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<多重空間を最大限に活用する 支柱のデザイン>


<多重空間を最大限に活用する 支柱のデザイン>

自然農といえども、原産地ではない風土で育てるということは「不自然」のように思えるかもしれない。しかし農という営みは彼らにとって自然な状態を整えてあげることで、彼らにとっても人間にとっても都合の良い関係性を築いていく協働作業だとも言えるだろう。

そこで人間が手を入れて管理するときに考えることは二つだ。それは「彼らにとって自然かどうか」と「畑の空間を最大限に生かす」こと同時に考えてデザインすること。そのデザインの中で支柱は重要なつなぎ目を果たしてくれる。

マメ科は「ジャックと豆の木」の物語のイメージのように、ツルを上に上に伸ばしていく性質がある。そのため、支柱は垂直90°を好む。コンパニオンプランツとして栽培する場合はメインの作物が十分に育った頃に、タネを蒔くか定植する。時間差を利用することでチッソ固定の恩恵も大きくなるし、マメ科がメインの作物より育ちすぎてしまう心配がない。またツルムラサキやヤマイモも同様に垂直に巻きついて伸びていく。

農家なら誰でも知っているように、カボチャは法面のような斜面で勝手に育っていることがある。どうやらウリ科は緩い斜面があるとそれを登るようにツルを伸ばしていく性質があるようだ。また斜面に自生するベリー類も似たような角度を好む。

太陽の恵みを受けるためには面積とともに角度が重要な役割を担う。温帯地域では斜度30°が一番太陽光を効率的に吸収できる。斜面は水が下に下に流れていくため、適度な乾燥を保てるのも理由だろう。ただし、畑では30°の支柱とネットで栽培しようとすると、ネットの下の草刈りが難しい。

そのため水はけがよく畑の面積が広いなら、支柱は必要ない。水はけが悪い、もしくは畑の面積が狭い場合は支柱に這わせるほうがよい。角度は45~60°程度がちょうどよい。90°に近づくと身体と実を支えるために茎を太くしようとして養分が多く必要になり、収量が減ってしまう。それを防ぐために元肥や追肥を考えても良いが、養分過多になるとツルボケで収量が減ってしまう。そのバランスを掴むまでは研究と実践が必要となる。

ナス科のトマトは原産地では乾燥が強く雨が少ない気候で、地面に這うようにして暮らしている。ウリ科植物のようにグランドカバーの役割を果たしている。しかし、日本では雨の多さから支柱を使って栽培するのがトマトにとって都合がよく、自然である。トマトを地面に這わせようとして育ててみるとわかるが、茎を伸ばすときにシャチホコのように少し上に反る。原産地ではこうやって他の植物の上に茎を伸ばしてそのまま倒れて押さえつけて、光をしっかりと受けて育っていく。その性質を利用して支柱の角度は45~60°にする。90°でも構わないが、ウリ科同様茎が太くなって収量が減ってしまう。またミツバチは45°の角度に向かって飛ぶ性質があるので受粉しやすい。

支柱は空間を最大限利用できると同時に畑の通気性を良くしてくれる、さらに見栄えが良くなるし、作業もしやすくなる。ただし夏の台風や冬の北風など強い風に対して受け流すようなデザインでないと、支柱が倒れてしまって野菜が死んでしまうこともある。そのため合掌造りを中心とした丈夫な支柱を組むことも大事だが、風を受け流す畝のデザインも大事だ。

また支柱の向き、つまり植物のツルや茎が伸びる方向は南もしくは西が自然。植物は太陽が昇ってくると地上部の成長を進め、太陽を追いかけるように伸ばしていく性質がある。その性質に合わせて支柱の向きをデザインすると共に、定植時には苗の様子を見て、伸びようとしている方向を合わせてあげよう。

資材は竹が手に入りやすく、見栄えも良いのでオススメだが、日本の竹は建築材にあまり使われないように、腐りやすい。そのため1年で取り替えることになる。また木材も容易に手に入り、加工ができるなら使っても良いだろう。針葉樹を利用し、土に直接触れないような工夫があれば丈夫で長持ちする支柱が作れる。もし、使いやすい資材が手に入らない場合はホームセンターに売っている支柱で十分だ。耐久性もあり、畑に合う色で使いやすく、組みやすいなどメリットが多い。

日本のように雨が多く湿気が高く気候では、多重空間を利用することは生産効率を上げるばかりではなく、通気性を良くし病虫害対策にもなる。デザインと聞くとついつい見た目の可愛らしさや斬新さに囚われてしまうが、大切なことは「彼らにとって自然かどうか」であって、それ無くしては収穫量も上がらなければ無駄な作業が増えるばかりだ。ましてや自然農とは呼びづらいだろう。外見は可愛らしく人気があるが、実際に住みはじめると暮らしにくい家が最適なデザインではないように、人間の好みではなく彼らが数ヶ月間住むのに最適なデザインを考えたい。


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