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土着菌を生かせ!


<土着菌を生かせ!>
個人的には栽培方法はなんでも良いと思っている。あなたにとって畑にとって適切な栽培方法なら、作業時間も少なく収量も十分に得られる。

でも、いろんな畑を見学させてもらってきて分かることは自然農(自然栽培)が一番虫食いがなく、土が臭くない。これは私の好みだが、味は間違いなく一番うまい。

堆肥作りと土作りは似ているようで全然違う。有機栽培者は堆肥は作れるが、土は作れない人が多い。そして、初心者の多くは堆肥作りを学んでしまったが故に土を理解することがない。それが自然農への切り替えを難しくしてしまっている。

動物性堆肥はツルボケがひどく、虫食いがひどいので作業時間は多いのに収量は大したことがない。そして、土が臭い。土がどんどん固くなり、病気が蔓延しやすい。

慣行栽培は土が無臭だが、味はなく、経費がかかる。作業時間自体は短いが、肥料と農薬は意外と重くて大変だ。土はどんどん疲弊していって、肥料と農薬は手放せなくなる。

植物性堆肥は一見良さそうだが、適正量を間違えると虫食いが多い。堆肥も未熟なものが入ってしまうと病気が一気に蔓延してしまう。土の中に入れる際は要注意だ。

微生物堆肥は自然農に一番近いが、一番遠いとも言える。なぜなら微生物を活用した農法という点では近いのだが、菌の種類は全然違う。植物性堆肥との違いもここが大きい。

自然農とは土着菌と野菜に共生関係を結んでもらう農法、つまり土着菌農法、土着菌に育ててもらう農法だ。土着菌とはその土地、その畑に住み着いている菌のことで、畑が変われば、土着菌も変わる。

植物性堆肥でも、動物性堆肥でも、微生物堆肥でもそこには微生物が住み着いている。それをあなたの畑に持ち込んだとき確かに野菜を共生関係を結ぶことがある。しかし、その微生物が必ずその畑に住み着くとは限らない。いや、おそらくほとんどその畑に住み着くことはないだろう。微生物はもっとも多様に満ちた生物だが、環境の好みはとても激しい。
そのため土着菌は畑が変われば変わるほど、その畑に適した菌の集まりとなり、いきなり遠くからやってきた菌では適さないからだ。どんなに科学的に有効な微生物だとしても、遅から早かれ土着菌たちに取って代わる。だから、堆肥や微生物資材を使用する農法では定期的に施肥が必要となる。

継続購入、継続施肥が必須になってしまう。それでは結局作業時間は減らないし、施肥し続けると虫食いが多くなり、施肥しないと収量が減る。人間の手間が減ることはない点では慣行栽培とあまり変わらない。

自然農はこの土着菌をあらゆる方法で育てる。土着菌はあなたの畑の土の中に、植物の表面に、昆虫の体内に住み着いている。だから、草を刈り、草マルチをするのだ。ときに近くの落ち葉を使うこともある。その場合はできるだけ近くの山から持ってくる。もし、近くに神社があればそこが良い。神社は昔から土着菌が豊かな場所に建てられたからだ。

私は自家製の育苗用土を作るときや、自家製の堆肥を作るときも畑の土を入れる。畑に生えている雑草を、周りに生えている雑草を、近くに落ちている落ち葉を使う。土着菌と共生関係を結ぶことができれば、もう外から何かを持ってくる必要はない。ときに草を刈り、その場に戻してあげるだけで勝手に育つようになる。どんどん楽になる。楽になればなるほど豊かになる。

一般的な堆肥作りでは発酵を促すためにあらゆる微生物を投入する。
また、早く分解してくれる微生物に頼ってしまう。だから、微生物に偏りが生まれる。ときに高温にしてしまうことで偏りが強くなる。それを土に使えばその偏った微生物群が中心となるために、土の中の生物多様性は阻まれる。

