中尾佳貴 よしきんぐ

千葉県出身、島根県在住 タネを蒔く旅人、木を植える木工家、原生林ガイド、パーマカルチャ…

中尾佳貴 よしきんぐ

千葉県出身、島根県在住 タネを蒔く旅人、木を植える木工家、原生林ガイド、パーマカルチャーデザイナー 「自分自身とつながる」「自然とつながる」「社会とつながる」 の3つをテーマにした講座を全国で開催 現代農業 2022年から定期的に「自然農」について寄稿 漫画「ザッケン!」監修

最近の記事

<定植の作法>

<定植の作法> いよいよ定植のタイミングが近づいてきたとしても、焦りは禁物だ。野良仕事には季節のタイミングがあるように、野菜たちもまた最適なタイミングで畑に移してあげたい。 天気予報を細かくチェックしながら、1週間くらい前から温床のビニールを外して外気にしっかり触れさせておこう。また夏野菜は低温障害に合わないように最低気温に配慮したい。イネ科ウリ科は最低気温が10度以上、ナス科は15度以上が理想的だ。もちろん地温にも配慮したい。 定植前には底面給水を最低でも2~3時間ほ

    • <大地を最大限に活用する 根圏のデザイン>

      <大地を最大限に活用する 根圏のデザイン> 狭い面積で多種多様な植物を栽培する家庭菜園では、コンパニオンプランツを活用して畝の上を全て野菜やハーブだけにする方法がオススメだ。マルチをうまく利用すれば、雑草の草刈りの頻度も量も減るし、食卓に並ぶ食材の栄養バランスも整い、見た目の美しさも増す。もちろん、無農薬・無肥料栽培の助けとなる。 コンパニオンプランツにおいてのよくある失敗例や活かせていない事例は、その組み合わせではなく根圏を意識していないために起こる。生物多様性の力を引

      • 多機能性がパーマカルチャー 緑肥

        <多機能性がパーマカルチャー 緑肥> 「自然農を理解しているかどうかは通路を見れば分かる!」 主に緑肥はイネ科とマメ科の植物を利用するわけだが、通路にはイネ科植物の方が適している。では、マメ科植物は使わないのか?というと、やはり使う。 畝の中央に野菜を植えて、その間にコンパニオンプランツとして枝豆やインゲンなどの青い豆で食べるものを植えることで面白いことが起きる。 マメ科植物は根っこでチッソ固定菌と共生して、茎葉の主成分であるチッソ(化合物)をたくさん蓄えてくれる。イネ

        • 間を大切にする自然農 緑肥

          <間を大切にする自然農 緑肥> 「土を裸にしない」これは自然農を実践する上で重要な教えのひとつである。多くの人はこの教えの通りに、畝の上を草マルチやワラマルチで覆っていることだろう。 しかし実は、畝の上と同じように重要なのは通路の土を裸にしないことだ。それはなぜか。答えはシンプル。なぜなら野菜にとって畝の上も通路も同じ大地だから。そこに本来、境目はない。 実際に野菜の根は通路の方まで伸びてくる。もし根が伸びた先の通路が固く締まっていたら、空気もなく水はけが悪いせいでそこで病

          <多重空間を最大限に活用する 支柱のデザイン>

          <多重空間を最大限に活用する 支柱のデザイン> 自然農といえども、原産地ではない風土で育てるということは「不自然」のように思えるかもしれない。しかし農という営みは彼らにとって自然な状態を整えてあげることで、彼らにとっても人間にとっても都合の良い関係性を築いていく協働作業だとも言えるだろう。 そこで人間が手を入れて管理するときに考えることは二つだ。それは「彼らにとって自然かどうか」と「畑の空間を最大限に生かす」こと同時に考えてデザインすること。そのデザインの中で支柱は重要な

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          耕すはテクニックだ

          <耕すはテクニックだ> え?自然農なのに耕すんですか?とよく聞かれる。最近では土壌を耕すと生態系を破壊すると批判される。しかし考えてみてほしい。人類が農耕を始めて1万年間ずっと耕してきたのに、どうして人類は発展し続けてきたのか。耕すたびに生態系が破壊されるのなら、もうとっくに人類は絶滅しているはずだ。 農家が大型機械を使って毎年のように耕すにも訳があるし、昔の人々が毎年耕しているにも訳がある。これは自然農に限らず、家庭菜園を成功させる上でとても大切な話である。 農家は浅耕

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          モンスーン・サバンナ文化とスリーシスターズ

          <モンスーン・サバンナ文化とスリーシスターズ> ホモ・サピエンスが森林から旅立つと森林の周縁にはサバンナが広がっていた。地球の寒冷化にともなって森林は縮小し、代わりに広がっていたのが乾燥した大地、サバンナだった。そこにいち早く適応し、進出したのがイネ科植物で、それを追いかけるように微生物と協力関係を発達させた草食動物が進出する。イネ科はそれに対抗するかのように茎葉は岩石の主成分であるケイ素を身に纏い、種子には硬い殻でコーティングし、種子内部に豊富な栄養分と自然毒を溜め込むこ

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          三つの断捨離 引き算の思想

          <畑の哲学>三つの断捨離 引き算の思想 自然農を実現するためには捨てなくてはいけないことが三つある。それを三つの断捨離という。 ひとつ目は土の断捨離。過去に肥料や堆肥が施肥されていれば栄養過多となっているから徹底的に抜き取る必要がある。栄養過多は必ず虫と病気を呼ぶ。 特に動物性堆肥の影響は大きい。十年経っても影響が残り続けて、ヨトウムシなどの害虫が居続ける。 養分を吸い上げる力が強い緑肥やシソ科、ソバなどを栽培して畑の外に持ち出すか、焼いてしまうなどする必要がある。 そ

