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〈読書メモ〉グレゴワールと老書店主/マルク・ロジェ 藤田真利子 訳

〈あらすじ〉

老人介護施設で働き始めた青年グレゴワールは、居室で本に埋もれるように暮らす元書店主の老人に出会い、無縁だった本の世界に足を踏み入れる。身体がきかなくなってきた老人に朗読を頼まれ、彼の道案内に従い、サリンジャーからジュネまで様々な本に出会い、虜(とりこ)になっていく。老人は青年に読書の喜びだけではなく、友情、愛情という人との関係性の大切さも伝えた。青年の成長と、老いの真実についても考えさせる味わい深い傑作。


〈感想〉

小学生の頃音読の宿題が出された。
ページにすると見開きページ。1行20字以内。小学生向けだから声に出しても1分以内で終わる分量だ。
本好きでも何故かこの宿題は好きになれなかった。文章といえば物語があるものと捉えていて、幼い頃の私には説明書のように味気ないものだと考えていたのだと思う。

しかしこの本はその概念をひっくり返した。
老人ホームで働く青年グレゴワールは、パーキンソン病で緑内障のミスターピキエと出会う。
老人の部屋は四方が本で囲まれている。元気な頃は書店を営んでおり、入所するに当たり厳選された本が部屋に詰持ち込まれたらしい。
ミスターピキエに気に入られたグレゴワールは彼のために朗読を始める。
短編小説から始まり、長編、詩、ノンフィクションに禁断の書(エッチな本)……グレゴワールの朗読会は施設内でも話題になり次第に入所者へのイベントになる。
朗読の回数が重なる毎に、若人の姿はベッドに横たわる老人の人生をなぞっているように映った。

物語が進むに連れ、次第に私もグレゴワールと共に口を開き同じ文章を読み上げる。
あれ?目で追うだけでは拾えなかった風景が、感情が見えてきた。

同時にLemonの歌詞が頭をよぎり、声に出して読み上げた。前者はミスターピキエに、後者は青年グレゴワールに。

忘れたものを取りに帰るように
古びた思い出の埃を払う
Lemon/米津玄師
暗闇であなたの背をなぞった
その輪郭を鮮明に覚えている
Lemon/米津玄師

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