことを提案した投稿者は、過去に戻ってその場面に直面して、その男を見た瞬間に怯えだし「コイツだ」って言い出す。実は1回めの訪問時に、その黒尽くめの男は投稿者である女とその彼女を強姦していた、ってことが語れるんですよ。

 それでその過去に起こった出来ことで投稿者の彼女は妊娠してしまい、行方不明になる。だからこの廃工場にもう一度やって来たのは、その行方不明になった彼女を探すためだったの。
そして実は投稿者たちに襲いかかって来てた「赤い女」が、その行方不明になった彼女だということも判明する。その黒尽くめの男に犯されて妊娠した彼女は、その憎しみによって半分”あっちの世界”、まぁこの世とあの世の狭間にいる存在になってしまったのね。それでこの危険な場所に投稿者を近づけないために、襲うふりをしていた。
 まぁその意図は伝わらずに結局、投稿者たちは怪異に巻き込まれてしまうわけだ。それでも過去に戻ったのをチャンスとばかりにその男を殺そうとするんだけど、ソイツは手からうねうねとした電波ミミズを召喚して投げつけることで、片っ端から返り討ちにしちゃうのね。
その結果、投稿者の3人+霊能者が殺されてしまう

 で、そうやって工藤たち以外が殺されてしまったところに、霊能者の師匠である玉緒ちゃんが登場するわけですよ!
見た目は完全にヤンキーの(ギャルというより鉄パイプぶん回すその姿は、こっちの表現の方が合ってる気がするのよねw)玉緒ちゃんなんだけど、その力は本物で。それで玉緒ちゃんと、あと半分あっちの世界の住人になってる「赤い女」の力を借りて、もう一度その結末を覆すために、時間を戻してやり直そうとするわけですよ。

 それでね、そのとき玉緒ちゃんが話しかけてくるわけ。どこにかって、そっちだよ、そっち! この配信を見てるお前。そうお前だよ! ……って感じでw
つまりは観客席に向かって言葉を投げかけてくる。いわく玉緒ちゃんたちだけでは時間移動するには力が足りないと、だからお前たち観客も「あいつらを助けたい」って願って応援してくれ! ってことなの。
 あれ? 入り口でミラクル江野くんライト貰ったっけ? って思うぐらい、完全に「映画プリキュア」のノリなんだけどw でもそこで「時間や次元なんてもんは関係ねぇ! それが力になんだよ!」って玉緒ちゃんに言われたら、もう信じるきゃないわけですよ。
しかもここまで散々、時間や場所がグッチャグチャになってる映像を見せられてるから、なんとなく「そうなのかもな」って気分になる。だって私、実際に見ながら「がんばれっ、がんばえーキュアタマコちゃーん!」って心のなかで応援してたもの……まぁそれって「罠」みたいなもんなんだけど。

 それで再び黒尽くめの男と対峙することになるんだけど、そこでこの男の正体が「工藤」だってことが判明する。ただそれは、いまこうやって一緒に行動してる工藤プロデューサーじゃなくて、「別の次元、別の世界の工藤」なのね。
ここまで工藤は、めちゃくちゃなことをやるけど、それでも死んじゃった投稿者たちを助けたいと思って行動するような人間で。多少は暴力的で倫理観がおかしいところもあるけど、それなりに善性もあるキャラクターとして描かれているわけ。一方で黒尽くめの工藤は、平気でレイプもするし人も殺す、しかもなんか黒い電波ミミズを操る邪悪な力を身に着けている。
 ここまで見てきた工藤プロデューサーの「悪い部分」が強化されたら、確かにこの黒尽くめの工藤になるかもな……って納得感があるわけ(過去の『コワすぎ』『超コワすぎ』シリーズを見てる視聴者ならなおさらそう思う)。そして時間とか空間とかがグチャグチャになってるこの世界では、そういう別の世界で成長してしまった黒尽くめの工藤が、そうやって次元の壁を突き抜けて襲ってくる

