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【読書感想文】コメンテーターってなんだ?と考えさせられる『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』


突然だが、この数か月間で私が見聞きしたことがらを脈絡なく並べてみる。
 
※    博士号を取得して数年後、理系の研究者となった熱意ある人と話していたら「この職に就けたのは運とタイミング。ポスドク時代は出口のないトンネルにいるみたいだった」と語っていた
 
※    仕事現場の人が「この国では文系の研究をしながら稼ぐのは大変だ」と愚痴っていた。
 
※    文系の大学院出身の「研究者」の言論のトーンがある時点から攻撃的になった。以来、一部界隈から熱狂的ファンを得ている。
 
※    「学者」を広辞苑で調べる。「①学問にすぐれた人」「②学問を研究する人」とある(つまり、②の意味なら気軽に名乗れる可能性がある)

 
繰り返すが、特に脈絡はない。 

■『孤闘』とは?

話変わって、先日、調べごとがあり図書館に出向いたら「本日、返却されました」コーナーで『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎)を見つけた。話題性にひかれて読んでみたので、ここに感想を書きなぐっておく。
 
著者の西脇亨輔氏は、同著の執筆時はテレビ朝日局員(現在は退職)。
 
発端は2019年。西脇氏が公にしていなかった夫婦関係のプライベートなことを「国際政治学者」の三浦瑠麗氏が、当時のTwitter(現X)でつぶやいたことだ。
 
多数のフォロワーを持つ三浦氏のつぶやきが瞬く間に拡散されたことで西脇氏はダメージを受け、訴訟を起こす。
 
相手は、テレビ朝日の老舗番組に出演する花形コメンテーター。社内の風当たりが厳しくなったとしても、壊れそうな自我を保つために必要だったとその経緯をつづる。
 
司法試験に合格して司法修習を修了している西脇氏は「自分で自分を弁護する」という決断をし、プライベートのありったけの余力を訴訟に注ぎこむ。その行動力は狂気じみているが、本著の文脈から推測するに、狂気を自家発電して、その狂気に突き動かされることで生きていることを実感したいような心境だったのかもしれない。

■なぜ、三浦氏はメディアに引っ張りだこだったのか?

一方、訴えられた「国際政治学者」の三浦氏。
 
同著で詳らかにされた裁判で使用された書類の内容を見ていると、「なんでこの人あんなにテレビに出ていたんだろう」の謎を構成するカケラが少しだけ見えてくる。
 
「何を研究しているか」よりも、誰かにとって都合のよい発信をできること、堂々と“言い切る”ことができること、シンプルなことを複雑に仕立てて話すこと、メリットを享受できる人間関係を構築できること。本著を読んでいると、こうした資質で仕事を増やし、「学者」として活躍の場が増えていたのではないか……ということを連想させる。
 
過去に三浦氏が「国際政治・外交論文コンテスト」で「自由民主党 総裁賞」を受賞したときの4500文字の論文(というより小論文)を読んでみた。「日本人の生き様」という言葉を多用しつつ、語尾は「他ならない」「であるべきだ」といった断定が目立つ。内容としては、類似のカテゴリで、モンテネグロの首相が埼玉大学生時代に日本語で執筆して留学生部門の部で受賞した論文のほうが具体的で読み応えがある。
 
ちなみに、以前レビューした夫婦問題をテーマとする本には三浦氏の章がある。

そこでは社会学者やカウンセラーのように著者の夫婦問題を批評していたのが印象的だった。

堂々と語ると正しそうに聞こえるから、専門外の領域にも踏み込んで欲しいとオファーがあるのかもしれないし、そのようなトーンを必要とする人や組織があるのかもしれない。

■『孤戦』を読んでなぜ絶望したか?

一方で、冒頭の事柄のように、地道な研究活動が評価されるかどうかわからないまま、暗いトンネルにとどまる人もいる。仮に、何かを深く研究してきたように「見せる」のが得意な人がもてはやされるのだとしたら、この国のニュース番組や書籍の企画の立て方に絶望感を覚える
 
そして、この本を読んでいてちょっと落胆したのが、とある憲法学者の名前が三浦氏サイドから出てきたことだ。ラジオ番組での語り口から勝手に好感を持っていたが、この本を読んで、勝手に幻滅した。
 
その学者は法知識を用いて作った「盾」(意見書)で三浦氏をサポートする。しかし、その「盾」は、見せかけは強いがその実、強度偽装したような内容だった。西脇氏は「盾」の弱点を徹底研究して「矛」(ほこ)を研ぎ澄ます。この章(第4章)の著者の行動力と忍耐力が、すさまじい。はっきりいって、狂気である。(この学者が誰か気になる方は本著を読んでみることをおすすめする)
 
西脇氏は「今世での幸せはあきらめた」とつづるが、「狂気」を別の「気」にシフトさせ、ささやかな幸せを得ることを自分に許せるようになって欲しい。


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