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修士論文の要旨を振り返る。

優秀論文として大学の紀要に掲載することも出来たが断ったもの。

理由は、ここで研究を辞める予定がなかったからである。

満足した時点で私の研究人生は終わる(笑)

タイトルは、
 
日本中央競馬会と天皇賞:「日本型競馬事業」の成立と課題 

である。

当時、様々な先生方に謎の公共政策論文として突っ込まれまくった内容。

とりあえず特殊法人・日本中央競馬会の研究といった体裁。

キーワードは、

現代社会論 近代競馬 組織 日本資本主義 天皇制 メディア・イベント

であった。

私は、謎の組織JRAの研究を公共政策と政治思想の方法で分析した。

以下、実際の要旨。
 
 2012年に日本中央競馬会(JRA)主催で行われた「近代競馬150周年記念事業」は、まさに現代社会を象徴する出来事であった。近年、度重なる不景気の中で窮地に立たされているJRAは競馬のGⅠレースの1つである「天皇賞」を用いて組織の再生(=売上回復)を企図した。同年、天皇賞を含めた日本近代競馬史に関するイベントは膨大な数に上り、季節を問わず全国各地でさまざまな企画が展開された。また、その大トリとして登場した10月28日の天皇賞(秋)は実に7年ぶりの天覧競馬(現行の天皇賞になってから史上2度目)となり、当日行われた「東日本伝統馬事芸能」(福島県の「相馬野馬追」と岩手県の「チャグチャグ馬コ」)と共に盛況を博した。
だがその一方で、JRAにとって「天皇賞」とは一体どのようなレースなのであろうか、という素朴な疑問も浮かび上がってきた。そこで筆者は日本競馬事業におけるレゾンデートルとしての「天皇賞」に着目し、主として山田盛太郎『日本資本主義分析』の論理を用いて、現行の競馬事業の基底部分(「日本型競馬事業」)の解明を試みることにした。「日本型競馬事業」とは筆者による造語である。その意味は“競馬事業における競走体系の根幹を「天皇賞」に定めることにより、政府、JRA(農林水産省所管)、業界関係者の3者が、競馬社会に形成している密接な協力関係”のことである。「日本型競馬事業」という用語で定義づけられる事業の性格としては、我が国特有の封建的な諸要素が挙げられるが、本研究ではこれを再評価すると共に競馬の国際化時代にも対応できる新たな「日本型競馬事業」の創出を提言した。
第1章では、研究についての問題意識、先行研究、分析の枠組み、論文の構成について述べた。
第2章では、現行の日本競馬事業について、2012年にJRA主催で行われた「近代競馬150周年記念事業」をもとに検証した。また、本章では近代競馬150年の歴史を簡単に振り返ると共に、近年の2回にわたる天覧競馬の様子を概観した。分析の結果、「近代競馬150周年記念事業」は度重なる不景気の中で売上減少に苦しむJRAが天皇賞を中心として行った競馬のイメージ戦略であることが分かった。また、当日の天覧競馬の様子はD.ダヤーンとE.カッツ(1992=1996)のいうメディア・イベントや坂本(1988)のコートシップ・ドラマに見られるような特徴を有し、さらにそれは佐藤(1993)のいう「私」欲をもたない空虚な存在である天皇を日本社会の中心にすえる、という伝統的な近代日本社会の構図を反映したものであった。
第3章では、我が国における競馬事業のレゾンデートルとしての「天皇賞」の歴史を辿った。「古式競馬」の時代も含めれば、天皇による競馬は1300年以上の伝統を誇っている。古代の競馬は権力者の娯楽として宮廷や寺社などで開催された。また、中世以降になると武人や一般大衆の文化としても競馬が振興されるようになった。一方、「近代競馬」は欧米列強との不平等条約締結により横浜・神戸に移住していた居留外国人の手によってもたらされた。近代競馬における天皇賞は政治・外交のツールの1つとして設置され、明治新政府の目的である不平等条約改正や馬匹改良増殖(軍馬育成)を出発点に「Mikado’s Vase Race(天皇花瓶競走)」、「Emperor’s Cup(帝室御賞典)」、「平和賞」、「天皇賞」とその歩みを進めてきた。
第4章では、現在の特殊法人であるJRAの中で、天皇賞は一体どのような役割を果たしているのか。JRAの構造と歴史を見た後で「天皇賞」を中心にすえる現行の日本競馬社会の構造、すなわち政府、JRA(農林水産省所管)、業界関係者の「政官財のトライアングル」(=「日本型競馬事業」)を考察した。その結果、JRAの成長の要因は政府による減反政策と農林行政に主導された中央集権型の組織による管理競馬、業界関係者を取り巻く緩やかな国際化の進展の中で形成されたことが明らかとなった(無論、人口と景気も関わっている)。また、その始原は古く、戦前の日本競馬会における宮内省下総御料牧場と小岩井農場による半封建的な競馬事業の時代にまで遡ること(軍部、日本競馬会、財閥に加え皇室の保護・振興)が分かった。
 第5章では、競馬の国際化と「日本型競馬事業」の課題を分析した。近年、競馬の国際交流が著しく盛んになっている。これに伴い、競馬社会の生産構造も質的に大きく変化している。言うまでもなく、競馬の国際化の時代を迎え、国内生産者保護を目的としていた「天皇賞」も大きな変容を迫られている。そこで本章では国際社会の中でサスティナブルな競馬社会実現を目指し、これまで日本社会の中で歴史的に育まれてきた天皇賞の持つ文化的特徴を最大限に引き出す政策を提案した。

であったのだが、今となっては未熟さを感じる。

またJRAの売上はこの事業をきっかけに2012年から10年連続で売上が上昇した(コロナ禍による巣ごもり、景気の回復に加え近年ではウマ娘ブームも起きた。ただし人口動態分析によれば、2025年から「馬券購入者減少社会」に突入する予定であり(「サラブレ」)、改革次第では売上増が頭打ちになる危険性も孕んでいる)。

参考文献:
「日本中央競馬会と天皇賞:「日本型競馬事業」の成立と課題」修士論文
(法政大学大学院公共政策研究科)
→当時は東大・京大・一橋、早慶の公共政策分野に博士課程がなく、私は本研究科の一期生となった。指導の先生は東大の博士課程編入学を勧めたので、出戻りで東大の総合文化研究科(出来れば本郷キャンパス)か京大の人間・環境学研究科を選択することに・・・。東大は以前の指導教員が定年退職していたこともあり、選択肢には入らなかった。聞いてみたら予想通り誰も教えられる人が居ないと言われた。京大は「(ひとまず)環境は与えます。出来ればホームラン打って!勝手に頑張って下さい。失敗しても(人生の)責任はとりません!」=「やれるものならやってみろ!精神」(傾向としては指導教官問わず)なので私には向いていた(笑)

「馬券の売上回復に景気は関係していない!?経済アナリストが予測する2017年以降JRA馬券売上の推移」『サラブレ』2017年2月号も為になります。

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