農業関係の技師。本が好き。ジャンルとかは気にせずなんでも読むタイプ。日本の南の方に住ん…

農業関係の技師。本が好き。ジャンルとかは気にせずなんでも読むタイプ。日本の南の方に住んでいます。 読んだ本の感想とか思うことなど書き綴っていきたいです。よろしくお願いします。 ※感想文なのでネタバレはご容赦ください。

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  • 読書感想文集

    読んできた本の感想文たち。

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    日々思うことなどを綴っています。

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平和は不安定で尊い―『西部戦線異状なし』

 8月15日。およそ四年間にわたった太平洋戦争が日本の敗戦により終結した日。  同時に世界規模の「大戦」は、この日を境に今日に至るまで発生していない。  しかしながら、この「平和」という状態は、当たり前にあるものではなく、不断の努力によるものだと感じる。私自身は右でも左でもない。そのような「政治的な思想」を持てるほど政治に詳しくないからだ。ただ「平和であり続けてほしい」と願うだけだ。  平和であることの尊さは「西武線異常なし」という本とその後の世界情勢が物語っている。 ※写真

    • 都市と国家と人間と―『人ノ町』

      タイトル:人ノ町 著者:詠坂 雄二 新潮文庫nex刊 ・あらすじ 文明が衰退し、崩れ行く世界を彷徨する旅人の物語。  行く先々の町がそれぞれの章になっていて、町ごとに様々な物語が紡がれていく。  「風」を信仰する町で「無風」を願うという禁を破った研究者が殺されるのを目の当たりにし、別な街では犬という愛玩動物を通して『野生』と『社会』を隔てるものとは何なのかを問うなど、作者なりの独自の解釈が展開される。  やがてそれら独自の解釈は終章でまとめられていき、やがて作者独自の「人類

      • 「救済」とは何か―『終末少女 AXIA girls』

        タイトル:終末少女 AXIA girls 著者:古野まほろ 光文社刊 ・あらすじ 突然始まった「世界の終わり」。黒い海が大地を沈め、無数の「口」が全てを食らいつくしてゆく。孤島に逃げついた少女たちは、それでも海のかなたに無数の「口」を見た。  次第に近づく音が大きくなっていく中、「漂流者」を助けたことから嘘と裏切りに満ちた殺し合いが始まってしまう。  孤島に「口」が迫る中、最後まで「生き残る」ものはだれか、そして「救い」とは何なのか。サバイバルミステリーに哲学的なファンタジ

        • 不条理の中で〈いま〉に向き合う―『錦繡』

          タイトル:錦繡 著者:宮本 輝 新潮文庫刊 ・あらすじ 夫の不貞が発覚した事件によりお互いに愛情がありながらも離婚した夫婦。10年後、偶然同じゴンドラに乗り合わせたことで文通を交わし始める。最初から最後まで互いの手紙によって物語が進行していく。  はじめは事件の真相、不倫をした理由について、お互い手紙でぎごちないやり取りをしていたが、やがて過去の出来事が現在に暗い影を落としていることに気が付く。  それから、お互いが過去にとらわれて、〈いま〉に目を向けることを忘れていること

        平和は不安定で尊い―『西部戦線異状なし』

        • 都市と国家と人間と―『人ノ町』

        • 「救済」とは何か―『終末少女 AXIA girls』

        • 不条理の中で〈いま〉に向き合う―『錦繡』

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          14本
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          音楽が織りなす人生―『夜想曲集』

          タイトル:夜想曲集 著者:カズオ・イシグロ 早川書房刊 ・あらすじ 「音楽」をめぐる5つの短編と、そこで語られる人々の人生の断片。  音楽家たちが主役のそれぞれの物語は、おもに「人と人の間の不和(特に夫婦間)」を主題としている。特に一編の『老歌手』では、妻に対して歌を送ることで「愛している」と告げながらも結果的に別れることになった。  また、二編『降っても晴れても』ではお互いが、相手に対してもっといい人になるはずだ、と期待していながら、自分では自分自身に見切りをつけている。