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          自然遷移(植生遷移)の物語

          <自然遷移(植生遷移)の物語> 自然攪乱や人間による開発で裸地となった場所にまず一年草が生えて成長し枯れては土となる。その養分を利用して多年草へと切り替わり同じように枯れては土となる。その繰り返しが低木類を育て、低木類が作り出した土で落葉広葉樹などの陽樹林が育ち、最終的には常緑樹などの陰樹林へと植生が遷移していく。この植生の流れを自然遷移または植生遷移という。 日本の場合、人間が何もしなくても裸地は数年後には成長が早い一年草の草が茂り、さらに数年後には多年草となり、30年ほ

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          西洋と東洋の自然観の違い

          <畑の哲学>西洋と東洋の自然観の違い 自然は常に正しい、誤りはもっぱらわれわれ(人間)にある というのはドイツの詩人ゲーテが残した言葉。 ゲーテは大学時代に自然科学全般を研究したのち、劇作家や小説家、政治家・法律家としても活躍した人だ。 さて、この言葉には西洋の世界観が見える。 俗に言う二元論だ。 西洋科学は自然と人間を分離して考える。 わかりやすいのが植物の分類法である「~~科」だ。 植物の分類はリンネによってなされた一大事業だ。 植物をアブラナ科、セリ科、ナス科な

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          パーマカルチャーと自然農の誕生

          <世界観の違い>パーマカルチャーと自然農の誕生 パーマカルチャーでは食べられる森やフォレストガーデンのことを「発達した森」と呼ぶ。しかし、自然農を実践する人たちは同じ森のことを「若い森」と呼ぶ。これは決して勘違いや考え方の違いではない。この違いこそ、育った環境の自然遷移の違いである。 ビル・モリソンはオーストラリアで行われていた大規模面積で行われていた肥料や農薬を使用した単一作物栽培によって、畑が疲弊していき塩害被害や地下水枯渇など作物が育たなくなるばかりか、周辺住民や野生

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          天道花と天道虫

          <季節行事の農的暮らしと文化 4月 天道花と天道虫> 卯月の8日は天道花を掲げる風習が中国・四国地方を中心に西日本各地で見られる。もともとお釈迦様の誕生日を祝う行事であり、地方によっては旧暦の卯月8日(5月8日頃)に行うところもある。 竿の先にウツギ、ツツジ、シャクナゲなどをくくりつけて高く立てて、お釈迦様もしくはお天道様に対して掲げる。 また家の玄関などに花瓶をかけて、花を立てるところもある。 これらの花を天道花とか日輪花とかいう。これは名の通り日の神様に捧げたもので

          ただの生き物を尊重しているか? 微生物

          <ただの生き物を尊重しているか? 微生物 > 菌根菌が自然農において重要な役割を担うことが科学的に証明されてから、この菌を大量に散布したり、さまざまな資材を使って畑で増やそうと励む人も多い。しかし勤勉で真面目な人ほど、こういった視野の狭い手段にはまってしまう。 菌根菌とは糸状菌の一種である。そして、野菜の病気の8割を占めるカビ菌もまた糸状菌である。さらに、それぞれの植物によって共生する菌根菌は違うことがわかっている。アカマツと共生する菌根菌はマツタケだけであるように、一種に

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          自然界に肥料をもらっている植物はいない

          <自然界に肥料をもらっている植物はいない>土壌微生物たちと私たち 農家は口を揃えて「肥料をあげないと育たない」いう。しかし、雑草や森林の樹木など肥料をもらって育っている植物の方が圧倒的に多いのが事実だ。ではいったいどうやって自然界の植物たちは栄養分を獲得しているのだろうか。 ~チッソ固定菌と硝化菌~ 植物が体内に持つ栄養素のうちチッソはそのほとんどを占め、茎葉を作るための栄養素である。 チッソは空気中の約70%以上も占めるありふれた元素だが、私たち生物のほとんどが直接利用で

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          土着菌を生かせ!

          <土着菌を生かせ!> 個人的には栽培方法はなんでも良いと思っている。あなたにとって畑にとって適切な栽培方法なら、作業時間も少なく収量も十分に得られる。 でも、いろんな畑を見学させてもらってきて分かることは自然農(自然栽培)が一番虫食いがなく、土が臭くない。これは私の好みだが、味は間違いなく一番うまい。 堆肥作りと土作りは似ているようで全然違う。有機栽培者は堆肥は作れるが、土は作れない人が多い。そして、初心者の多くは堆肥作りを学んでしまったが故に土を理解することがない。それ

          「いいか?人間が手を入れたら最後。もう人間は間違えてはいけなくなる。」

          <畑の哲学>「いいか?人間が手を入れたら最後。もう人間は間違えてはいけなくなる。」 と昔、自然農を教えてくれた師匠が言ったことがある。 正直、どういう意味か全然わからなかった言葉だが 最近とあることで急に思い出し、やっと理解できた。 人間がタネを蒔く。 もう、この時点で自然界ではありえないところにタネが蒔かれてしまう。 人間が温床で、ポットで育苗する。 自然界では起き得ないタイミングと場所で発芽する。 人間が定植する。 自然界ではいるはずもないところにその野菜が登場す

          「いいか?人間が手を入れたら最後。もう人間は間違えてはいけなくなる。」