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古民家を買いました

昨年のゴールデンウイークに帰省していた時、父が生まれ育った西日本の山あいの小さな城下町で、築百年くらいの古民家が売りに出ているのを見つけた。半年悩み、昨年末に私はそれを購入した。

江戸時代には参勤交代の殿様行列が通っていた旧街道沿いの、間口たった二間の小さな町家。市役所の人によると、おそらく大正後期に建てられたものだろうとのこと。何十年も空家だったけれど、幼いころその家で暮らしていた元持主の方の手入れのおかげで、今も昔の風情を残している。ただし、古い瓦が今にも崩れて落ちてきそうな、危険な状態だ。

超有名な観光地ではないけれど、歴史的な町並みは、国の「伝統的建築物群保存地区」に指定されていて、私が購入した建物も「特定物件」として、古い写真などに残る当時の外観を復元しなければならない。役所手続きなどは相当ややこしいらしく、物件を扱う不動産屋さんからは「3年くらいかけて取り組むつもりなら、いいと思いますよ。」と言われた。

ちょっと怖気づいたけれど、そもそも私は昔から古民家再生というものに憧れていた。テレビ番組「大改造!劇的ビフォーアフター」の大ファンでもある。せっかく巡り合ったご縁を逃してはいけない気がしたし、大変で面白そう!という、好奇心と挑戦意欲がむくむくと湧きあがってきた。

そんな私を見て、オットは「実にキミらしいね。」と感想を述べたあと、「じゃあ、ここで暮らしてみようよ。」と言ったのだった。

西日本に生まれ育ち、関西で大学時代を過ごし、就職で関東にやってきた私。今はオットとワンコと都内で暮らしている。極めて便利で快適だし、今の環境は気に入っている。だけど、ある時ふと思った。ここを終の棲家にするならば、両親がどちらか一人残されてしまった時はどうしよう。決して広くはない集合住宅で一緒に生活するのは、ほぼ不可能だ。ふたりとも元気なうちは良いけれど、急に事態が変わったら、きっと慌ててしまうだろう。

備えあれば憂いなし、と、住み替え物件を探したりと色々検討してもみた。でも都会の住宅コストは高く、実現可能な解はなかなか見つからない。考えてみれば、離れて暮らす高齢の親御さんに会うために頻繁に地方に通っている知人は大勢いるのだ。

私の父は転勤族で、購入した古民家のある町は、私が生まれ育ったところではない。子供の頃は、祖母たちに会うために毎年訪れていたし、今は両親が住んでいる場所だから、いわゆる帰省先だ。けれど、そこに幼馴染の友達がいるわけでもなく、生活基盤となるつながりはゼロである。住むとなれば、UターンというよりもIターンというか、地方移住的な感覚である。まっさらな状態から新たに生活を立ち上げていくことになるわけだ。40年近く別々の生活をしてきた両親とは、同居よりむしろ近居のほうが、うまくやっていけるかな、という気もした。

今、私はこれまでの自分の選択肢にはなかった道を進もうとしている。人生前半は、頂上と信じた場所を目指してひたすら山を登るような気分だったけれど、50代半ば過ぎてから、どこを目指して降りていこうかを、改めて考えるようになっていた。勝間和代さんのコトバで言えば「人生のカウントダウンで計画を立てる」モードに変わったのだ。

人生の時間は有限なのだから、やりたかったことは、今すぐ始めよう。…というわけで、古民家再生プロジェクトの、はじまりはじまりー。


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