          音楽が織りなす人生―『夜想曲集』

          「コミュニケーション」の中を生きる。

          ・はじめに 読書感想文とあわせて、日々の中で感じたことや思ったことを書き綴っていたので、今回からそれも書いていこうと思います。 ・感覚をいだく 例えば、ドヴォルザークが作曲した 「交響曲第九番第二楽章 新世界より」(通称「家路」) を聞いて、「言葉にできない」郷愁のような、懐かしい思いにかられるのは私だけではないはず。この曲は、当時「新世界」だったアメリカへ渡った作曲者が、故郷への思いを込めて作曲したそうだ。私たちは彼が感じたその思いを「感覚として」抱く。  このように

          「コミュニケーション」の中を生きる。

          「現実」の不確実性―『氷』

          タイトル:氷 著者:アンナ カヴァン ちくま文庫刊 ・あらすじ 地球規模の気候変動により、次第に氷に侵食され、終わりを迎えようとしている世界。  その中にあって主人公は少女の家へと車を走らせる。しかし少女は姿を消し、彼女を探すため主人公は某国へ潜入する。そこで同様に少女を追う絶対的権力者、「長官」と時に対峙し、時に対話しながら、やがて少女と再会した。  しかし少女はその生い立ち故に奔放な性格で、求めれば拒絶し、分かれれば縋る。  その間にも氷は世界を飲み込もうとしている。イ

          「現実」の不確実性―『氷』

          「不条理」のなかで―『ペスト』

          タイトル:ペスト 著者:カミュ 新潮文庫刊 ・はじめに 今回の感想文は、本書で描かれた主題である「不条理」について書こうと思う。  理由としては、この本は、昨今「新型コロナウイルス」で話題になった。偶然私は、それよりも前に本書を読んでいて感想をしたためていた。  そこで、感想文を書くにあたって、今回の「新型コロナウイルス」下の社会についても総括的に絡めて新たに感想を書き直すか迷ったが、未だに完全に終息したとは言えない状況にある。  そのため、今回は主題であり、カミュが生涯を

          「不条理」のなかで―『ペスト』

          「探究者」達の群像―『日の名残り』

          タイトル:日の名残り 著者:カズオ・イシグロ 早川書房刊 ・あらすじ 第二次世界大戦が終わり、これまでの貴族の時代から資本主義経済の時代へ急速に変わっていった1950年代が舞台。  かつて名家に仕え、永い間「品格」ある執事の道を探求してきたスティーブンスは、新しい雇い主から小旅行を提案された。長い間屋敷から出ることのなかった彼は、イギリスの美しい景観を走るうち、いくつもの思い出がよみがえっていく。  彼の目線で淡々と語られるそれらの出来事は、彼自身の心の葛藤を表すだけでなく

          「探究者」達の群像―『日の名残り』

          還らざる若鷲たちへの鎮魂譜―『白菊特攻隊』

          タイトル:白菊特攻隊 著者:永末千里 光人社刊 ・あらすじ 機上作業練習機「白菊」(K11W)―最大230km/h足らずの飛行機が、大戦末期に250kg爆弾二発を搭載し、体当たり攻撃を刊行するという悲劇を、誰が想像できただろうか。  実際に「神風特攻隊・八洲隊」に配属され、終戦間際まで特攻命令が下るのを待った筆者が、当時の雰囲気、先に逝った仲間などの回想を交えながら大戦末期の悲惨さ、優秀な若者たちの命を兵器に変えて犠牲にした悲劇をつづった回想録。 ・感想本文冒頭に『艦隊参

          還らざる若鷲たちへの鎮魂譜―『白菊特攻隊』

          現実を直視することができず、不安に駆られて人々が動けば、最悪の結果に陥る―「女王陛下のユリシーズ号」と「戦艦武蔵」

          ・新型コロナウイルスの中で 写真は五月上旬、仕事の都合で通りがかった商店街を映した一枚。外出自粛が盛んに言われていた頃、普段は活気にあふれているこの場所が、閑散としていた。このように一人一人が危機感をもって外出を控える行動をとったことで、接触機会が減り、現在までこの町では深刻なパンデミックが起こらなかったと思われる。(もちろん、まだ危険が去ったとは到底言えないので、第二波、第三波にそなえて新しい生活様式を続ける必要はあると思う。)  しかし同時に、トイレットペーパーなどが足り

