〔民法コラム16〕損害賠償の範囲


1 416条の理解

⑴ 問題の所在

 契約の不履行により、損害が思いもよらぬ範囲に拡大していくことがある。そのうちどこまでを債務者に賠償させるかという問題がある。民法はこの問題につき、416条を設けている。416条は1項で「これによって通常生ずべき損害」につき、2項で「特別の事情により生じた損害」につき、それぞれ規定しているが、416条がどのような意味を有するかが明らかでなく問題となる。

⑵ 相当因果関係説

 416条は、相当因果関係が認められる範囲の損害の賠償を定めたとみるべきであるとする見解である。そして、相当因果関係が認められる範囲の損害とは、債務不履行により現実に生じた損害のうち、そのような債務不履行があれば一般に生じるであろうと認められる範囲の損害を指す。
 すなわち、①416条1項は相当因果関係の原則を表明したものであり、②416条2項は、債務不履行と相当因果関係が認められる範囲の損害を確定する際に、通常起こり得る事情のほかに判断の基礎とすべき「特別の事情」の範囲を示すものであるとされる。
 なぜなら、事実的因果関係(自然的因果関係)のある全損害につき賠償しなければならないとすると、あまりにも債務者に酷な場合が生じ、当事者間の公平を図るという損害賠償の趣旨にかえって反するからである。
 ドイツ民法を背景とする相当因果関係理論に対しては、416条の沿革(イギリスの判例に由来する。)にも、条文の文言にも反するとの批判があるが、受験上、まずは従来からの通説である相当因果関係理論をマスターすべきであろう。

⑶ 特別損害の予見可能性

 相当因果関係説からは、416条2項の特別事情の予見可能性につき、その予見可能性は誰にあればよいのかという「当事者」の解釈、及びその予見可能性はいつの時点で必要なのかが問題となる。

⒜ 予見する主体の「当事者」

 相当因果関係説において、「特別の事情」に予見可能性を要求する趣旨は、債務者が予見し得ないような事情により生じた損害につき、責任を負わせるのは酷であるということにある。
 この趣旨からすれば、債務者が予見し得たか否かが問題となるのであり、相当因果関係説における予見する主体の「当事者」は、債権者・債務者双方を意味するのではなく、債務者を意味すると解される。

⒝ 予見可能性を判断する時期

 相当因果関係説からは、契約時に予見し得なくとも、債務不履行時にその特別の事情を知り得た以上、責任を負わされても、債務者に酷ではない。
 そのため、相当因果関係説において予見可能性を判断する時期は、契約締結時ではなく、債務不履行時と解される(大判大7.8.27百選Ⅱ(第8版)[7])。

2 損害賠償額の算定基準時

⑴ 概論

 目的物の価格が変動している場合、どの時点における目的物の価格を基準とすべきかという問題である。これには様々な判例があり、損害賠償額の算定基準時についての判例をまとめると、次のようになる。

⑵ 契約が解除された場合

 解除時の時価を基準とする(最判昭28.12.18百選Ⅱ(第8版)[8])。

⑶ 履行不能となった場合

 ①原則として、履行不能時の時価を基準とする。
 ②しかし、目的物の価格が騰貴しつつあるという特別事情があり、かつ、債務者が履行不能時にその事情を予見可能であったときは、騰貴時の時価を基準とする。
 ③ただし、騰貴前に債権者が目的物を他に処分したであろうときには、②は適用されない。
 ④目的物の価格がいったん騰貴し、後に下落したときは、騰貴価格(中間最高価格)による賠償を請求するためには、②のほかに転売等により騰貴利益を確実に取得することができたであろうことを債務者が予見可能であったことが必要である(実際に転売により利益を得ていなくても、予見可能性を条件に騰貴価格を基準とすることができる。)。
 ⑤ただし、現在も騰貴中のときは④の適用はなく、②の要件で足りる。

⑷ 履行不能ではなく、かつ、解除もされていない場合

 本来の給付を請求しつつそれが執行不能の場合で、填補賠償を求める訴えがなされているときは、口頭弁論の終結時の時価が基準となる。

[重要判例]
・大判大7.8.27百選Ⅱ(第8版)[7]
・最判昭28.12.18百選Ⅱ(第8版)[8]
・最判昭37.11.16判時327号33頁

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