 それって要は工藤の中にある暴力性への批判であるんだけど……その黒尽くめの工藤に対峙する工藤プロデューサーは「お前は俺がブッ殺してやる!」って言い放って、金属バットで殴りかかるわけよ。
ここが凄いところで。黒尽くめの工藤が持つ暴力性を否定しながら、同時にそれを撃退するために「暴力」って手段が行使されている。暴力に対抗するためには別の暴力を持ち出すしかない、っていう図式が生まれているのね。それは「力は使い方次第」なんて生易しい話なんかじゃなくて、私たちはいつだって誰かを傷つけることができる、その生き物全部が持ってる暴力性からの逃れられなさを描いてるわけですよ。
 目の前で工藤プロデューサーが黒尽くめの工藤をボコ殴りにするシーンで、私は「よっしゃー! いっけぇぇっ!」て思っちゃう。人が人を殺そうとする暴力に興奮して応援してしまう。それはもしかしたら別の世界で、「平気で他人をブッ殺してしまう自分」になっている可能性なわけ。しかもその存在が次元を突破して、いまこの世界に生まれていることすら示唆しているわけじゃあないですか。
 『コワすぎ』シリーズって、工藤の発揮する暴力性が楽しい面というのは絶対にあって。それを「楽しめる」私たちに対して、「いつお前がそういう人間に(あるいはもっと最悪な人間に)なってもおかしくないんだぞ」っていうことを、今回は突きつけている。これを告げることで、『コワすぎ』シーリズが完結するっていう意図と誠実さがね、本当に素晴らしと思うんですよ。

 それでね。最後、赤い女の産んだ赤ちゃんである「まぁくん」。この「まぁくん」は胎児が巨体化したような異形なんですけど。そのまぁくんが、黒尽くめの工藤を食べてしまう。これでめでたしめでたし……と思ったら、その「まぁくん」が増えて世界中をめちゃくちゃにしてしまう災厄へとなって、人類壊滅しました。ってオチで話が終わるのね。
 そう言われてみれば黒尽くめの工藤に犯された人は、最初「この世界なんてブッ壊してみせてよ!」とか叫んでて、赤い女はその人のために活動してたんだから、そりゃあ世界はブッ壊されるよなぁ。まさに戦慄怪奇”ワールド”じゃん、という変な納得を覚えてしまう終わりだったんだけど。
でも思い出して、玉緒ちゃんは「時間や次元なんてもんは関係ねぇ!」って言って、確かに私たちの願いや応援は次元の壁を突破して、玉緒ちゃんたちに力を与えていたじゃない。
 それが一方通行だなんて、誰が決めたんだ?

 これが冒頭に言った『ノロイ』なんですよね。つまり私たちの祈りが次元を突破するように、そして黒尽くめの工藤が別の世界から移動できるように。
 「まぁくん」の存在が、次元を貫通して、こっちの世界にやって来ない”はずがない”じゃない。

 それは私たちの願いが玉緒ちゃんたちの力になった、なって”しまった”ことによって、逆説的に証明されているわけですよ。つまり『戦慄怪奇ワールド コワすぎ』は、そうやって私の世界が地獄になることを

 ん? え、なに? 停電?
 配信止まって……ないね。なんだろう、明かりだけ消えちゃっ。
 あ、戻った。なんだったんだろう?

 うぉ、え、誰? なに? ひっ!
 ぎゃっ。なになにな、い゛っ。
 痛い痛い痛い、やめ、う゛、ひっ、助け

 繋がった!? 上手くいったの!?
 逃げて! いますぐ逃げて! この配信、最後まで見ちゃだめ!
 信じらんないだろうけど、いまは一週間前、じゃなくてえっとこの時間だと一週間後の25日で。私はいまそこから話しかけてて……あぁ! もう! わかって、お願い!
 死んじゃう、みんな死んじゃうから。本当に……やだよぉ、みんな死んじゃうから。死んじゃったらイヤだから、いますぐ画面を閉じて!
 あいつらに見つかったら、捕まったらおしまいだから。逃げ場なんて無いから。
 あぁもう来た! いい、こっから先は見ちゃだめ、みんな、みんな死んじゃうから。
 早く逃げて、お願い!

禍具魂

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 次回は『プリキュアオールスターズF』評を予定しております。


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