          現実を直視することができず、不安に駆られて人々が動けば、最悪の結果に陥る―「女王陛下のユリシーズ号」と「戦艦武蔵」

          神秘性を纏った巨艦は、虚しく水底へ沈んだ―『戦艦武蔵』

          タイトル:戦艦武蔵 著者:吉村昭 新潮文庫刊 ・あらすじ戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作。 ・感想 超弩級戦艦「武蔵」完成までの一大プロジェクトを、秘密兵器であるがゆえに秘匿と、かつてない最新鋭の技術のために粉骨砕身努力した人々の姿を描いた熱いドキュメンタリーが胸に残った。鋼鉄製の艦が、人を「強い責任感に支配される」ほどの神秘性を纏うほどになり、大きな期待を背負って抜錨した。  だが、既に

          神秘性を纏った巨艦は、虚しく水底へ沈んだ―『戦艦武蔵』

          大言壮語で人は動かない―『女王陛下のユリシーズ号』

          タイトル:女王陛下のユリシーズ号 著者:アリステア・マクリーン 早川書房刊 ・あらすじ 舞台は北極海。氷点下の寒さの中、海水が瞬時に氷片となって男たちの顔にたたきつけられた。・・・が、地上戦で苦戦しているソ連へ向けて物資を輸送するために、大英帝国海軍の名誉にかけて、不撓不屈の男たちの海軍魂は燃え上がり、ドイツ軍の激しい攻撃に命を捨てて立ち向かった。 ・感想 物語の最初で、乗組員が反乱を起こし、それを鎮圧することから始まるのは衝撃的だった。極寒の中、未だに優勢を誇るドイツ軍

          大言壮語で人は動かない―『女王陛下のユリシーズ号』

          真の幸福とは「足るを知る」?―『〔少女庭国〕』

          タイトル:〔少女庭国〕 著者:矢部 嵩 早川書房刊 ※写真はイメージです。 ・あらすじ 中学校の卒業式に向かっていた仁科羊歯子(しだこ)は、気が付くと暗い部屋に寝ていた。部屋にはドアが二つあり、こちらから開けられるドアには「ドアの開けられた部屋の数をn、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ」という奇妙な張り紙が。彼女がドアを開けると、同じように臥せっている少女が目を覚ました。次の部屋も同じ。そしてその次の部屋も・・・。誰か一人を生き残らせるという結論に至り、彼

          真の幸福とは「足るを知る」?―『〔少女庭国〕』

          だれも"時代"からは逃げられない。―『氷菓』

          タイトル:氷菓 著者:米澤穂信 角川文庫刊 ・あらすじ 何事にも積極的にかかわらないことをモットーとする主人公・折木奉太郎。だが、高校入学と同時に姉の命令で『古典部』に入部させられる。  そこで出会ったのは、好奇心旺盛な少女・千反田える。彼女の強い頼みで、失踪した伯父がかかわったという三十三年前の事件の真相を推理することになり・・・やがてほろ苦い真実を知ることとなる。 ・感想  著者の基本的なスタンスである「救いのない真実」を見事に描き切った傑作。デビュー作でもあるので

          だれも"時代"からは逃げられない。―『氷菓』

          はじめまして!

           皆様、はじめまして。  多読というほどではありませんが、読書が趣味です。  読んだ後に「こういうメッセージがあるのではないか」と自分なりにノートに書き綴っていたのですが、ほかの人はどんな書評を書いているのか気になり、交流したいとおもって、はじめました。  また、日々思うことなども日記に書き留めていたのですが、発信することで形にしたいと思っています。  よろしくお願いします。

          はじめまして!