科学的な研究によって良いと断定された菌でも腸内に大量に入れれば、腸内環境が荒れてかえって体調が悪くなるだろう。代わりに食物繊維が豊富な食材や発酵食品で腸内を整えるように、自然農では何か特別な微生物を外から持ってくるのではなく、そこにいる土着菌にエサを与えて育むことで生物多様性を育む。

自然農における土作りは微生物だけではなく、雑草や昆虫たちの力を借りる。確かに時間はかかる。しかし、ゆっくり確かに土の中の生物多様性が育まれていく。その土地に住む微生物と昆虫たちが野菜たちと共生関係を育む。共生関係とは人間社会でいう信頼関係と同じだと思う。
つまり、ゆっくり育むほど深くつながるということだ。

外から何かを持ってくるのではなく、内ににあるものを磨くこと。
それが自然農という適正技術なのだ。土着菌を育むことが一番効率的であり、理にかなっていて、あとあと楽チンになる。無為自然の世界には必要不可欠な視点である。

天地返しで地表面の土を地下深くにいれたことや育苗用土に畑の土を入れたのは、この土着菌を活用するためだった。もう一つオススメの方法が、土のステージ3に生えてくる雑草を土ごと畑に移植することである。その雑草と土はできるだけ畑から近くのものにし、その土地の小勇者もしくは管理人にきちんと声をかけて行おう。ひと畝に対して両手で収まるほどで十分だ。いきなり大量に持ち込んでも、大地の環境を荒らすだけになりかねない。あくまでもほんの少し助けてもらうつもりで利用したい。

この土着菌にはあなたが持っている微生物も含まれる。だから、素手で作業したり、裸足で歩いたり、畑でおしゃべりをする。そうやって自分とともに生きている微生物と土着菌が共生関係を結び、情報交換をすることで畑で採れる野菜はあなたの健康面で完璧な食材となる。

アナスタシアはタネを蒔くときに裸足になって、口の中にタネを入れてから、大地に蒔く方法を説明しているが、もしかしたら土着菌と体内の常在菌のコミュニケーションを促しているのかもしれない。

面白いことに土中内に生息する菌根菌などの微生物の仲間は私たちの町内にも棲んでいて、免疫システムや精神状態に深く関わっていることが最近の研究で分かってきた。もしかしたら、私たちの腸内の微生物と土中内の微生物は連絡を取り合っているかもしれない。

よくよく自然を観察してみれば、人間だけが野菜を洗って加熱して食べている。他の生物たちは土がついたまま食べているし、毎日お風呂やシャワーを浴びることもない。ましてや服も着ていない。土中内の微生物を身体中に住まわせて、体内にも取り入れている。

自然農の畑の土は食べられるほど美味しいし、良い香りだ。実はどの畑に行っても、土の匂いを嗅ぐようにしている。ぶっちゃけ管理している人の話を聞くよりも土の匂いの方が多くのことを語ってくれる。

人間にとって都合の良い微生物が放つ香りは、人間にとって良い香りをする。だから、自然農の畑はその畑によって香りが全然違う。しかし、面白いことに全ての畑で良い香りがするのだ。

ワインのソムリエはぶどうの栽培地の土を舐める。その土の味がワインの風味に現れるからだという。味噌や醤油を昔ながらの製法で作っている職人たちも同様に、大豆やコメが育った土の味が発酵させると漂うという。

作物が畑の土から生まれるのだから、作物にはその畑の土の味が詰まっていると考えるのはおかしくないだろう。風土が人を育てるように。

自然農の畑で育った野菜には味付けがいらない、とよく言う。塩だけで良い。味噌があれば十分。さっと湯通しで、素揚げで。よくそう言う声を聞く。
私としては「味付けするのがもったいない。野菜が持つ味を十分に生かしたくなる」。土着菌が生み出す風味を大切にしたくなるし、それが飽きない。

あなたの土の味はどんな味がしますか?それがあなたの野菜の味を決めている。それは蓄積していって、あなたを作っている。


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