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現実を直視することができず、不安に駆られて人々が動けば、最悪の結果に陥る―「女王陛下のユリシーズ号」と「戦艦武蔵」

・新型コロナウイルスの中で

 写真は五月上旬、仕事の都合で通りがかった商店街を映した一枚。外出自粛が盛んに言われていた頃、普段は活気にあふれているこの場所が、閑散としていた。このように一人一人が危機感をもって外出を控える行動をとったことで、接触機会が減り、現在までこの町では深刻なパンデミックが起こらなかったと思われる。(もちろん、まだ危険が去ったとは到底言えないので、第二波、第三波にそなえて新しい生活様式を続ける必要はあると思う。)
 しかし同時に、トイレットペーパーなどが足りなくなる、というデマによって不安を感じた人々は買い占めに走り、しばらくの間本当にトイレットペーパーが不足する事態となってしまった。

・「女王陛下のユリシーズ号」と「戦艦武蔵」

 一昨日から昨日にかけて、私は上記の二冊の本の感想を書いた。
 実はこの二冊は、一冊目(ユリシーズ号)の訳者があとがきで「戦艦武蔵」を紹介したために続けて読んだという経緯がある。
 その紹介文は「『戦艦武蔵』を読み終わった後に、読者の頭に残るのは戦艦「武蔵」という鉄の塊であろうが、本書(ユリシーズ号)を読んだ後の読者は巡洋艦「ユリシーズ号」で戦った血の通った人間たち一人一人が頭に残るだろう」というものであった。
 確かに、二冊を読み終わった時私も同じ感想を抱いたが、それと同時に今の状況に通じるメッセージを感じた。

・単純な感情に人は動かされ、現実に即していなければ犠牲は増えていく。

 「ユリシーズ号」の中で、「もっと単純な感情が、彼らを動かすのだ。・・・戦わなければ殺される。」という一節がある。今回の場合も、外出自粛にせよトイレットペーパー不足にせよ、「自分が感染してしまうかもしれない」という思いが各々にあって、それが引き金になっていい効果も悪い効果も引き起こしたのではないのかと思う。一言でいえば「不安」が私たちを動かした。
 
「戦艦武蔵」の中では、当時の脅威であった「大艦巨砲主義」を前提に建造され、完工した時点で時代はもう航空機が主導権を握っていて、「格好の標的」になってしまった武蔵はあえなく沈んでいった。「時代が変わった」というほどではないが、トイレットペーパー不足も、「本当は通常時の需要に見合っただけの生産ができている」という現実が見えなくなって、買いだめがおきてしまった。

・まとめ

 私たちは本当は、大局的に見たり後から振り返ってみると、単純な感情に動かされて行動したり、明らかにおかしいとわかっていながら不安に駆られて現実が見えなくなってしまい、良くない結果を招きがちなのかもしれない。
 しかし、一人一人が危機感をきちんと自覚して行動した結果、接触機会が減り、感染者数が増加することをおさえられたことは、良い結果を残したことに他ならない。
 「不安」といった単純な感情が行動の原因ならば、「現実」を直視してどのような行動をとることが良い結果にたどり着くのか、それを落ち着いて見極められることが「理性」いうものなのかもしれない。

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