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ゆっくり急げ 日本人はどうして勤勉なのか


<ゆっくり急げ 日本人はどうして勤勉なのか>

農家にとって、春は一年で一番忙しい季節だろう。
田舎でのんびり農をして暮らそうと移住してきた人は誰もが春の忙しさに驚いているはずだ。春の長閑な風景は初春のみである。

畑作業の多さもその一因だが、この季節ならではの山菜の収穫も欠かせない。山菜はタイミングを逃すと味も食感も落ちる。
すぐに調理をする必要もあるし、アク抜きなどの作業も多いし、多くを保存食に回せることもあり、やることは山ほどある。

タイミングは宇宙の賜物だ。だから、地球も自然も待ってはくれない。地球が太陽の周りを止まることなく、進むように。地軸が23.4°傾いているため、温帯地域でははっきりとした四季がある。さらに日本は四方を海に囲まれ、列島の中央には高山が立ち並び、空には四つの気団が勢力争いをする世界でも稀な地域のため、春と秋の美しさと流れの速さは世界でもトップクラスだ。

特に春分を過ぎてから、だいたいゴールデンウィークあたりまで春の草花は日に日に姿を変えていく。夏の風が吹く頃にはその変化は終りを告げて、山菜も季節がいったん終わる。梅の花が咲き、桜の花が散り、山菜の天ぷらが食べ飽きると一気に梅雨となってしまい、時の流れの速さに驚くだろう。その間にしかできないことがたくさんある。

だからといって、焦る必要もない。地球が急にスピードを速めることもない。忙しく動き回ってしまっては感じられない豊かさがたくさんあるのだ。同じように地球が後戻りすることもない。振り返ることはあっても、それは次の一歩のため。

この春の季節になると、自分の田舎暮らしの力不足を感じることがある。田舎にはなんでもできるスーパー百姓のおじいちゃんおばあちゃんがたくさんいるからだ。尊敬すべきその方達も田舎素人の私たちと同じように初めは何にもできなかった。両親や祖父母たちにひとつひとつ学んでいったのだ。日本人が勤勉なのは四季の流れの早さゆえに、食の旬が短く、適期適作のタイミングも短いからだ。

日本でも沖縄の人たちがゆっくりしているのは四季の変化がゆっくりの暖かい地域に暮らしているからである。赤道に近くなればなるほど、四季の流れは遅くなる。

田舎でゆっくり暮らしたい。slow foodだと訴えても自然の流れは変わらない。今すぐにやれることは限られている。今年挑戦できなかったことは、来年挑戦すれば良い。今年失敗してしまったことは、来年成功すれば良い。

ただ自分の前にある道を最善を尽くして一歩一歩、進みゆくだけでいい。持っているものを出し惜しみすることなく。一歩一歩進むことでしか、たどり着けないところがある。

だから、ゆっくり急げ。そうやっていつも、言い聞かせている。

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